私たちは、常に評価の目に晒されて暮らしています。「いいね!」という言葉にも、「おまえを評価してやる」という意味が含まれています。人間関係が希薄になる中で、裁きの目を浴びている。今、あなたに必要なのは、あなた自身を全力で肯定する言葉です。私はコミュニケーション・コンサルタントとして、小学生から政治家までを「言葉の力」で応援してきました。現場で培ったノウハウで、エールを送りたい。あなたを、丸ごと、全力で肯定します。
【第7回】「夢がありません。」
将来の夢がありません。
何をやってもそれなりにこなせるし、与えられた仕事をやることは嫌いじゃないです。
でも、やりたいことがなく、このまま適当に仕事を続けて人生を消化していって大丈夫なのかな?
と不安に思うことがあります。
(秀でない秀男 27歳)
秀男さん、メッセージをありがとうございます。
将来に夢がない。
適当に仕事をしていれば、苦もなく楽もなく時間を消費できるから、問題がないと言えば、問題がない。
しかし、やりがいや生きがいというものがない。
「今日も生き切った!」という手応えがない。
秀男さんの不安、私も会社勤めのときに何度となく感じていました。
文豪芥川龍之介は、自死する直前にこんな言葉を残しています。
「何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安である」
この「唯ぼんやりとした不安」を秀男さんも抱えているんじゃないかな。
これが原因と決められない、「ぼんやり」としか言いようのない将来への不安です。
将来の夢について考える
さて、この不安を解消するために、まずは「将来の夢」について考えてみましょう。
私は、東京板橋区の小学4年生に向けた「2分の1成人式」という授業をやっています。
「10歳のときに、『将来何になりたいか』を考えよう」という内容で、子どもたちにできるだけ具体的に夢を描いてもらいます。
始めた頃は、プロサッカーの選手、学校の先生、トリマーなど私にもよくわかる仕事が並びました。
ところが、コロナ禍以降は、ユーチューバーの数がぐっと増えた。
それも「教育系ユーチューバー」や「ビジネス系ユーチューバー」と細かくセグメントされている。
続いて「eスポーツプレイヤー」「ゲームクリエーター」になりたい人が増えました。
「医者」も多くなったのですが、理由を聞くと、「コロナのような事態になっても食べていける」と答えてきた。
将来の夢が、時代や環境に大きな影響を受けることを目の当たりにしました。
さて、秀男さんは、小学4年生の頃に、どんな夢をもっていたでしょうか。
今でもその夢を実現したいと思いますか?
もし、今でも実現したい!と思われていたら素敵なこと。
しかし、多くの人は、当時と今で夢が違うのではないでしょうか。
私は、それでいいと思う。
当時は、知っている世界も小さかった。
その上、時代や環境の影響も受けていた。
だから違って当然。
夢は、つねに暫定的なもの。
仮にしばらく置いておくようなものだと私は考えます。
だから今日の夢が、明日実現しなくても構わない。
明日には明日の夢があればいいと気楽に考えています。
弔辞で読んでもらいたいこと
しかし、その暫定的な夢すらもてないのが、今の秀男さんではないでしょうか。
器用貧乏がゆえに、なんでもソツなくこなしてしまう。
そこそこの夢を実現できる人は、大きな将来の夢を考えるのが苦手なものです。
私も長く秀雄さんと同じような状態でした。
広告会社で可もなく不可もなく働いていて、「このまま人生は、あっという間に終わってしまうんだろうなぁ」なんて考えていたのです。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。
50代で「がん」を患い、幸いなことに復帰はできたものの、「ぼんやりとした不安」に苛まれたのです。
「このまま、時間を消費しているだけで、いいのか。
せっかく再びもらったこの命を、無駄使いしてもいいのか」と。
そんな時に出会ったのが、ハワイ大学名誉教授の吉川宗男さんでした。
長く哲学を教えていた先生がこんな話をしてくれたのです。
「ひきたくんの葬式のシーンを考えてほしい。
君は自分の葬儀をじっと見ている。
一番の友人が、弔辞を読んでいる。
さて、その時、君は、どんなことを読まれたら嬉しいだろう。
周囲からどんな人だと思われ、何をやった人だと言われたいだろう。
その弔辞こそが、君の夢なんだ。
その夢から逆算して、これからの生活を考えていけばいい」
私は、この言葉に衝撃を受けたのです。
自分のお葬式をゴールにして、人生を考えてみる。
さっそく、これをやってみました。
吉川先生に言われたもうひとつのこと。
「自分の墓碑銘になる言葉を考えなさい」
墓石に刻まれる自分の一生を表現する言葉。
私はこれも真剣に考えました。
「弔辞」と「墓碑銘」。
この2つをリアルに考えることで、私は小学生のような夢から脱し、腹の据わった生き方を手にしました。
秀男さんにもぜひ実践してください。
具体的なことを細々と書く必要はありません。
スティーブ ジョブズなら、「宇宙を凹ませる人になる」と書いたでしょう。
私は、「言葉の力で人を笑顔にした」と考えました。
ぼんやりでいい。
秀男さんの実現したい夢を言葉にしてみてください。
いのちの喜ぶ生き方を
さて、最後にもうひとつ。
日々の生活に夢がなく、無味乾燥な状態が続いている。
そんな秀男さんに、吉川宗男先生の言葉をもうひとつプレゼントします。
「いのちの喜ぶ生き方をする」
どういうことでしょう。
先生は説明してくれました。
「駅で、階段とエスカレーターがある。
エスカレーターを使った方が便利だ。
しかし、そこで考えてみよう。
どちらの方が、いのちが喜ぶか。
階段は大変だけれど、生きていく筋肉や神経のためには、階段を使った方がいい。
ならばそっちを選択する道を選ぶんだ」
これは日々の生活にも応用できます。
「2つの仕事は、どちらがいのちが喜ぶだろうか」
「ここで休むのと、このままやり終えるのと、どちらがいのちが喜ぶだろうか」
こんなふうに「いのちの喜ぶ生き方」を、ものごとを判断するモノサシにする。
その「いのちの喜ぶ」選択が、いくつか集積してきたときに、秀男さんのいのちが喜ぶ本当の生き方、夢が見つかるのではないでしょうか。
自分の時間を大切にね。
秀男さん、ありがとうございましました。
ひきたよしあき
(イラスト 江夏潤一)
連載一覧
- 第1回 あなたを全力で肯定する理由
- 第2回 私は自己肯定感が低いです。
- 第3回 コミュ障です。
- 第4回 コスパの悪い人間です。
- 第5回 ダメ上司です。
- 第6回 本気で人を好きになれません。
- 第7回 夢がありません。
- 第8回 若い子には勝てません。
- 第9回 社畜です。
- 第10回 不寛容な人間です。
- 第11回 老害でしょうか。
- 第12回 母親失格です。
- 第13回 モテない男です。
- 第14回 口下手です。
- 第15回 都合の良い女です。
- 第16回 ネガティブ思考です。
- 第17回 アピールポイントがありません。
- 第18回 妻に怒られてばかりです。
- 第19回 親を大切にできません。
- 第20回 自分、性格悪すぎです。
- 第21回 問題意識が強すぎて疲れます。
- 第22回 向上心がありません。
- 第23回 私は変わるべきなんでしょうか。