私たちは、常に評価の目に晒されて暮らしています。「いいね!」という言葉にも、「おまえを評価してやる」という意味が含まれています。人間関係が希薄になる中で、裁きの目を浴びている。今、あなたに必要なのは、あなた自身を全力で肯定する言葉です。私はコミュニケーション・コンサルタントとして、小学生から政治家までを「言葉の力」で応援してきました。現場で培ったノウハウで、エールを送りたい。あなたを、丸ごと、全力で肯定します。
【第8回】「若い子には勝てません。」
おばさんであると、受け入れざるを得ない歳になりました。皮肉でも自虐でもなく、若い子には勝てません。若いだけで本当に可愛いし、輝いています。間違いなく、若さは武器です。私は武器を失い、今は丸裸です。若さに代わる武器は「図々しさ」です。
(むぎまる 43歳)
むぎまるさん、メッセージをありがとうございます。
もうずいぶん前のことですが、私も40代に入った頃に同じようなことを考えていました。
いろいろたるんでくる。
がんばりが効かなくなる。
開き直る機会も増えた。
朝、鏡の前に立つと、ぎょっとするほど老けこんでいて愕然としたのも、この時期でした。
当時、50代の先輩から、
「40代は、青春の老年期。しかし、50代になると老年の青春期になる。だから、50代は案外楽だ。40代はつらいぞ。50代、60代より老年を感じるはずだ。『若い時代からの決別』の時だからな」
と言われました。
励ましたつもりでしょうが、「若くないことを自覚しろ」と言われているようで、落ち込んだのを覚えています。
きついよね、40代。
占い師の励まし方
40代の頃、私は自分を見失っていて、「占い」にはまりました。
39歳で離婚して、これまで築いてきたものを全て失っていた。
「一体、何が楽しくて生きているのだろう」
と考えると、絶望的な気分になります。
自分が今、どういう状態なのかを客観的に知りたくて、あちこち回って占い師の言葉を聞いていました。
「おままごとのような生活が終わったということ。これからが本当の人生だ」
「あなたは人よりも多くの色が見える。その特性を活かして、写真と文章をいっしょにしたような仕事をするといい」
「大器晩成ですね。しかし、晩成するにはもう少し時間がかかります」
当時、さまざまな占い師に言われた言葉です。
かなり著名な人もいました。
どれもあたっているような、当たっていないような……考えれば考えるほど、わからなくなりました。
年齢マイナス20歳
そんな時、知り合いの占い師がこういう話をしてくれたのです。
「ははは、そりゃ困ったねぇ。みんな、好き勝手言うからね。
ひきたさん、私の占いの秘訣を教えてあげよう。
それはね。年齢から20歳引いた年齢に換算してアドバイスをするんだ。
ひきたさんは、今、40歳だ。20引けば、20歳。ハタチだ。
そこで、こんな風にアドバイスする。
『ひきたさんは、今ちょうど、社会人として成人したようなものです。やっと今、社会人のハタチ。生きていく上での、甘い、からい、苦いがわかってきた。ここから大人としての人生が始まるんです』
とね。60歳の人ならば、20引いて40歳だ。
だから
『あなたは、今、働き盛りですよ。まだ、体力もある。十分な経験もある。今が一番、脂がのっているんです。定年退職でもう人生終わりだ、なんて考えるのはもったいないですよ』
なんてね」
この占い師に倣えば、43歳のむぎまるさんは、今、社会人の23歳になります。
23歳といえば、大学を卒業した頃でしょうか。
楽しい学生生活が終わって、社会人としてデビューする。
不安なのは当然です。
昔を懐かしむ気持ちも起きるでしょう。
でも、もう学生ではない。
若い子は確かに羨ましい。
「あの輝き、あの躍動は私にはもうない」と思う感覚もわかる。
でも、そんなものと比べていても仕方がない。
むぎまるさんの目の先には、社会人23歳からスタートする人生が前途洋々に広がっている。
そんな風に考えてみませんか。
37歳で年齢を止める
別の話をします。
子どもの頃、母が懸賞のハガキを書いているのを見ました。
年齢を書く欄に「37歳」と書いていました。
「うそだ! 41歳なのに!」
と私が言うと、
「おかあさんは、37歳で年齢を止めたの」
と言って笑いました。
以降、母の書くものを見ると、いつも年齢の欄には37歳と書いてあったのです。
以下は母の言葉です。
「自分が何歳になったかなんて気にするのは、人間だけ。
犬は、自分が何歳かなんて、知らないで生きているでしょ。
だったら、自分の好きな年齢で止めればいいのよ。
37歳で止める。
そのあとの誕生日は、年齢を重ねるものではなくて、“自分だけにやってくる特別な記念日”くらいに考えればいい。
年齢になんて縛られることはないでしょ」
私は、母のこの言葉に深い感動を覚えました。
母の教えに従い、私は「19歳」で年齢を止めています。
それは浪人生だった年です。
苦しい時期でしたが、学校をはじめ組織に縛られることがなかった。
「合格」というゴールを決めて、コツコツと努力をした。
その頃の気持ちを忘れたくないと考えました。
母は今年、91歳です。
しかし、健康診断結果は「オールA」で、しっかり歩くこともできます。
多分、心の中は、37歳なのでしょう。
私もいい年齢になってはいるものの、未だに現役の学生たちから流行りの音楽やファッションを教えてもらっています。
大人ぶって、「自分はこれを知ってる」という思いで心を閉ざすことのない、19歳の気持ちで生きています。
むぎまるさん。
年齢なんて、人間が考え出した便宜的なものです。
若い人と自分の実年齢を比べるよりも、自分の理想の年齢を設定して、愉快に生きていく。
そんなことを考えてみてはいかがでしょうか。
年齢を“かっこ”に入れる
しかし、実社会で19歳のように振る舞うのは難しいですね。
これはあくまで年齢に対する考え方の話です。
ならば、普段の生活ではどうすればいいか。
心理学者の河合隼雄さんはこんな方法を語っています。
年齢を“かっこ”に入れる。
年齢を無視してしまうと、人から「いい歳をして!」と言われる。
かといって年齢を意識しすぎると「もう歳だ!」と動けなくなる。
そこで、『むぎまる(43歳)』と年齢を“かっこ”に入れる。
まずは、年齢を無視してやりたいことをやってみる。
失敗したらかっこ内の年齢を眺めて「やっぱりダメだったか」と笑えばいい。
はじめから「43歳だから」と諦めるのではなく、失敗した時の口実に「43歳だからね」と使えばいい。
こんな気の持ちようもあります。
国民の平均年齢が、49歳に迫ろうとしている今の日本。
むぎまるさんは、まだ平均年齢にすらなっていません。
自分の年齢をネガティブに考えるよりも、年齢をうまく使いこなして、暮らしていきませんか。
人生とは、自分で物語を作っていくことなんですから。
むぎまるさんの理想の年齢が決まったら、メッセージでこっそり教えてください。
むぎまるさん、ありがとう。
ひきたよしあき
(イラスト 江夏潤一)
連載一覧
- 第1回 あなたを全力で肯定する理由
- 第2回 私は自己肯定感が低いです。
- 第3回 コミュ障です。
- 第4回 コスパの悪い人間です。
- 第5回 ダメ上司です。
- 第6回 本気で人を好きになれません。
- 第7回 夢がありません。
- 第8回 若い子には勝てません。
- 第9回 社畜です。
- 第10回 不寛容な人間です。
- 第11回 老害でしょうか。
- 第12回 母親失格です。
- 第13回 モテない男です。
- 第14回 口下手です。
- 第15回 都合の良い女です。
- 第16回 ネガティブ思考です。
- 第17回 アピールポイントがありません。
- 第18回 妻に怒られてばかりです。
- 第19回 親を大切にできません。
- 第20回 自分、性格悪すぎです。
- 第21回 問題意識が強すぎて疲れます。
- 第22回 向上心がありません。
- 第23回 私は変わるべきなんでしょうか。