私たちは、常に評価の目に晒されて暮らしています。「いいね!」という言葉にも、「おまえを評価してやる」という意味が含まれています。人間関係が希薄になる中で、裁きの目を浴びている。今、あなたに必要なのは、あなた自身を全力で肯定する言葉です。私はコミュニケーション・コンサルタントとして、小学生から政治家までを「言葉の力」で応援してきました。現場で培ったノウハウで、エールを送りたい。あなたを、丸ごと、全力で肯定します。
【第10回】「不寛容な人間です。」
たとえば、夫と待ち合わせをしていたとき。
遅刻の夫に「今どこ?」とメッセージを送ると「もうすぐ着くよ!」と返事が。
なぜ、質問に答えない……?
夫の居場所に合わせて、こちらが移動できるかもしれない、それも含めての「今どこ?」なのに、「もうすぐ着く」では、私は待つしかない。
しかも「もうすぐ」が30秒後なのか、5分後なのか、15分後なのかもわからない。
たとえば、部下に「書類は完成した?」と質問したとき、「部長のOKいただきました」と返事が。
なぜ、質問に答えない……??
書類の完成前に部長にチェックしてもらいOKが出たのか(つまりまだ完成していない)、完成したものにOKが出たのか、いずれかによって、次にすべき行動が違うではないか。
ストレートに回答してくれないから、私には「回答の意味するもの」を想像する労力が発生し、不必要な質疑を強いられる。
質問に答えない人って、何なんでしょうか。
といっても、人を変えることはできないことも分かっているのです。
だから、こういう人にイラッとしない寛容さがほしいです。
(ヨウカン 35歳)
ヨウカンさん、メッセージをありがとう。
拝読する限り、ヨウカンさんは、「不寛容」には思えませんでした。
「不寛容」というのは、心が狭くて、他の人の罪や欠点を厳しくとがめるという意味です。
文面を読む限り、ヨウカンさんは、ダンナさまに対して「何してんのよ! ちゃんと連絡くらいしなさいよ! こっちはずっと待ってるんだから!」などと責めてはいない。
部下に対しても、非難や悪態をつくことなく、自分が「次に有益な行動ができないこと」にイラついています。
少し生真面目で、常に正しくて、効率的な行動をしたいと考える。
言うなれば自分に厳格な人なのでしょう。
悪いことではないですよ。
自分のことを「不寛容」とレッテル貼りすることはやめた方がいいです。
しかし、世の中、質問の内容にちゃんと答えられない人、たくさんいますよね。
人間関係がSNSで形成され、その上コロナ禍でリアルに会うことを極端に制限された今、発信された情報を汲みとるのが苦手で、相手の言ったことの真意が読めない人が増えていると聞きます。
私の実感としても、質問への解答が舌足らずだったり、ズレることが多々ある。
私もヨウカンさんと同じように、日に何度もイライラしています。
でも、貴重な1日を、こんなことで台無しにするのはもったいないよね。
だから、こうしたイライラを解消するための方法をいくつかご紹介しましょう。
吐く息で、悪感情を排出する
ヨガの先生に教えてもらった、心を浄化する方法です。
イライラ、ムカムカ、カチン、許せない、大嫌い! といった悪感情が吐く息とともに出ていくことをイメージします。
この時に大切なのは、その吐く息が猛烈に汚く、臭く、気持ち悪く、到底体の中に入れておくわけにはいかないものであると意識すること。
汚ければ汚いほどいい。
その先生は、「汚物」と表現していました。
相手の言葉や態度に目を向けるのではなく、「そんなことを抱え込んでいたら、自分の心身が汚れて、こっちが参ってしまう」と考えて、「はぁ〜〜〜」と汚いイメージの息を吐く。
苦しくなって息を吸うと、特に意識しなくても新鮮な空気が体に入る気がします。
浄化された気分になれます。
心理カウンセラーの友人に、「もっと、ため息をついた方がいい。ため息は、無駄な力を抜く一番いい方法なんだ」と言われたこともあります。
多分、悪いものを吐き出すイメージと原理は同じでしょう。
イライラ、ムカムカを、体から追い出す。
吐く息で、これを意識してください。
6秒、待つ
こんな方法もあります。
怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」によれば、「怒りのピークは6秒」と言われています。
「もう、許せない!」と思ったら、「1、2、3、4、5、6」とゆっくり数を数える。
すると怒りが少し収まります。
怒りに油を注いで、さらに怒りだすと止めどなくなる。
怒りの炎で自分を焼いてしまうことになりかねません。
イラっときたら、6秒待つ。
より効果的なのは、「グッパー、グッパー、グッパー」と手を6回開いたり閉じたりする方法。
身体を動かすことに集中することで、確実に怒りのピークを下げられます。
これを教えてくれたのは、とある政治家先生。
罵詈雑言を浴びせられても、どうして平然としていられるのかと尋ねたところ、「気づかれないように、拳を握ったり、緩めたりしているんだ」と教えてくれました。
これを真似するようになってから、私も少しだけ感情のコントロールができるようになった気がしています。
繰り返しますがヨウカンさんは、けっして不寛容なわけありません。
感情のコントロールの仕方さえ覚えれば、イライラもきっと少なくなるはずです。
息でイライラを吐き出すことをイメージする。
グッパー、グッパーと手を握る。
こんなコツを生活に取り入れてみてください。
3フレーズ話法で明確な答えを受け取る
さて、最後にズレたり、舌足らずの答えをもらわないためのコツをお教えしますね。
世の中は、「タイパ(タイム・パフォーマンス)ばかりが大事にされて、文章も動画も短いものばかりが好まれます。
「わかった」と答えるところを「了解」を短くして「り」と答える。
スタンプだけを押す。
仲間うちでは通じるものもあるでしょう。
しかし、相手の気持ちを思いやる「相手思考」のない人に向けては危険です。
文脈を読みとる力がないのです。
どうすれば、正確に自分の意思を伝えらるか?
その方法として「3フレーズ話法」があります。ヨウカンさんの例で言うならば、「今、どこ」と1フレーズをボソッと書くだけでなく、
「今、どこ? 何時にこられる?待ってる」
「今、どこ? 私が移動した方が早い?教えて」
「今、どこ? 6時から待ってる。何時に着くの?」
と「3フレーズ」書いてみましょう。
「3フレーズ」書いても回答が1つしか返ってこないこともあるでしょう。
でも1つでも戻ってくれば、自分の目的が達成されたと思えます。
イライラが軽減されます。
言葉の打席を増やして、打率をあげていく。
そんな気持ちで、もう少し丁寧に書いてあげることを心がけてください。
「そこまで、私がしなくちゃいけないの?」と思うかもしれません。
面倒くさいようですが、相手にしっかり伝われば、無駄にイライラすることはなくなります。
「相手思考」のできない人が増えている今、自分の精神衛生のためにも、自分の思いをしっかり相手に伝える工夫をしていきたいですね。
ヨウカンさんのイライラが少しでも収まったらうれしいです。
ありがとう!
ひきたよしあき
(イラスト 江夏潤一)
連載一覧
- 第1回 あなたを全力で肯定する理由
- 第2回 私は自己肯定感が低いです。
- 第3回 コミュ障です。
- 第4回 コスパの悪い人間です。
- 第5回 ダメ上司です。
- 第6回 本気で人を好きになれません。
- 第7回 夢がありません。
- 第8回 若い子には勝てません。
- 第9回 社畜です。
- 第10回 不寛容な人間です。
- 第11回 老害でしょうか。
- 第12回 母親失格です。
- 第13回 モテない男です。
- 第14回 口下手です。
- 第15回 都合の良い女です。
- 第16回 ネガティブ思考です。
- 第17回 アピールポイントがありません。
- 第18回 妻に怒られてばかりです。
- 第19回 親を大切にできません。
- 第20回 自分、性格悪すぎです。
- 第21回 問題意識が強すぎて疲れます。
- 第22回 向上心がありません。
- 第23回 私は変わるべきなんでしょうか。