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あなたを全力で肯定する言葉【第12回】「母親失格です。」|ひきたよしあき

2023年3月14日

私たちは、常に評価の目に晒されて暮らしています。「いいね!」という言葉にも、「おまえを評価してやる」という意味が含まれています。人間関係が希薄になる中で、裁きの目を浴びている。今、あなたに必要なのは、あなた自身を全力で肯定する言葉です。私はコミュニケーション・コンサルタントとして、小学生から政治家までを「言葉の力」で応援してきました。現場で培ったノウハウで、エールを送りたい。あなたを、丸ごと、全力で肯定します。


【第12回】「母親失格です。」

小学1年生の娘を育児しています。理想の母親像からかけ離れた母親になってしまいました。母親として家庭の太陽でありたいと思っていたのに、まったく笑顔になれません。いつも怒ってばかり。イライラしてばかり。子どものあらゆることが目について、口を開けば小言が出てきてしまいます。子どもを褒めるポイントが見つかりません。「赤ちゃんの頃の写真を見れば愛情を取り戻せる」などと言われますが、そんなことは何度も試しました。自分が嫌です。こんなはずじゃなかったのに。
(あつこ 38歳)

あつこさん、メッセージをありがとうございます。

これはもう10年近く前の話です。
当時勤めていた会社の部下が、赤ちゃんができたことを告げてくれました。

「お、おめでとう!よかった!」
と、すっとんきょうな声を上げた私に、彼女が笑いながらこう言いました。

「はい。ゆっくり、親になります」

初めて見る彼女の顔でした。
おだやかに、何かを決意し、覚悟を決めたように見えました。
子どもを授かって「親になった」のではなく、子どもといっしょに自分もだんだんと、親になっていく。
実に凛々しい表情でした。

赤ちゃんが生まれたての「子ども」ならば、産んだ人は、生まれたての「親」。
赤ちゃんもお母さんも、同じスタートラインに立ってだんだんと成長していく。

そう、初めから完璧な親なんて、きっとどこにもいない。
親もまた、子ども同様に、泣いたり、転んだり、痛い思いをしたり、食べたり、眠ったり、笑ったりして、親になっていくものではないのかな。
私は、そんなふうに考えています。

あつこさんのメッセージの中に「理想の母親像」という言葉があります。
優しくて、賢くて、いつも子どものことを第一に考えるような姿でしょうか。

こうした理想を掲げることはとても大事だと思います。
でも、その理想は、子どもができたからといって自動的に手に入るものではないのかもしれません。
ゆっくりとゆっくりと、理想に近づいていければそれでいいんじゃないのかなぁ。

「早く食べなさい」と「よく噛んで食べなさい」

これは私が、小学校の校長先生から聞いた話です。
低学年の子どもに悩みを聞くと、必ず「食べるのが遅い」「給食の時間内に食べられない」という答えが返ってくるそうです。

「これ、大人に責任があるんです。自分たちが忙しいものだから、つい『早く食べなさい』って追い立ててしまう。すると子どもは、早く食べようとして、食べ物を口にいっぱい入れて涙目になってしまう。子どもは大人と違って、まだ舌が発達していません。ゆっくりと噛んで、しっかりと『これは自分の体にいいもんだ』とわかると、その味がおいしく感じられるようになる。だから、食べるのが遅い子に必要なのはモグモグとよく噛むことなんです」

校長先生は、やさしい口調でこう教えてくれました。
大人は、時間内にきっちりと食べ終わる子どもが理想だと思いがち。
子どももなんとかそうなりたいと努力しています。
でも、これは理想が間違っている。
大切なことは、「時間内に食べる」ことではなく、「楽しく、おいしく食べる」こと。
私たちは、つい自分の都合や周囲の目を気にして、子どもに間違った理想を教えてしまうことがあります。

だから、あつこさん。
理想通りにいかないことなんて、いっぱいあります。
自分にとっての理想が、子どもにとっての理想とは違っていることなんていくらでもある。
その度に、微調整し、自分もいっしょに学んでいけばいいんです。
自分の理想を再点検してみるのもいいかもね。

「失敗を語ること」

2017年に『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎・作)という本がリバイバルヒットしました。
この本は、コペル君という少年が「おじさん」の存在で哲学的なことを考えたり、友だちを裏切って引きこもりになったりと、色々と面白いシーンがあります。

この本について中学生と話をしていたとき、大人では思いつかないところに生徒の多くが感動していることに驚きました。

それは、お母さんがコペル君に、自分が女学生の頃の失敗を語るシーンです。

言いたいのに言い出せない。
動きたいのに動けない。
ダメな自分。
悔いの残る私——。

そんなことを語ります。

「うちのお母さんは、失敗談なんて語ってくれない」
「悩んでいたことなんて教えてくれない」
と、口々に生徒が私に言うのです。
子どもの前で完璧でいようとするお母さん。
なんでも知っていて、自分の欠点をいつも発見する全知全能の神みたいなママ。

でも、子どもが本当に知りたいのは、「ママも人間、失敗すれば、悩みもする」という姿かもしれません。

お母さんに励ましの言葉をかけたり、エールを送りたくなる。
弱さもしっかり見せることで、子どもは成長していく。
お母さんの失敗や悔恨、疲れている姿や丸まった背中を見せることで、子どもは「あ、お母さんもふつうの人間なんだ!」と思える。
「お母さんも失敗するなら、失敗する自分も決して悪くない」と自分を受け入れられるようになる。
ホッとするというか、変な言い方ですが、「愛着がわく」というか……。
たまには子どもの前で、ため息をついて、弱いところを正直に見せちゃいましょう。

「こんなはずじゃなかった」と悩むあつこさん。
理想の「こんなはず」から少し離れて、今の自分を褒めてあげようよ。

子どもの欠点を見てしまう。それは当たり前のこと。
親が「うちの子は足が遅い」と気づくことで、外敵から身を守る力を子どもは身につける。
お母さんは子どもの欠点を見つける天才なんです。
欠点を見つける自分を肯定し、「親として当然だ」くらいに思った瞬間、すっと子どものいい面が目に入るようになりますよ。
そう、親は子どもの「いい面」を見つけることも天才なんだ。
昔の赤ちゃんの写真を見なくても、今の子どもを見て、頬が緩んだり、ほっとできるようになりますよ。

子どもにとって親は、初めて自分の背中を押してくれる人。
生涯のファン第一号。
そんな気持ちを忘れずに、ゆっくりと、ゆっくりと親になっていきましょう。

あつこさん、ありがとうございました。

ひきたよしあき

コミュニケーションコンサルタント、コラムニスト、(株)SmileWords 代表取締役。博報堂でCMプランナー、クリエーティブディレクターとして数々のCM制作を手がける。政治、行政、大手企業のスピーチライターとしても活動。2022年より大阪芸術大学放送学科客員教授。主な著書に『5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』(大和出版)、『一瞬で心をつかみ意見を通す対話力』(三笠書房)、『大勢の中のあなた へ』(朝日学生新聞社)、『人を追い詰める話し方 心をラクにする話し方』(日経BP)など。

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(イラスト 江夏潤一)

連載一覧

  • 第1回 あなたを全力で肯定する理由
  • 第2回 私は自己肯定感が低いです。
  • 第3回 コミュ障です。
  • 第4回 コスパの悪い人間です。
  • 第5回 ダメ上司です。
  • 第6回 本気で人を好きになれません。
  • 第7回 夢がありません。
  • 第8回 若い子には勝てません。
  • 第9回 社畜です。
  • 第10回 不寛容な人間です。
  • 第11回 老害でしょうか。
  • 第12回 母親失格です。
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