私たちは、常に評価の目に晒されて暮らしています。「いいね!」という言葉にも、「おまえを評価してやる」という意味が含まれています。人間関係が希薄になる中で、裁きの目を浴びている。今、あなたに必要なのは、あなた自身を全力で肯定する言葉です。私はコミュニケーション・コンサルタントとして、小学生から政治家までを「言葉の力」で応援してきました。現場で培ったノウハウで、エールを送りたい。あなたを、丸ごと、全力で肯定します。
【第15回】「都合の良い女です。」
色恋の話ではありません。共働き夫婦で子どもがいます。基本的に私のワンオペ育児で生活が成り立っており、炊事に洗濯、掃除など家事全般、子どもの学校関連はすべて私が担っています。事前に夫婦間で分担の取り決めをしなかったのが失敗だったと思います。私が「もうやらない」と言えば、夫もやってくれるかも
しれませんが、結局私がやったほうが早いし、面倒なので言いません。ご飯はおいしそうに食べるし、休日の運転はお任せしているし、まあ私が我慢すればいいか。それで丸く収まりますよね。
(都合良子 45歳)
都合良子さん、メッセージありがとうございます。
良子さん! がんばり過ぎですよぉ!
「夫がやってくれるかもしれない」ならば、多少遅くても、下手でも任せる機会を増やした方がいいですよ。
秒単位でも、自分の時間を作りましょう!
今の日本の45歳。
いわゆる氷河期世代といわれる良子さんたちは、ひとりで抱え込む傾向がとても強いように思うのです。
育ってきたのは、どっぷり昭和の世代です。
しかし、部下たちは、ミレニアム、ジェネレーションZといわれるデジタル世代。
間に挟まれた良子さんたちの年代は、上と下に突き上げられて
「私がやらなければ」
「私がやるのが一番早い」
と考えがち。
しかも旦那さまも、多少の差はあるものに昭和的な環境で育っているはず。
家事や育児を「やる」と言いながら、「お手伝い程度」と潜在的に思っている人が多い。
黙って、行動しなければ、何もかもがワンオペになってしまいます。
それはいけない。
子ども中心の生活から抜け出す時間を少しでも作れるといいですね。
手を抜くことを覚える
良子さんのメッセージを読んで感じるのは、キチンとした性格だということ。
ちゃんと、キチンと自分がやらないと気がすまない。
自分の中にとても高いハードルがあって、それを乗り越えないと「やった感」が得られないのではないでしょうか。
だから人に頼めない。
自分がやった方が早いと感じてしまう。
まずは、そのハードルを思い切り下げましょう。
「完璧をめざさない」
これです。
私の友人に、恐ろしく仕事のできる女性がいます。
その上、娘さんと自分のお母さんとの3人暮らしで、家庭も切り盛りしている。
どうしてそんなにできるのか? と尋ねたところ、
「ほこりで死んだ人はいない」
が家でのモットーだそうで、掃除も洗濯も料理も手を抜けるところは徹底的に抜く。
「手を抜くためにはなんでもする」
と言って笑っていました。
そう。手を抜くことは悪いことではない。
良子さんの人生は、子どもや旦那さんの人生まで背負っているように見受けられます。
多少手を抜くことは、当たり前のことです。
ハードルを下げることを心がけましょう。
夫と真剣に話し合おう
もうひとつ大切なこと。
それは「言えばやってくれるかも」「ごはんをおいしそうに食べてくれる」ということで
夫を許すのではなく、一度真剣に話し合ってみてはいかがでしょうか。
私は、コロナ禍にあった3年間。夫婦のトラブル相談をいくつも受けてきました。
コロナ禍になって、24時間いっしょに暮らすようになり、初めて夫の性格が見えてきた。
「私が、ない時間をやりくりして洗濯し、畳んだタオルを、まるでティッシュのようにポンポン使って洗濯機に放り込む。さすがにイラッときて、洗濯は、夫にやってもらうと決めた」
と言う人がいました。
確かにタオル一枚、洗濯して畳むのも大変なことです。
良子さんはきっとその何倍もの家事を一人でやられていることでしょう。
簡単なことでもいい。
多少目をつぶれる家事をさがしてみませんか。
まずは、良子さんが、今やっている家事を紙に書き出してみましょう。
できるだけ細かく書く。
「掃除」ではなく、「机の上の片付け」「玄関の掃除」「生ごみを出す」と、目の前に情景が浮かぶように書いていきます。
夫が想像しているよりもはるかに多くの仕事があるはずです。
それを具体的に見せることが大切。
その紙を真ん中に置いて、良子さんしかできない仕事、夫に代わってもらえそうな仕事を分けていくのです。
大切なことは、良子さんが決めるのではなく夫に「意見を言わせる」ことです。
そうすればちょっぴり責任感も生まれるはずです。
セルフハグしよう
良子さん、自分が我慢して、丸く収めようとしている良子さん。
そんなに頑張っている自分を放っておいてはいけませんよ。
自分の声を一番聞いているのは自分自身です。
自分に向かって、声にして、
「すごいぞ!私!」
と毎日何回も言いましょう。
そして自分の腕で自分を抱きしめる「セルフハグ」もしてください。
この効果は絶大で、オキシトシンという「愛情ホルモン」が分泌されて、ほっとした気持ちになれます。
お風呂に入るとき、寝る前、料理を作り終えたとき、「すごいぞ、私!」と言ってセルフハグをして、にっこり笑う。
自分の最愛の人は、自分。
そんな気持ちを込めて、毎日、自分を大切にしてくださいね。
時は過ぎゆく
子育てを終えた多くの母親から、こんな言葉をよく聞きます。
「あの頃は、座ってご飯を食べる時間もなかった。自分のことなどひとつも考えられなかった。でも、それは本当にわずかな時間で、今となってはあれだけ熱中できた時間が懐かしい。
本当によくやったと思う」
良子さんのワンオペ生活も、一生続くわけではありません。
よく見ると、子どもとの関係も毎年、少しずつ変わってきているはずです。
振り返ったとき、良子さんの今が素敵な時間として思い出せるように、私も祈っています。
良子さん、ありがとうございました。
ひきたよしあき
(イラスト 江夏潤一)
連載一覧
- 第1回 あなたを全力で肯定する理由
- 第2回 私は自己肯定感が低いです。
- 第3回 コミュ障です。
- 第4回 コスパの悪い人間です。
- 第5回 ダメ上司です。
- 第6回 本気で人を好きになれません。
- 第7回 夢がありません。
- 第8回 若い子には勝てません。
- 第9回 社畜です。
- 第10回 不寛容な人間です。
- 第11回 老害でしょうか。
- 第12回 母親失格です。
- 第13回 モテない男です。
- 第14回 口下手です。
- 第15回 都合の良い女です。
- 第16回 ネガティブ思考です。
- 第17回 アピールポイントがありません。
- 第18回 妻に怒られてばかりです。
- 第19回 親を大切にできません。
- 第20回 自分、性格悪すぎです。
- 第21回 問題意識が強すぎて疲れます。
- 第22回 向上心がありません。
- 第23回 私は変わるべきなんでしょうか。