私たちは、常に評価の目に晒されて暮らしています。「いいね!」という言葉にも、「おまえを評価してやる」という意味が含まれています。人間関係が希薄になる中で、裁きの目を浴びている。今、あなたに必要なのは、あなた自身を全力で肯定する言葉です。私はコミュニケーション・コンサルタントとして、小学生から政治家までを「言葉の力」で応援してきました。現場で培ったノウハウで、エールを送りたい。あなたを、丸ごと、全力で肯定します。
【第18回】「妻に怒られてばかりです。」
妻との関係に悩んでいます。自分の一挙手一投足が妻を怒らせます。忘れもしないのは、長男がまだ赤ちゃんだった頃のこと。仕事から帰宅して、寝室の妻に「ただいま」と言っただけでキレられました。妻に喜んでほしくて食器を洗ったときは、泡が残っているとダメ出しされ、洗濯物を干したときは左右対称ではないと言って妻が全部やり直しました。妻を助けたいと思ってやることが、すべて裏目に出てしまいます。子どもたちの前で叱られるのも情けないです。それでも妻に対して恨みや憎しみはありません。ただ、妻を怒らせたくない、妻に笑顔になってほしい、それだけなんです。
(ひろし 36歳)
ひろしさん、メッセージをありがとう。
妻のために、よかれと思ってやったことがことごとく裏目にでる。
なんで怒られるのか理解できないことも多い。
わかります。
私も同じように言われる結婚生活を10年近く送って、「結局、あなたは私のことが何一つわかってないのよ」と言われて、離婚に。
ひろしさんの気持ち、あの頃の自分と重なります。
今になって振り返っても、「もっと相手の気持ちを考えればよかった」と後悔したり、「結局、夫婦なんて他人なんだ」と開き直ってみたり。
結局、どうすればよかったのか、未だに答えを出せずにいます。
そんな私のアドバイスなので、ひろしさんのお役に立てるか、自信がありません。
しかし、思うところが色々あるので、話のひとつとして聞いてください。
「かあちゃん取り扱い説明書」に救われた子どもたち
コロナ禍で、自粛が続いた頃の話です。
学校にも会社にも行けなくて、家族が全員家にいる。
この状況を苦痛に思う子どもがたくさんいました。
朝出て行ったきり、夜まで帰ってこないお母さんが一日中いる。
子どもは仲良くしたいのに、リモート会議や料理の支度に追われたお母さんにとりつく島もない。
私が教えていた教室、子どもたちの書く作文に、「お母さんって、一体何者?」という疑問がふきあがっていました。
この時期に子どもたちが読んだ本のひとつに『かあちゃん取扱説明書』(いとうみく・作/佐藤真紀子・絵/童心社)があります。
かあちゃんの小言に辟易としている主人公が、お母さんをうまく扱うための「取扱説明書」を作りはじめます。
「鶏の唐揚げが食べたいときは、食べたいと言いまくり、友だちのお母さんが作るものよりはるかにうまい!と言いまくる」などと、細かくノートに書いて「トリセツ」に落としていきます。
この作業を通して、主人公は成長する。
かあちゃんの凄さも知る。
そんな、お話しです。
「あなたも、お母さんのトリセツを書いてみよう」
とリモート教室で子どもたちに訴えると、みんな熱狂して書いてくれました。
彼らも、お母さんと対立したいわけじゃない。
本当は仲良くしたいのです。
その思いを「取扱説明書」という形にすることで、相手の生態を観察したり、気持ちをおもんぱかったりするようになりました。
随分気持ちが楽になったと、子どもたちに言われました。
「妻の取扱説明書」を書いてみよう
ひろしさんも、「妻の取扱説明書」を書いてみてはいかがでしょうか。
例えば、料理のあとに食器を洗うと怒られるとします。
では、どうすれば、怒られない食器洗いができるか。
そこで、妻の食器洗いの様子を観察したり、ネット検索で調べます。
・食器を「汚れの少ないもの」「油のついているもの」「壊れやすいもの」に分けている。
・フライパンの柄まで洗っている。
・最後にシンクを拭き上げている。
こうしたテクニカルな面に加えて、様々な書き込みに「イヤイヤやっているのがわかる」「タメイキつきながらやるのはやめて」なんて声もあがっています。
こうした言葉や食器洗いの姿から「ひろしの食器洗いマニュアル」を作っていくのです。
洗濯干しなら、「シワを伸ばして干す」とか、お風呂掃除なら「排水溝汚れと浴槽の垢をチェック」などと技術的に向上しようとする。
これだけで、妻から「やる気がない」「なぜやるのか目的がわかってない」という目で見られることもなくなってくるのではないでしょうか。
相手の気持ちの取扱説明書も作ろう
「取り扱い説明書」を深めるには、コミュニケーション上のマニュアルも作るべきです。
妻が話している最中に「ねぇ、聞いてるの?」と言われた。
その時、相手が何の話をしていて、自分が何を考えていたかを分析すれば、どういう態度が相手をイラつかせるのが見えてくるはずです。
これだけは厳禁! NG態度
・弁解や言い訳
・気のないテキトーな返事
・相手には差別的に聞こえる発言
などとわかってくれば、自ずと自分の態度も変わってくるでしょう。
大変なように見えますが、ビジネスで、得意先と親睦を深めるときは当たり前のようにやっている思いやりや心遣いも多いのです。
「家族」「夫婦」という関係を一度、横において、人と人が継続的に関係性を保つにはどんな「取扱説明書」ができるのか考えてみてください。
書きあがればそれは、ひろしさんオリジナルの立派なコミュニケーション論になるはず。
どこの誰にでも通じる「取扱説明書」になっているのではないでしょうか。
「ごめんなさい」と「ありがとう」
最後に、私と仲良くしてくれているお坊さんから聞いた言葉をひろしさんにプレゼントしますね。
「夫婦とは『ごめんさない』と『ありがとう』を生涯で一番よく言う人間関係のこと」
これを聞いたとき、自分の結婚生活に何が足りてなかったかを知った気がしました。
相手の言動ではなく、相手の気持ちを考える。
その気持ちに対し、常に「ごめんなさい」と自ら頭を下げ、「ありがとう」と感謝する。
この2つの言葉を日常生活で増やしながら、ひろしさんなりの「妻の取扱説明書」またの名を「妻への愛情表現マニュアル」を作成してください。
結婚生活が、末長くうまくいくことをお祈りしています。
ひろしさん、ありがとう!
ひきたよしあき
(イラスト 江夏潤一)
連載一覧
- 第1回 あなたを全力で肯定する理由
- 第2回 私は自己肯定感が低いです。
- 第3回 コミュ障です。
- 第4回 コスパの悪い人間です。
- 第5回 ダメ上司です。
- 第6回 本気で人を好きになれません。
- 第7回 夢がありません。
- 第8回 若い子には勝てません。
- 第9回 社畜です。
- 第10回 不寛容な人間です。
- 第11回 老害でしょうか。
- 第12回 母親失格です。
- 第13回 モテない男です。
- 第14回 口下手です。
- 第15回 都合の良い女です。
- 第16回 ネガティブ思考です。
- 第17回 アピールポイントがありません。
- 第18回 妻に怒られてばかりです。
- 第19回 親を大切にできません。
- 第20回 自分、性格悪すぎです。
- 第21回 問題意識が強すぎて疲れます。
- 第22回 向上心がありません。
- 第23回 私は変わるべきなんでしょうか。