私たちは、常に評価の目に晒されて暮らしています。「いいね!」という言葉にも、「おまえを評価してやる」という意味が含まれています。人間関係が希薄になる中で、裁きの目を浴びている。今、あなたに必要なのは、あなた自身を全力で肯定する言葉です。私はコミュニケーション・コンサルタントとして、小学生から政治家までを「言葉の力」で応援してきました。現場で培ったノウハウで、エールを送りたい。あなたを、丸ごと、全力で肯定します。
【第20回】「自分、性格悪すぎです。」
人の失敗を期待してしまいます。人の成功や、ほめられている人に共感できません。いいことをしている人がいると、余計なことをするな!と思います。性格が良い人がいると、自分が性格悪いみたいで迷惑です。いくらなんでも性格悪すぎますよね?
(犬っち 41歳)
犬っちさん、こんにちは。メッセージをありがとう。
私の経験では、自分のことを「性格が悪い」と思っている人は、さほど性格が悪くはありません。
客観的に自分を見る目が備わっていますからね。
本当に「性格が悪い」人は、自分の性根の悪さに気づいていません。
無自覚だから、恐ろしく深いところまで人を傷つけてしまう。
これは始末が悪いです。
また、「私は有能だ」「私の考えが正当だ」と自己肯定感の高い人は、自己評価とは裏腹に、人から「性格が悪い」と思われがちです。
わがままで、マウントをとってきますからね。
しかも「それが、あなたのためだ」というような顔をして。
自分で「性格が悪い」と思っている人は、内面でこう思うだけで、ゴリ押しや心ない発言で人を傷つけることがありません。
多分、犬っちさんもそうだと思います。
心の中は、意地悪や嫉妬などのドロドロした感情でいっぱいだけど、人前では結構いい顔をしている。
表面上は、相手の成功を喜んだりもする。
そのギャップに悩むこともあるでしょう。
でも、世間にはまだ「犬っちって、性格悪いよね」なんて言われてないのではないか。
それはあなたに自己分析する力があって、行動を抑制できるからです。
これは救いです。
自分の気持ちの持ち方を、変えていけばいいだけだからね。
ブラックエンジンとホワイトエンジン
私は、「ほめられている人を見るのがいやだ」「いいことをしている人が嫌い」という気持ちがあることが悪いとは思いません。
持っていない人はいないんじゃなでしょうか。
私は、5歳上の兄がいます。
いつも父や母が「お兄ちゃんは優秀だ」と言っていました。
それを聞くたびに「お前は無能だ」と言われていると感じたものです。
「人が褒められると、自分が取るにに足らないやつに思えていやだ」という感覚は、私の性格形成に大きく影響しています。
しかし、これが悪いかといえば、そうでもない。
私は、できるだけ兄と比べられないように逃げ隠れしているうちに、兄とは違う道を見つけられるようになりました。
嫉妬や他人との比較って、悪く言われがちだけれど、実は恐ろしいパワーを秘めているものです。
私は、こうした負の感情で自分を動かす力を「ブラックエンジン」と言っています。
「あいつを蹴落としたい」「ほめられるのはあいつじゃない!私だ!」みたいな気持ちが自分を大きく動かす。
「いいことなんて、余計なことするな!」と思ったあと、「じゃ、私はどうするんだ?」と自らに尋ねてみる。
すると「私は、そんなことはしない」とか「違う道を探す」とブラックエンジンに発動された行動ができるものです。
多くの成功者だって、ほんとはブラックエンジンパワーで動いているのですよ。
もうひとつ、人には「ホワイトエンジン」というものがあります。
「人のために働く」とか「みんなの気持ちを大切にする」といった善意の気持ちです。
犬っちさんの質問を読む限り、「ホワイトエンジン」で動かされた感情がありませんが、大丈夫。
こちらも「ブラックエンジン」同様に、誰もがもっているものです。
今やスーパースターとなった大リーグの大谷翔平選手。
彼は、球場に落ちているゴミを拾うし、サインを求められたら厭わずに書いている。
「ビッグホワイトエンジン」を搭載した「いい人」です。
彼を真似て、犬っちさんも、ゴミを拾うとか汚れた場所を清掃してみてください。
小さなことでいい。
人からどう見られるかなんて考えない。
頭で考えるのではなく、「ゴミは拾う」「席はゆずる」「コンビニでお釣りをもらうときに、ありがとうと言う」など、ホワイトエンジンが動き出す行為を始めてください。
「イジワルな自分」から抜け出す効果は抜群で、「時々、いいこともしている自分」が生まれると、人と比較する気持ちが薄らいできます。
自分が好きになり、自信がでてくるからね。
ブラックエンジンとホワイトエンジン。
どちらも大切な人を前に進める力をもっています。
性格が悪い自分をパワーに変えて、人知れず小さな善行を繰り返すことで「イジワルだけでない自分」をつくっていく。
そんなこと、やってみませんか。
人のことなど、どうでもいい
私は、昔ある人に「ひきたは、人嫌いではないが、人に関心がない」と言われたことがあります。
いかにも自分のことしか考えないダメ人間と言われたようで、嫌な気分になったものです。
しかし、今考えてみると「人に関心がない」というのは、結構、大切な処世術ではないかと思います。
犬っちさんの「人の失敗を期待してしまいます。人の成功や、ほめられている人に共感できません。いいことをしている人がいると、余計なことをするな!と思います」という悩みはすべて、人に関すること。
「とても他人に関心が強い人なんだな」と私には見えます。
あえて言わせていただくと、人のことなど、でうでもいいじゃないですか。
人のことよりも、「おいしい」「気持ちいい」「すてきだ」「あったかい」という自分の身体感覚を大切にすること。
まずはこれがあって、状況に応じて、ブラックとホワイトのエンジンを動かす。
「人のことより、自分のこと」
というのが犬っちさんへのアドバイスです。
少しでも笑顔になってもらえたらうれしいです。
ありがとうございました。
ひきたよしあき
(イラスト 江夏潤一)
連載一覧
- 第1回 あなたを全力で肯定する理由
- 第2回 私は自己肯定感が低いです。
- 第3回 コミュ障です。
- 第4回 コスパの悪い人間です。
- 第5回 ダメ上司です。
- 第6回 本気で人を好きになれません。
- 第7回 夢がありません。
- 第8回 若い子には勝てません。
- 第9回 社畜です。
- 第10回 不寛容な人間です。
- 第11回 老害でしょうか。
- 第12回 母親失格です。
- 第13回 モテない男です。
- 第14回 口下手です。
- 第15回 都合の良い女です。
- 第16回 ネガティブ思考です。
- 第17回 アピールポイントがありません。
- 第18回 妻に怒られてばかりです。
- 第19回 親を大切にできません。
- 第20回 自分、性格悪すぎです。
- 第21回 問題意識が強すぎて疲れます。
- 第22回 向上心がありません。
- 第23回 私は変わるべきなんでしょうか。