私たちは、常に評価の目に晒されて暮らしています。「いいね!」という言葉にも、「おまえを評価してやる」という意味が含まれています。人間関係が希薄になる中で、裁きの目を浴びている。今、あなたに必要なのは、あなた自身を全力で肯定する言葉です。私はコミュニケーション・コンサルタントとして、小学生から政治家までを「言葉の力」で応援してきました。現場で培ったノウハウで、エールを送りたい。あなたを、丸ごと、全力で肯定します。
【第24回】レッテル貼りは、もうやめよう。
今日まで22人の方の悩みに耳を傾けてきました。
私なりに、全力で皆さんを肯定し、経験と知識を総動員して、アドバイスを送ってきたつもりです。
もちろん、それぞれの方が置かれている環境や生きてきた時代について、詳しく知っているわけではありません。
中には見当違いなものもあったかもしれません。
そういう方に対しては、自分の力不足を認め、素直にあやまります。
ごめんなさい。
22人、悩んでいることはバラバラでしたが、共通することもありました。
それは、全員が、自分に「レッテル」を貼っていることです。
「自己肯定感が低い」「コミュ障」「コスパが悪い」「ダメ上司」「本気で人を好きになれない」「夢がない」「若い子に勝てない」「社畜」「不寛容」「老害」「母親失格」「モテない男」「口下手」「都合のよい女」「ネガティブ思考」「アピールポイントがない」「妻に怒られる」「親を大切にできない」「性格が悪すぎる」「問題意識が強すぎる」「向上心がない」「変われない」
どの方もこうしたレッテルを自分に貼り付けて、
「私は、○○な人間です!」
と言う。
自分に「私はこういう人間だ!」とラベリングをして決めつけてしまう。
このレッテル貼りこそが、悩みを解決するときの大きな弊害になるのです。
脳は、命令された情報を集める機械
なぜ、弊害になるのでしょう。
それは、脳という器官が指令が出たものに忠実に答える機械にすぎないからです。
あなたが「私は口下手だ」と宣言する。
すると脳は、それが本当か嘘か考えることなく、過去の中からあなたが「口下手」で失敗した情報を集めてきます。
「そういえば、小学校2年のときの授業参観で緊張して何も喋れなかった」
「中3のとき好きな子に告白しようとして、一言も声がでなかった」
脳はこうした情報を瞬時に集めて、あなたが「口下手」である証拠固めをしてしまう。
こうなると、あなたは「口下手」を直すより自分は「口下手」であることの証明ばかりに力を入れるようになってしまう。
今回、相談を頂いた22名の方の質問内容が大変饒舌なのも、きっと「不寛容」
「母親失格」「老害」と言ったレッテルに脳が証明できる過去事例を一生懸命集めてきたからでしょう。
どれもこれも見事に「レッテル」を証明していました。
セルフハンディキャップから逃れる
では、なぜ弊害になることがわかっているのに、人は自らにレッテルを貼ってしまうのでしょう。
人前に出たとき
「私は語彙が少ないので、うまく話せないのですが……」
と先に自らにレッテルを貼って、周囲に宣言する。
これを「セルフハンディキャップ」といいます。
失敗しそうなときに、先に弁解をしておくこと。
これを言うことで、相手に
「確かに、うまくないけど、少ない語彙でよく話せたよ」
なんて思ってもらいたいと期待します。
一見、有効に見えますが、このように自分で自分を「コミュ障」だの「アピールポイントがない」などと言って逃げ道をつくってばかりいると、脳みそはいつも弁解や相手の直接攻撃から交わすことばかり考えてしまいます。
これを直すには、「自分で自分にレッテルを貼ろうとしている自分」にいち早く気づくこと。
口癖になっている場合もありますので、注意深く自分の言葉を観察するようにしましょう。
注意深くなれば、それだけで、レッテルを貼る気持ちが薄れます。
決めつけないこと
もうひとつ大切な改善ポイントがあります。
それは、「決めつけないこと」です。
「私は口下手です!」
と決めてかかってしまうと、脳はその情報を集めだします。
だから、
「私は口下手のときもあります」
と、言い方を少し変えて、決めつけるのをやめること。
すると脳は、「口下手」の証拠集めの仕事を止めます。
「自己肯定感が低い」→「自己肯定感が低い日もある」
「本気で好きになれない」→「今のところ本気で好きになれない」
「親を大切にできない」→「親を大切にできないときもある」
「夢がない」→「今は語るべき夢と遭遇していない」
など、語尾を曖昧にするだけで、脳の「負の証拠固め」を避けることができます。
あなたが、あなた自身を全力で応援する言葉
さて、最後に、「あなたが、あなたを全力で肯定する言葉」を5つほど紹介します。
どれも驚くほど簡単で、すぐに使える言葉です。
<1>ま、いいか。
ミスをしても、自分を許す言葉です。
レッテル貼りは、自分を厳しく律しようとする行為。
これに対し「ま、いいか」と許しの言葉を投げかけることで、気持ちをほがらかにしてしましょう。
<2>どうせ、うまくいく。
どんな辛い目にあっても、最後の最後は、ハッピーエンドに終わるに決まっていると強く信じる言葉です。
理由なき楽観が、あなたを救います。
<3>ゆっくり前へ
焦りは禁物です。
人と比べても意味がありません。
ゆっくりでいいのです。
マイペースで、ゆっくり前へ進む。
その自分を褒めてあげる。
ゆっくり、ゆっくり、長い人生なんだ。
それくらいでいい。
<4>じーんを大切に
頭で考えてばかりいるとどうしてもナガティブになってきます。
考えないこと。
心で感じること。
おいしいものを食べて、じーん。
映画をみて、じーん、
美し空を見上げて、じーん。
頭で考えるのではなく、心で感じることで、レッテル貼りばかりしていることの無駄に気づくはずです。
<5>ありがとう。
日本語の中で最強の言葉。
感謝の言葉ではなく、人生を前向きにする呪文です。
苦しいとき、つらいとき、「ありがとう」と言って、誰かに感謝したい気持ちを思い出す。
「あぁ、あの時、あの人に、あんなによくしてもらったな」
と思い出せば、自分がひとりじゃないこと、応援してくれる人がいることを思い出すはず。
「ありがとう」とたくさん言えること。
これ以上、自己肯定感が高まる方法を私は知りません。
私たちは、大変な時代を生きています。
戦争、パンデミック、大災害、インターネットやAIによる社会の変革、世代格差、先行き不安な経済……そんな中で、悩みや不安を抱えながらも生きている。
それだけで、奇跡ではないでしょうか。
私は、そんなあなたを全力で肯定します。
すごい!と思っています。
ゆっくり、ゆっくりでいいじゃないですか。
動けなければ、空を見上げるだけでいい。
深呼吸して、また一歩足が出せたなら、そんな自分に拍手。
自分の人生を、ゆっくり前へ。
ありがとうございました。
ひきたよしあき
(イラスト 江夏潤一)
連載一覧
- 第1回 あなたを全力で肯定する理由
- 第2回 私は自己肯定感が低いです。
- 第3回 コミュ障です。
- 第4回 コスパの悪い人間です。
- 第5回 ダメ上司です。
- 第6回 本気で人を好きになれません。
- 第7回 夢がありません。
- 第8回 若い子には勝てません。
- 第9回 社畜です。
- 第10回 不寛容な人間です。
- 第11回 老害でしょうか。
- 第12回 母親失格です。
- 第13回 モテない男です。
- 第14回 口下手です。
- 第15回 都合の良い女です。
- 第16回 ネガティブ思考です。
- 第17回 アピールポイントがありません。
- 第18回 妻に怒られてばかりです。
- 第19回 親を大切にできません。
- 第20回 自分、性格悪すぎです。
- 第21回 問題意識が強すぎて疲れます。
- 第22回 向上心がありません。
- 第23回 私は変わるべきなんでしょうか。