私たちは、常に評価の目に晒されて暮らしています。「いいね!」という言葉にも、「おまえを評価してやる」という意味が含まれています。人間関係が希薄になる中で、裁きの目を浴びている。今、あなたに必要なのは、あなた自身を全力で肯定する言葉です。私はコミュニケーション・コンサルタントとして、小学生から政治家までを「言葉の力」で応援してきました。現場で培ったノウハウで、エールを送りたい。あなたを、丸ごと、全力で肯定します。
【第2回】「私は自己肯定感が低いです。」
特段「何もできない」わけではないですが、これといって得意なものも打ち込めるものもありません。
常にぼんやりとした不安を抱えている気がして、自己肯定感が低いと感じます。
だから新しいことを始める自信がないし、人付き合いもいまいち積極的になれません。
(いもがゆ 23歳)
いもがゆさん、メッセージをありがとう。
「常にぼんやりとした不安を抱えている」って、文豪・芥川龍之介みたいだね。
芥川も「将来に対するただぼんやりした不安」を抱えて生きていたんだ。
繊細で、文才のある人は、昔からこういう悩みを抱えやすい。
いもがゆさんも、すごい才能を秘めているかもね。
競争すれば自己肯定感の高低がでる
さて、「自己肯定感」の話をします。
先日、進学校で有名な中学の校長先生にお会いしました。
先生は、私に
一番の問題は、生徒の自己肯定感の低さなんです。
世間では、進学校だからみんな自信があるように見ている。
しかし、実態は逆です。横を見れば、自分よりできる人がいる。
勉強ができても、スポーツで負ける。発表のうまさでかなわない。
誰かと比較して、『あの子よりできない』と思う。
それで、自己肯定感が低くなる。
みんな、いい子なんですけどね。
と言っていました。
泣く子も黙る進学校の生徒なんて、鼻持ちならないほど自信にあふれているのかなと思ったら、そうじゃない。
競争が激しければ、それだけ自己肯定感の高低に悩まされるらしい。
この学校に限った話ではありません。
霞ヶ関の官庁に行っても、メガバンクでも商社でも、大学に行っても、地方の小さな小学校でさえ、
「人と比べて劣っている。私には自己肯定できるものがない」
とみんなが言う。
日本は今、「一億総自己肯定感の低い社会」になっているというのが私の実感です。
30年前から「他人の評価」で生きる時代へ
ところが、いもがゆさん。
私は、この「自己肯定感」という言葉が、イマイチピンとこないんだよ。
申し訳ないけど実感がないんだ。
だって、私が若い頃には、「自己肯定感」という言葉自体がなかったんだから。
「自己肯定感」は、1994年に臨床心理学者の高垣忠一郎さんが提唱した言葉。
その後、日本の子どもの自己評価がアメリカ、中国、韓国などに比べて低いという国際比較の調査結果がでて、「自己肯定感の低い日本の子ども」が話題になったんだ。
いもがゆさんは23歳だから、ちょうど「自己肯定感が低い子どもが多いからなんとかせねば」という機運の中で育ってきたことになる。
さらには、SNSによって「いいねの数」や「炎上の不安」など、「他人の評価」が肥大されていく。
言っちゃ悪いが、いもがゆさんは、「自己肯定感ブーム」の真っ只中で成長してきたような感じ。
生きにくい時代だよね。
何かに手を出すのが億劫になったり、怖く思うのは当然だよね。
自己肯定感という言葉を一度、捨ててみよう
さて、ここからは私なりの解決策です。
他の人とは違うかもしれないけれど、気にしない。
私は、人と自分を比較するのが好きじゃないからね。
まず、理解してほしいのは、「できる人ほど、自己肯定感が低い」ということ。
文豪、芥川龍之介だって将来の不安を抱えていたんだ。
むしろ、「自己肯定感が高い」と言って胸を張っている人って、つきあいにくくないか?
アメリカや中国に比べて、自己肯定感が低いと言うけれど、日本とは社会環境が違う。
向こうでは「私は、できる。自信がある」と言わなければ生きていけないのかもしれない。
そんなものを比較されても困るよね。
私たちは、不安を抱え、自分が自分であることに不快感を覚え、自信をもてずに生きている。
安易に自己肯定しないことで、自分を育んでいる。
私が、問題にしたいのは、「他人と比較して自分の価値を判断すること」。
同僚の山本さんのように上手にプレゼンできない。
……と比べたところで、山本さんに比べて、いもがゆさんがすべて劣っているわけがない。
「私は、山本さんに比べてプレゼンに関してはまだ力不足だ」
くらいに考える。
「私は、できない」と決めつけるのではなく、「力不足だ」「〜できないところもある」といった具合だ。
ネガティブな決めつけをしないのがコツだよ。
いいかい。
私の若い頃には「自己肯定感」という言葉はなかった。
その代わり
「この件に関しては、自信がない」
とひとつの案件に関して、自信の度合いを判断しました。
「自己肯定感」なんて言葉で、自分の人格全部を否定してしまうのは、危険だと思う。
人間は、そんなに決めつけられるものじゃないからね。
まずは、人との比較をやめる。
いや、やめるというより「人と比較するなんて不可能だ」と知る。
そして「自己肯定感が低い」と自分を全面否定するのではなく、「これには自信がない」と細かくわけて考えていく。
何よりも、自分の現状を安直に肯定せず、「どうすればいいだろう」と悩んでいる今のいもがゆさんの姿こそ、肯定されるべきなんだ。
ゆっくり前へ、進めばいい。
気持ちに変化があったら、またメッセージをください。
いもがゆさん、ありがとう。
ひきたよしあき
(イラスト 江夏潤一)
連載一覧
- 第1回 あなたを全力で肯定する理由
- 第2回 私は自己肯定感が低いです。
- 第3回 コミュ障です。
- 第4回 コスパの悪い人間です。
- 第5回 ダメ上司です。
- 第6回 本気で人を好きになれません。
- 第7回 夢がありません。
- 第8回 若い子には勝てません。
- 第9回 社畜です。
- 第10回 不寛容な人間です。
- 第11回 老害でしょうか。
- 第12回 母親失格です。
- 第13回 モテない男です。
- 第14回 口下手です。
- 第15回 都合の良い女です。
- 第16回 ネガティブ思考です。
- 第17回 アピールポイントがありません。
- 第18回 妻に怒られてばかりです。
- 第19回 親を大切にできません。
- 第20回 自分、性格悪すぎです。
- 第21回 問題意識が強すぎて疲れます。
- 第22回 向上心がありません。
- 第23回 私は変わるべきなんでしょうか。