試し読み|BTSのVも読んだ!話題の韓国エッセイ『家にいるのに家に帰りたい』③

“自分を愛おしく、抱きしめたくなる”自己肯定感を高めてくれると話題のエッセイ『家にいるのに家に帰りたい』。著者のクォン・ラビンさんが綴る言葉は、不安やとまどい、どうにもできないさびしさ、愛することの痛みと幸福、たとえようのない感情にそっと寄り添ってくれます。今回は特別に、CHAPTER 4「わたしたちはふたたび恋をする」より一部抜粋をお届けします。

わたしたちが別れた理由がわからないのなら

存在の空席

もともと何もなかった場所に、あなたがいてくれた。
だからあなたが不在となったいま、
そこは空席になってしまった。
存在とはそんなものだ。

あなたは捨てたけど、わたしは捨てられなかったもの

冬のコートのポケットから出てきた
あなたと飲んだコーヒーのレシート、
カバンに入っていたあなたと観た映画のチケット、
財布にしまっていた色あせたわたしたちの写真。

あなたは捨てたけど、
わたしは捨てられなかったもの。

 

ささやかなことが一番大切

ささやかなことをあたりまえだと思いはじめた瞬間、小さなひびが入る。どんな関係でも同じこと。親しい人ならなおさら。けれども人は、そのことを忘れてしまいがちだ。たとえば、レストランでさりげなくわたしの前にスプーンを置いてくれたり、水をついでくれたりするのも愛なのに。あなたが気づかないだけで、愛はどこにでもあふれている。小さな思いやりや愛を、あたりまえだと思わないで。「ごめん」「ありがとう」「愛してる」と言葉で思いを表現して。ささやかなことが一番大切。愛と人間関係は、あたりまえだと思いはじめた瞬間、静かに崩れていく。

もう一度愛を夢見る

「また誰かと出会って、愛せる自信がありません」

20代後半で人間関係と愛に疲れたわたし。恋をすると心がすり減る。ひたすら愛し、はてしなく努力した。それでも去っていく人の背なかを見ながら、何度も泣いた。

愛に年齢は関係ない。「若いきみにはわからない」という人もいるけれど。若くて誰かを愛しぬき、愛のために傷つくことはある。わたしは本気で愛に苦しんでいた。

大人といわれる年齢になっても、自分の心も他人の心もよくわからない。いくつもの恋を失い、運命の人だと信じた彼も去っていった。わたしは誓った。「未練がましい思いはもうたくさん。二度と誰も愛さない」と。

それなのに、愛はすぐにまた心の窓に降りそそぎ、夕日が空を赤く染めるようにわたしを照らすだろう。いつか本物の愛に出会えるのかな。夢見るわたしは、知っている。愛がふたたび訪れたなら、わたしはまたすべてを投げ出すだろう。その人を愛したい、愛されたいと願いながら。

(イラスト チョンオ)

本書の続編『家にいるのに“やっぱり”家に帰りたい』がコレカラにて連載中!

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たちまち5万部突破した話題の韓国エッセイ

『家にいるのに家に帰りたい』

クォン・ラビン

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著者プロフィール

クォン・ラビン
1994年、韓国生まれ。9歳のときに両親が離婚。そのことがきっかけで、世間では「あたりまえ」と思われている多くのことに疑問を持ちはじめる。2020年、自分と同じような思いを抱える読者に寄りそう言葉を届けたいと、デビュー作となる『家にいるのに家に帰りたい』(&books/辰巳出版)を刊行。

永遠なる紫の月——あなたはきっと、わたしとこの言葉たちが好きになる。

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桑畑優香
翻訳家、ライター。早稲田大学第一文学部卒業。延世大学語学堂、ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」のディレクターを経てフリーに。多くの媒体に韓国エンターテインメント関連記事を寄稿。主な翻訳書に『BTSを読む』(柏書房)、『BTSとARMY』(イースト・プレス)、『BTSオン・ザ・ロード』(玄光社)、『家にいるのに家に帰りたい』『それぞれのうしろ姿』(&books/辰巳出版)ほか多数。

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