令和ロマン髙比良くるまの漫才過剰考察|第4回

2023年M-1グランプリにて、初代王者・中川家以来のトップバッターで優勝という、圧倒的強さを見せつけた超新星・令和ロマン。ボケを担当し、自他ともに認める「お笑いオタク」の髙比良くるまが、その鋭い観察眼と分析力で「漫才」について考え尽くします

【第4回】「“機微”か”現象”か」キングオブコント2023を過剰に考察

撮影時は初夏。決して服選びを間違えているわけではない

コレカラをご覧のみなさん。くるまです。
やっとこさすっかり秋ムードでございますが、今年はバッチリのタイミングで衣替えが出来た方はいらっしゃらないんじゃないでしょうか。
「いらっしゃらないんじゃないでしょうか」って平仮名続きすぎて不安になるな。二度と使わないようにしよう。

そんな後悔と自戒の十月、過剰に考えたいものといえば、「カーネクスト・キングオブコント2023」です!
おいこんなところにいたのかカーネクストさん。ABCお笑いグランプリ去年はいたのに今年はいなくなったから探してたぜ全く。

いや“漫才”過剰考察とは?って感じですが、
予選中のM-1にも大きな影響を与えるのがKOC決勝、そこを紐解くことで年末に向けてさらに考えすぎることが出来るワケでございます。
決勝から少し期間が空いて、各所で存分に語られた部分があると思うので、そこを更に深く考えすぎてみたいと思います。

 

大ピンチの日比アナ「あれ浜田さん??浜田さんどこですか!?……えーっと、皆さんどうですか?」

 

今回も準決勝の配信から見させていただきましたが、その時点で今年のテーマは「余白」であると感じました。
ネタの内容は来年以降もやる可能性があるので細かく言及できませんが(KOC準決勝はネタを2本行う性質上、予選で使ったネタを翌年も行うことが多い)、去年のビスケットブラザーズさんのように、ボケや展開がぎっしり詰まったいわゆる「仕上がってる」系のネタはあまりお客さんの反応が芳しくなく、しっかりと間を取った演技やキャラクターで魅せるパターンや、台本として綺麗に纏めすぎずに大ボケでフルスイングしてくるパターンが爆発していたからです。

前者はラブレターズさん、蛙亭さん、ファイヤーサンダーさん、や団さん、ジグザグジギーさん、ゼンモンキー。
後者はカゲヤマさん、隣人さん、サルゴリラさん、ニッポンの社長さん、といった区分でしょうか。

そうなると次は決勝でのスタイルウォーズへ。
KOCはM-1に比べて観客がトップバッターに左右されやすいです。見方が固まりやすい、とでも言いますか。

漫才はある程度決まってるじゃないですか、スーツ着て出てきて、みたいな。そこを崩してTシャツやジャージの人もいますが、それでも二人が会話することとかは決まってる。

その上で内容で笑っていこう、となるわけですがコントは自由すぎて見方があまり定まってないのです。二人の場合もあれば三人もある、舞台上に最初からいたりいなかったり。照明や音響、セットや小道具までてんこ盛り。

だからこそファイナリストは皆さまざまな笑いの取り方をできるはずだけど、その分観客の難易度も上がりました。

去年のクロコップさんが披露した「あっち向いてホイ」のネタは、お客さんに「ふざけた」「明るい」「男子校のノリ」というガイドラインを与え、会話の機微より表現のインパクト、僕は”現象お笑い”とか呼んでるんですが、そっちの空気になってましたよね。

それで割食ったのがかが屋さんで、ストーリーが進む面白さの前に賀屋さんの顔でウケちゃって準決勝の時にはめちゃくちゃウケてたポイントが少しボヤけてしまった。コント中の賀屋さんの顔は面白すぎるんでしょうがないところはあるんですが。いや加賀さんも相当、まあ今は良い。

これ、準決勝とかにくるお笑いファンの方だったら「このコンビはこの感じのネタをやる」という脳の準備ができてるから色んなパターンですぐ理解して笑えますが、決勝観覧の万人にはちと厳しい案件。それでも悲鳴あげてた頃に比べたらだいぶ真剣には見てくれてますよね。

 

TBSで下剋上を果たした日比アナ「以上が私の再建案です。……それで、ほとんど喋らなかった、経営陣の皆さんどうですか?」

 

とにかく去年のクロコップ・ラインの上で最高峰だったビスブラさんが優勝した、という流れがある中で、今年はそれのさらに発展系、といった展開になりましたね。

もうお分かりでしょうが、今年も完全にカゲヤマ・ラインで進んで行きましたもんね。

キングオブコント2023・結果 ※敬称略

一本目のコント「料亭」。タイトル「料亭」なんだ、という意見もありますが「謝罪」にしちゃうと少し内容入っちゃってるので「料亭」で正解ですよね。それか「まゆゆ」。ともかくこの圧巻の馬鹿馬鹿しさで空気を掴んだってことです。

ネタの面白さ以外に上振れした要因を考えるなら、まず去年同様OP映像がカッコ良すぎることがフリになってた可能性ちょっとあるかと。ラップはもちろん、怪物に向かってくあの演出と三浦大知さんの歌唱、からの「おしり」。最高だろ。

あと一発目の「おしり」前の「申し訳ございません!」の絶叫がウケたのは、本当に益田さんの声がデカいからで、テレビで見てるとある程度調節されちゃうんですけど生で聞くと明らかにデカいのが分かって、それまでの音と違いすぎて「この人確実にアホだ」っていうのが襖開く前から伝わったんでしょうね。それで「おしり」でも引かれずに、むしろキャラにピッタリくらいの感じだったのも加速してった要因かと。

「絶叫」に「おしり」、「襖の開け閉め」、お客さんは完全にこれらで「現象お笑い」のムードになりました。
そこにアクセントとしてテーブルクロス引きの件や、まゆゆなど「やりたいことをやって暴れてる感じ」の空気も作りました。
これが後々効いてくるわけですね。

さらに点数もかなり伸びたのは去年のクロコップさんをはじめ積み重ねがあるのかな。
トップバッターだから上位3組に残せなかった、が賞レースでキャリーオーバーし続け、ここで爆発した。
誰かが様子を見ても確実に最終に残るような点数を、結果的には全員が付けた感じがしました。

でまあ、ニッポンの社長さんの「空港」は現象お笑いに振り切ったネタで大爆発。「ケツさんが不死身」というボケを何度も擦る、いわゆる"天丼"のフォーマットでカゲヤマさんと少し被ってた感はありながら、現象の手数と細部の丁寧さで追随していきました。去年の「人類再生計画」もここでやってたら爆発してたでしょうねえ。

そして続くや団さん。ここからがカゲヤマ・ラインの影響がちらほらと。
演出家の伊藤さんが出てくるだけで「出オチ」的に笑いが起き、Tシャツの柄、灰皿の回転という現象で最も爆発。
その分「灰皿が大きくなったから投げづらくなった」という感情や台詞回しの所が完全に伝わり切らなかったなと思いました。それでも本来現象よりそういう展開や機微で魅せる方々がちゃんと現象的な部分も作り込んでいたからこそ逆風でもここまで飛距離を出せたと思いますね、本当に尊敬です。

細かく記すとキリがないのでざっくり行くと、蛙亭さんではキックボードの出オチ、玉子の概念コーデ、とかが現象お笑いでブッ刺さり、四人で食べるつもりの寿司、「知らないよう初対面なんだから」、「ぶつける相手は僕じゃない!」などの機微お笑いが本領発揮ならず……。めちゃくちゃ面白いのに……。

ジグザグジギーさんでは明確にマイナスに働いたシーンはなかったものの、ゼンモンキーがその煽りを大受け。
あのネタは賽銭を入れること自体が面白いというより、喧嘩してるフリがあって、どうやって荻野が出てくるんだろうという期待感の中、あの乱暴な小銭の音のシュールさが素晴らしいのに、現象お笑いムードではあのシーンがメインウエポンみたいに待たれたことで根本的な楽しみ方がズレてしまってる感じがあって気の毒でした。ここはさらに「練習量感」も逆風になってしまって二重に喰らっちゃってたなあ。でもこれが来年やったら最高の可能性あるからムズい。

隣人さんもまたチンパンジーに注目が集中して、橋本さんの落語周りのニュアンスがこぼれ落ちていく中、ここでファイヤーサンダーさんが盛り返す。二人の掛け合いではなくテレビの向こう側にリアクションをするスタイルは現象的で、笑いどころが分かりやすく、なおかつ展開の数も多いことで視覚的な現象お笑い(セット・おしりなど)はなくても、現象的なストーリー(モノマネ芸人だった、会見場乱入、監督がワード残す)だった為、十分空気を持ってけていました。

そして現れたのがサルゴリラさん。
「マジシャン」はパワー系のネタでありながらメインは現象お笑いではなく児玉さんのキャラの哀愁が生み出す機微お笑い。その極北が「午前中に区役所行って…」なんですが、あれちゃんとウケてないんですよあんなに面白いのに。それこそ今回のムードがどんだけ現象寄りだったかって話で。

でもこれが審査員だけ笑ってる感じがあって、小峠さんもコメントしてたようにキャラに深みが出ている状態になる。
そして現象風吹き荒れる中「カシューナッツ」に始まり「靴下にんじん」を出した日には優勝ですよね。本来大爆発とかは期待じゃない部分で取れて、後にエースが控えてるんですもの。

ラブレターズさんは機微お笑い側のトップで勝ち上がってきた感じがあったんですが決勝ではそれを現象寄りにカスタム、これはあるかと思ったんですがちょっと現象も機微も既に全部の笑いが取られた後って感じでしたね……。
「隣の間取りの方が大きい」は区役所級のセリフだと思います!

 

審査員の最期を看取る日比アナ「最近はほとんど喋らなくなった皆さん、どうですか?皆さん?…どうですか?あぁ…おつかれ…さまでした…」

 

結局全組触れてしまいました、最終決戦もありますが点差的にはほぼ一本目で決まっちまいましたね。
でもニッ社さんは「手術」の方も現象お笑いでしたけど、カゲヤマさんの二本目はびっくりするほど機微で、その分ウケ量は減るものの、めちゃくちゃ高度なニュアンスだったので審査員には刺さり見事準優勝。

そしてラスト、サルゴリラさんの「部活」も現象お笑いが含まれていません。対話の中に"魚"という違和感が入ってくるという、ここまでの流れを逆に登っていく鮭のようなネタのはずが、もう1stステージでの爆発で児玉さんへの期待が膨れ上がり、児玉さん=おもしろ大道具のような状態になっていました。極端に言うと「魚を連呼する監督」というオモシロキャラが急に出てきた、ような感じで、突っ込むところも二ヶ所しかないので飽きさせずに二発爆笑取って大優勝。おめでとうございます。

 

こんな感じで整理するといかに流れが大事か、ネタとは絶対的なものではないか、とお分かりいただけるでしょうか。
それぞれのネタが100%伝わる決勝など存在しないのかもしれません、だからいいんですけどね。

M-1は3回戦あたりでその年のムードが出てきます。果たしてKOCの流れで現象的なものが流行るのか。
であればまたマヂラブさんのような方が有利なのか! それで言うと隣人さんが近いのか!
反動で畳一畳あればできる話芸の風が吹くのか!

楽しみだ!

髙比良くるま


1994年09月03日生まれ。東京都練馬区出身。芸人。吉本興業所属コンビ・令和ロマンとして活動。東京NSC23期首席。M-1グランプリ2023王者。

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写真・北原千恵美

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