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事故物件の日本史【第6回】「野中の一軒家」の本当の被害者を考える|大塚ひかり

第六章 野中の一軒家で恐怖するのは誰か ポツンと一軒家の恐怖 「ポツンと一軒家」という人気番組がある。が、最近、こうした立地の家が事件の現場になっていることが報道されている。 実はこの手のいわゆる「野中の一軒家」は、昔話や古典の世界でも、事件の舞台になりがちだった。 ただし、現代と違うのは、そこに住んでいる人が凶行の「被害者」ではなく、「加害者」として描かれているという点だ。 住人が老婆や老僧の一人暮らしというのは、最近の事件の被害者に似ているが、古典の世界では彼らは被害者ではなく加害者であり、しかも鬼と ...

『傷だらけの光源氏』大塚ひかり×辛酸なめ子 特別対談「リアルとスピリチュアルで語る源氏物語」第1回

【第1回】病む姫君、身代わりの人生に抗うヒロイン 大塚:辛酸さんとは、もう10年以上前になりますが、『週刊 絵巻で楽しむ「源氏物語」』シリーズでご一緒して以来ですね。 辛酸:1年間、大塚さんと倉田真由美さんと私で、「源氏物語」についてお話をしました。 大塚:辛酸さんのお話、いつもとても面白かった! 辛酸:私も大塚さんの新刊『傷だらけの光源氏』、興味深く拝読しました。いままで完全無欠の、貴公子中の貴公子だと思っていた光源氏が、タイトルにあるように実は“傷だらけ”……年を取ってからは女性にちょっと嫌われて、最 ...

モヤモヤしながら生きてきた【第7回】日本社会が認めたがらない言葉「フェミサイド」|出田阿生

【第7回】日本社会が認めたがらない言葉「フェミサイド」 昨年の夏、NHKのテレビ番組「キャッチ!世界のトップニュース」を何気なく見ていて、驚いた。この番組は世界各国のニュースが見られるから好きなのだが、フランス国営放送F2のアナウンサーが、夫が妻を殺害した事件を報じるとき、こう言ったのだ。 「フェミサイドは増える一方です……」 いま、フェミサイドって言った!? なぜ興奮したかというと、日本のニュースではこの言葉がまず出ないから。 フェミサイドとは、女性であることを理由にした殺人のこと。1970年代にフェミ ...

事故物件の日本史【第5回】都市伝説「池袋の女」に隠された想い|大塚ひかり

第五章 池袋の女 家に怪異をもたらす人間とは 池袋の女 2024年3月、拙著『傷だらけの光源氏』の刊行記念として、池袋のジュンク堂書店にて、辛酸なめ子さんをゲストにお迎えし、トークイベントを開催した。 辛酸さんは拙著を丁寧に読み込んだ上で、鋭い質問をたくさん用意して下さったばかりか、生霊は自身が意識して飛ばすものと無意識に飛んでしまうものがあると教えて下さるなど、とても楽しく刺激的なひとときを過ごすことができ、ますます辛酸さんのファンになった。貴重な労力を割いて会場にいらして下さった方々、オンラインをご視 ...

本を「カタチ」にする人たち【第1回】「製版」の現場を見に行こう|稲泉連

【第1回】「製版」の現場を見に行こう 本が印刷・製本される現場を見てみたい――。 ライターとして本を書く仕事をしていると、ときおりそんな思いにとらわれることがある。書いた原稿を編集者に渡し、何度かの「ゲラ刷り」のやり取りを交わした後、その原稿はどのようにして一冊の「本」へと変わっていくのだろう。書き手にとって最初の一冊を手にするときの気持ちはひとしおだけれど、その間にどんな「現場」で、どんな人たちが自分の原稿を手にして、一冊の本に変えてくれているのかに関心があった。 私は2017年、それとよく似た思いを抱 ...

モヤモヤしながら生きてきた【第6回】“何かになること”を押しつけられない社会へ|出田阿生

【第6回】“何かになること”を押しつけられない社会へ 知らなかった。これほど楽しい世界があったなんて……! というと大げさだが、映画のカーアクションで、生まれて初めて興奮した。 うわあ、ちょっとなにこれ!! 思わず映画館の座席から身を乗り出し、声が漏れそうになった。 40代半ばにして初の体験である。そしてはたと気づいた。 アクション映画が面白いのは、主演俳優に自分を重ねて感情移入できるからなんだ。 あれ、もしかして人生損してきたのかな……一抹の寂しさに襲われた。 ゾンビ映画に大興奮できたわけ それは、韓国 ...

事故物件の日本史【第4回】凶宅における“怪異”との正しい付き合い方|大塚ひかり

第四章 凶宅で無事に過ごした学者の極意とは 五条堀川邸三善清行 凶宅に引っ越して、無事だった学者 曰く付きの邸宅に住んだ藤原兼家や、やはり“悪キ所”として名高い邸宅の怪異に挑戦した武士に共通するのは、凶宅に立ち向かう勇気であった。 が、いずれも曰く付きの場所に殺されるような形で死んでしまったと伝えられるのは、勇気だけでは凶宅に勝てないと、昔の人が考えていたことを示している。 ここで参考になるのが、平安前期の漢学者、三善清行<きよつら>のケースなのである。 『今昔物語集』によると、彼は万事に通じ ...

『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』 三橋順子×北丸雄二 特別対談 「LGBTQ+…これからの世代に伝えたいこと」第4回

【第4回】いまの現象だけ見てもわからないことがある 日本文化でセクシーなものは、うなじ!? 三橋:大学の講義で、学生にとってインパクトが大きいのは、女性性の表象の話ですね。特に、バストが大きければ大きいほどセクシーというのは共同幻想です、っていうと男子学生は雷に打たれたようにショックを受けるし、女子学生も戸惑います。 北丸:この本の第3講に浮世絵の美人画が掲載されています。そこで女性のおっぱいが見えている。三橋さん、講義では学生に、これは一体何なんだって聞くんですよね? 三橋:乳首が見えてる絵で、名人級の ...

『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』 三橋順子×北丸雄二 特別対談 「LGBTQ+…これからの世代に伝えたいこと」第3回

【第3回】ハッピーゲイライフがやって来た 外国の影響をほとんど受けなかった日本の女装カルチャー 北丸:つまり1990年前後ごろから日本のセクシュアル・マイノリティは伏見さんの本や大塚隆史さんのゲイやキャンプ・カルチャーのムック本が出たりと、ゲイとレズビアンを中心にひとつの転換期を経験することになるんですが、それは、欧米からはじまったゲイリベーション(ゲイ解放運動)の文脈をくんだものですよね。三橋さんはそうじゃなくて、当時も日本の女装史を研究していた。彼らと自分で、「見ているものが違うな」という感じはありま ...

事故物件の日本史【第3回】中国から日本に伝わった“凶宅”ということば|大塚ひかり

第二章 そもそも凶宅とは 凶宅のルーツは古代中国古典……凶宅肯定と凶宅否定と 日本の事故物件について語る前に、古代中国の古典文学にルーツをもつ“凶宅”について、説明したい。 白居易(772~846)の『白氏文集』は、紫式部の『源氏物語』や清少納言の『枕草子』にも引用され、平安貴族にも親しまれていた。 その巻第一には、その名も「凶宅詩」なる作品が収められている。内容は、人間の凶は住宅によらず、住む人間次第という趣旨で、凶宅という概念を否定する、きわめて合理的なものだ。 こうしたことがわざわざ詩として作られる ...

『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』 三橋順子×北丸雄二 特別対談 「LGBTQ+…これからの世代に伝えたいこと」第2回

【第2回】LGBT当事者にはどう接すればいい? 「“普通”に接してください」 北丸:第5講の質問で、「LGBT当事者にはどう接すればいいのでしょう?」ってありますよね。 三橋:各章末に設けた質問コーナーは、実際の講義で出た質問からセレクトしましたけど、「どう接したらいい?」は、ある地方紙の記者からも聞かれました。2017年です。「“普通”に接してください」って答えたら、ポカーンとして言葉がしばらく途切れちゃった。特別な対応をしなきゃいけない、という思い込みがあって、だからどうしたらいいか、具体的に教えてほ ...

モヤモヤしながら生きてきた【第5回】「水着撮影会」問題を自分事として考える|出田阿生

【第5回】「水着撮影会」問題を自分事として考える 水着のサイズを定義するわけ 三角ビキニと呼ばれる水着がある。ブラジャーの部分が三角形になっているアレ。その三角形の底辺と高さが10センチ以上あれば、日本女性の乳房はだいたい隠れるらしい。 こんな数字を出してきたのは、「埼玉県公園緑地協会」。埼玉県から県営公園の管理運営を委託されている公益財団法人だ。おかたい組織が、なぜこんな計算を? その疑問に答えるには、「水着撮影会」から説明する必要がある。モデルやアイドルの水着姿を、一般の人がお金を支払って撮影するイベ ...

『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』 三橋順子×北丸雄二 特別対談 「LGBTQ+…これからの世代に伝えたいこと」第1回

【第1回】セクシュアルマイノリティの現場から 二人の共通項は“現場主義” 三橋:私が北丸さんとお話するようになったのは、ここ3、4年のことです。ある忘年会があって、キッチンで次から次へとお料理を作ってる人がいました。どれも美味しいから、てっきりプロのシェフを呼んだのかと思ったら……それが北丸さん。だから初対面のあいさつは、「ごちそうさまでした、美味しかったです」でしたね。 北丸:あのときは誰も手伝ってくれなくて、ひとりで60人分ぐらい作ったんですよ。 三橋:その前からお名前は存じ上げていたんですけどね。 ...

事故物件の日本史【第2回】『源氏物語』の舞台は王朝心霊スポット〜河原院と二条院|大塚ひかり

第一章 なぜ『源氏物語』の舞台は事故物件ばかりなのか/後編 宇治十帖の舞台は広大な墓場 さて、主人公の源氏死後、その孫たちの物語を描いたのが「宇治十帖」と呼ばれる巻々だ。 その舞台となった宇治は、平安初期、 “わがいほは都のたつみしかぞすむ世をうぢ山とひとはいふなり”(私の庵は都の東南にあって鹿の住むような所だが、このように心を澄まして住んでいる。それを人は宇治山…憂し山…などと、この世をつらく思って遁世したと言っているらしい) と、喜撰法師に歌われて以来、“憂し”の意を込めた歌枕になった。 平安中期の『 ...

事故物件の日本史【第1回】『源氏物語』の舞台は王朝心霊スポット〜河原院と二条院|大塚ひかり

はじめに “凶宅”から福宅へ…事故物件に秘められる未来へのメッセージを探る 「大島てる」というサイトをご存知だろうか。事故物件を地図上に掲載したウェブサイトで、運営者のお祖母様の名前をとっているといい、運営者はイベント・執筆活動などもこの名で行っている。 サイトの存在を知った時、激しくテンションが上がったものだ。 なぜなら、古典文学には曰く付きの邸宅、いわば事故物件がけっこうあって、私はそれを長年ファイリングしていたからだ。 大河ドラマ「光る君へ」の主人公・紫式部の書いた『源氏物語』にしても、その舞台は当 ...