祝!ご入学!
今日からあなたもPTA会員です!!
――ちょっとまって、それ本当!?
PTAは親の義務と思われがちですが、じつは日本全国すべてのPTAは入会も退会も任意です。知らぬ間に入会させられ、労役を課されるその前に、PTAの基本情報を押さえておきましょう。長年PTAについて取材を続けるライターの大塚玲子さんによる“PTA改革のバイブル”『さよなら、理不尽PTA!』より一部抜粋してお届けします。
問題点3 善行っぽいけど問題 学校への「寄付」
現状のPTAは、学校への「寄付」と「お手伝い」、すなわち「お金」と「労働力」というリソースの提供をし過ぎ、という問題もあります。
「それの、どこが問題なの?」と思った方もいるかもしれません。現状、教職員も保護者も「PTAというのは学校にお金をあげて、お手伝いをする団体」と思っている人が大半ですし、実際、学校はそれで大いに助かってきたわけです。「学校には本当にお金(公費)がないんです」と校長先生たちが嘆く通り、学校は国や自治体から、本当に少ない予算しかもらえていません。
でも本来、学校に必要なモノや労働力は、公費という公的な予算=税金で賄う必要があります。義務教育無償は憲法で定められていること。学校に必要なお金を保護者だけで賄えば、当然負担は重くなります。税金なら基本的に応能負担ですが、PTAはすべての家庭に「お金」と「労働力」を一律に課すため、余裕がない家庭ほど大きな負担を負います。
しかも、いまのような強制ベースでの「寄付」やお手伝いは、ますます問題です。自動強制加入のPTAで、つまり本人の同意なく集めた会費で学校に「寄付」をするのは、本当の意味での寄付とはいえません(そのためカギカッコ付きで「寄付」としています)。
この「割当寄付(わりあてきふ)」は地方財政法で、はっきりと禁じられているのです。会費からでなく、バザーや資源回収など、保護者の労働力提供によって得た収入から出すのであれば、割当寄付にはあたらないかもしれませんが、ただしこの場合も自治体への寄付採納など、正規の手続きをするのが妥当でしょう。
PTAは本当は「寄付」やお手伝いの代わりに、国や自治体、社会に対し「学校にしっかり予算をつけてくれ」と声をあげる必要があったのではないでしょうか。戦後75年も経つのに、いまだに「学校にはお金がないんです」「ではPTAが出します」と言い続けている状況は、さすがにどうかと思います。
PTAによる学校への「寄付」は、昔は現金を渡す形が多く、額も100万円を超えることがザラでしたが、戦後、繰り返し議会やマスコミで取り上げられてきたため、だいぶ減ってはきました。しかし、それでもまだ数万〜数十万円の現金を渡したり、「教育振興費」などの名目で、学校の備品を買ってあげる「寄付」は多く、100万円を超える例もまだ見かけます。
たとえば、ある自治体の調査では、「PTAからの受け入れ経費(平成30年度)」が1 00万円を超える小学校は約110校中4校ありました。
東京など一部の自治体は、「寄付」をはっきりと禁じたため、会費からの寄付は少ないのですが(区にもよりますが)、その分、バザーやベルマーク活動など、無償労働の換金による寄付に流れている傾向もあります。
さらに、地域や学校によっては「〇〇学校後援会」などPTAとは別の団体があり、そこでも「寄付」を集めていることもあります。本当の寄付(任意)なら問題ないのですが、残念ながらPTAと同様、「全員必ず払ってください」という割当寄付も見られます。
なお、学校がPTAのお金に頼りがちな原因は、公費の不足に加え、公費の「使い勝手の悪さ」にもあるようです。購入先が限定され、お金がおりるまでに時間がかかる、という問題も改善が求められます。
問題点4 ダダ漏れ注意「個人情報保護法令違反」
そもそも、なぜPTAでは「入会申込みを受けずに会員をゲットする」というアクロバティックなことをできるのか? というと、学校がもつ保護者や教職員の個人情報(名簿)を、PTAのために無断流用、あるいは無断でPTAに提供しているからです。だからPTAは、本人からの申込みがないのに「会員がいるような体裁」をつくれてしまうのです。
このようなやり方は、もちろん問題があります。まず、PTAは「個人情報保護法」に違反します。2017年から改正個人情報保護法が施行され、PTAも対象事業者となったのですが、この法律では、個人情報を不正な手段で入手することを禁じています。学校から個人情報を無断提供してもらうのは適切な手段ではありません。
他方、名簿をPTAに無断提供する学校も、自治体の「個人情報保護条例3 3 」に違反します。公立の学校は個人情報保護法の対象ではなく、自治体の個人情報保護条例の対象なのです。条例も法律と同様に、個人情報の目的外利用や、本人の同意なく第三者に提供することを禁じています。ですから、学校がPTAという他団体に名簿を無断提供することには、問題があるのです。最近では、校長が書類送検された例もあります。
PTAは、本当は自分たちで入会申込みを集め、このときに本人から個人情報を提供してもらう必要があります。要は、一般の団体と同様のやり方をするということです。
なお、PTAが会員から適切に個人情報を入手していれば、非会員の情報は入手できません。つまり「誰が非会員であるか」をPTAは把握できないことになります。
ときどき、PTAに個人情報を提供することについて、学校が各保護者に同意をとるケースもあります。個人情報の取扱い方としては間違っていませんが、ただしこのやり方では、問題点1で指摘した「自動強制加入」の問題が残る点には、注意が必要です。
個人情報をPTAに提供することと、PTAに加入することは、本来全く別のことです。
***
ここで取り上げたPTAの4つの問題点は、法令遵守の観点からも見過ごせません。PTA以外の、一般団体でこういったことをすれば、ニュースになりかねないでしょう。
PTAや学校ではよく、一般的にやってはいけないことでも「子どものためだからよい」と正当化されますが、そんなことはないはずです。子どものためだろうが、大人のためだろうが、やってはいけないことは、やってはいけないでしょう。
学校という場で活動するなら、子どもたちに見せて恥ずかしくない運営をしたいものです。
さよなら、理不尽PTA!
~強制をやめる! PTA改革の手引き~
著・大塚玲子
巻頭漫画・おぐらなおみ
辰巳出版
大塚玲子
ノンフィクションライター、編集者。PTAなどの保護者組織や、多様な形の家族について取材、執筆。著書は『ルポ 定形外家族』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』(晶文社)、『ブラック校則』(東洋館出版社)など。東洋経済オンラインで「おとなたちには、わからない。」、「月刊 教職研修」で「学校と保護者のこれからを探す旅」を連載。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。