家にいるのに"やっぱり"家に帰りたい【第2回】「だいじょうぶ」が「本当にだいじょうぶ」になるまで|クォン・ラビン 桑畑優香 訳

いまいる場所になじむことができず、不安やとまどいを感じると、心やすまる居心地のいい家に帰りたくなる。
自分を守ってくれる温もりあふれる人と空間を誰もが必要としているのだ。
わたしが綴る言葉たちが、あなたのあたたかい避難場所となり、心と体がゆっくり休まりますように。――クォン・ラビン

【第2回】「だいじょうぶ」が「本当にだいじょうぶ」になるまで

がまん

誰かをぎゅっと抱きしめたい。そう願うときこそ、焦らないで。寂しさから恋するなんて、愚かなことだから。

抱きしめられたいと望むなら、その人のすべてを包み込む心をもって。愛されたいと思うなら、その時までがまんする強さをもって。

それぞれの人にとって、必要な時間は違うのだから。

 

「だいじょうぶ」が「本当にだいじょうぶ」になるまで

「だいじょうぶ」が「本当にだいじょうぶ」になるまで、いったいどれくらい待てばいいのだろう。そんなことを考えていた。

別れの経験をつづったりして自分をさらけだすのは、もううんざり。そう感じていたけれど、日々の感情、人生そのものを記すのがわたしの仕事なのだと受け入れるようになった。

つらい記憶について書くことも、成長には必要なことだった。誰かをとがめるのではなく、自分の苦しみは自ら背負うべきだと信じていたし、文章だけが思いをぶつけられる場所だった。だから、逃げるように思いのたけを吐き出した。

悲しくたって、つらくたっていい。

誰かに何かを言われても、噂されても、気にしない。わたしのありのままを見て、受けとめてくれる人がいれば、わたしは本当にだいじょうぶ。そう思えるようになったとき、本当にだいじょうぶになった自分に気づいた。

だいじょうぶになろうと努力していれば、「本当にだいじょうぶになった」と気づく瞬間が訪れる。まわりの言葉に振り回された自分を責めないように、感情に寄りそって穏やかな気持ちになるように。わたしはわたしに時間をあげた。ひたすら、ずっと。

たとえ「本当にだいじょうぶ」になっても、幸せを感じられないかもしれない。
でも、それでもいい。

これから幸せになるために、まっすぐ歩みつづければいいのだから。

 

大切なのはうつわではない

アルミの食器に盛られたごはんと陶器に盛られたごはん、そのどちらも盛られているのはごはん。うつわだけに惑わされて、眼を曇らせてしまうのであれば、その人の品性もその程度だってこと。

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著者プロフィール

クォン・ラビン
1994年、韓国生まれ。9歳のときに両親が離婚。そのことがきっかけで、世間では「あたりまえ」と思われている多くのことに疑問を持ちはじめる。2020年、自分と同じような思いを抱える読者に寄りそう言葉を届けたいと、デビュー作となる『家にいるのに家に帰りたい』(&books/辰巳出版)を刊行。

永遠なる紫の月——あなたはきっと、わたしとこの言葉たちが好きになる。

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桑畑優香
翻訳家、ライター。早稲田大学第一文学部卒業。延世大学語学堂、ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」のディレクターを経てフリーに。多くの媒体に韓国エンターテインメント関連記事を寄稿。主な翻訳書に『BTSを読む』(柏書房)、『BTSとARMY』(イースト・プレス)、『BTSオン・ザ・ロード』(玄光社)、『家にいるのに家に帰りたい』『それぞれのうしろ姿』(&books/辰巳出版)ほか多数。

連載一覧

(イラスト チョンオ)

-家にいるのに“やっぱり”家に帰りたい, 連載