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本屋さんの話をしよう【最終回】僕は本屋のこんな本棚が好き│嶋 浩一郎

【最終回】僕は本屋のこんな本棚が好き 本屋さんの腕の見せどころ 皆様、突然ですが今回が最終回です。終わりはいつもいきなりやってくるものです。 というわけで、今回は僕は本屋のこんな本棚が好きというお話をしたいと思います。 本屋さんで売っている本はどこでも同じです。新潮文庫の三島由紀夫の『仮面の告白』はターミナル駅の大型書店で買っても、地元の駅前の書店で買ってもプロダクトとしては同じ文庫本です。サザンオールスターズ特集の「BRUTUS」はどの本屋さんで買っても中身は変わることはありません。 だから、本屋さんの ...

本屋さんの話をしよう【第16回】本屋をやるなら銭湯っていう手もあった│嶋 浩一郎

【第16回】本屋をやるなら銭湯っていう手もあった 『ゼロの焦点』を読むために、金沢の銭湯へ 本屋に通って立ち読みで本を一冊読み通したなんて笑い話が昔よくありました。まあ、今から思えば本屋さんにとってはかなり迷惑な話ですけど、じつは自分も同じような体験をしたことがあるんです。しかも、本屋じゃなくて、銭湯で。それも旅先の金沢で。 金沢市内を流れる浅野川の川沿いに花街のひとつ主計町(かずえまち)があるわけですが、おもしろい飲食店も集まっています。たとえば、お風呂屋さんをリノベーションしたジャズ喫茶とか、石川県中 ...

モヤモヤしながら生きてきた【第12回】言葉を紡ぐ|出田阿生

【第12回】言葉を紡ぐ 世の中は悪くなる一方なのかもしれない… 年末は、しんどいニュースが続いた。 ここ数年、大勢の女性が声を上げ、世の中が少し変わってきている気がしていた。 それなのに、また振り出しに戻った感覚に襲われた。 何をしても世の中は変わらないのかなと思うと、どうにも気力がわかない。いや、悪くなる一方なのかも。今もうつうつとして、キーボードを打つ手がつい止まってしまう。 まずは性暴力事件の裁判だ。 大阪地裁。部下の女性検事に性暴力を振るったとして起訴された大阪地検の元検事正が、無罪主張に転じたと ...

モヤモヤしながら生きてきた【第11回】司法の世界にもはびこるジェンダーに対する歪んだ価値観|出田阿生

【第11回】司法の世界にもはびこるジェンダーに対する歪んだ価値観 涙と鼻水がダラダラ流れた、ある記者会見の動画 約1時間の動画に、打ちのめされた。 どうしてこんな陰惨なことが起きるんだろう。 視聴しながら、涙と鼻水がダラダラ流れた。 その動画は、上司から性的暴行を受けたと訴える女性の記者会見だった。 上司とは、元検事正の北川健太郎被告(65)。 かつて大阪地方検察庁のトップで「関西のエース」と言われた人物だ。 記者会見は10月下旬、元検事正の初公判が終わった直後に開かれた。 「わたしは現職の検事です」 気 ...

モヤモヤしながら生きてきた【第9回】日本人女性の7割がその存在を知らない「中絶薬」|出田阿生

【第9回】日本人女性の7割がその存在を知らない「中絶薬」 生まれて初めて知った「中絶薬」という薬 わたしには2歳下の妹がいる。6年前にオランダに移住し、夫と子どもと暮らしている。 日本でもコロナが猛威を振るい始めた、2020年の初夏のこと。 「妊娠が分かったよ」 妹とスマホでビデオ通話していたら、うれしそうな表情で報告があった。 ただ、その後、診察で心拍が確認できず、初期の流産と判明した。 処置として、助産師や医師から提案されたのが「飲む中絶薬」だった。 生まれて初めて中絶薬について聞いた妹は、面食らった ...

普段着としての名著【第2回】キューバの思い出とオリエンタリズム|室越龍之介

【第2回】キューバの思い出とオリエンタリズム 「先住民はいません。絶滅してしまったから」 とキューバ人の友人は言った。 2012年、キューバに長期滞在していた僕は短期訪問の日本人旅行者を連れてキューバ共和国の首都ハバナの街を散策していた。この散策に日本語で観光ガイドをしていたキューバ人の友人がついてきてくれたときのことだ。 旅行者は「キューバ人は思っていた感じと違いますね」と呟いた。 「違うというのは?」と僕。 「思ったより白人が多い」 「だいたい25%がヨーロッパ系、25%がアフリカ系、50%が混血、と ...

本を「カタチ」にする人たち【第2回】「分解」の話を聞いてみよう|稲泉連

【第2回】「分解」の話を聞いてみよう 本を印刷する前の製版作業工程の中に、「分解」という仕事がある。私たちが目にする印刷物は基本的に、Cyan(シアン)、Magenta(マゼンタ)、Yellow(イエロー)、Key plate(墨)の頭文字をとった「CMYK」という4色で再現されている。印刷物をルーペで見るとよく分かるのだが、印刷における色や線は点の集合であり、カラー印刷であればこの4色の「点」の配分、そして、ときにはそれに「特色」を加えることによって、様々な色が表現されている。印刷の工程における「分解」 ...

モヤモヤしながら生きてきた【第8回】アフターピルの市販化を阻むものは何か?|出田阿生

【第8回】アフターピルの市販化を阻むものは何か? 生理が来ない。予定日をだいぶ過ぎたのに。今日は来るだろうか、明日は……。 トイレでしゃがむたび、心臓が縮みそうになる。 20代から30代にかけて、何度かそんな経験をした。 お先真っ暗な気持ちで悩むのは、もし本当に妊娠していたら人生が激変してしまうからだ。中絶したほうがいいのか。産むとしたら、結婚は、家族への説明はどうしよう。もし障害がある子が生まれたら……。こういうとき、男性は「じゃあ堕ろせば」などと簡単に言って、相手を絶望させる。女性が抱える悩みが通じな ...

普段着としての名著【第1回】僕がプレゼントした花束が潜在的なゴミだった理由と『贈与論』|室越龍之介

【第1回】僕がプレゼントした花束が潜在的なゴミだった理由と『贈与論』 「花は潜在的なゴミである」と僕のプレゼントを評されたことがある。 なぜこんなことを言われるに至ったか。 順を追って話そう。 僕は福岡に住む大学生だった。朝から晩まで授業を詰め込んでいたし、アルバイトも大学構内の雑用を引き受けていたので、ほとんど大学のあたりで生活が終始していた。大学まで徒歩5分の家で一人暮らしをしていたので、僕の家は友人たちの溜まり場となっていた。毎日のように友人たちと食事したり、酒を飲んだりしていたものの、人間関係に広 ...

『傷だらけの光源氏』大塚ひかり×辛酸なめ子 特別対談「リアルとスピリチュアルで語る源氏物語」第4回

第4回 生霊に予知夢、平安時代は不思議がいっぱい! 辛酸:私は子ども時代、心霊やオカルト系の話にハマっていたのですが……。 大塚:辛酸さんは、いろんなものにはまりますよね(笑)。 辛酸:はい、だから「源氏物語」では、生霊がたくさん出てくるので、どうしてもそれが気になるんですよ。 大塚:生霊も、物の怪も出てきます。 辛酸:生霊って平安時代からいたんだ! という感動がありました。 大塚:それがですね、生霊は紫式部の発見と言われているんです。国文学者の藤本勝義さんが書かれた『源氏物語の〈物の怪〉文学と記録の狭間 ...

『傷だらけの光源氏』大塚ひかり×辛酸なめ子 特別対談「リアルとスピリチュアルで語る源氏物語」第3回

第3回 紫式部が極めた、直接的でないからこそのエロス 辛酸:『傷だらけの光源氏』の第3章は「五感で感じる『源氏物語』」でした。意外だったのが、当時の文化では食にまつわることがすべて「いやしい」とされていた、ということ。男性たちが食事中にある女性を話題に出したら、それは彼らがその女性を低く見ていることになる、というのも、現代にはない感覚ですね。 大塚:現代だと、最初のデートはどこか食事にでも、ってなりますよね。ところが平安時代は、枕草子にも「男が来たときに食事は絶対に出してはいけない」とあるぐらい、恋愛シー ...

『傷だらけの光源氏』大塚ひかり×辛酸なめ子 特別対談「リアルとスピリチュアルで語る源氏物語」第2回

【第2回】「光る君へ」に見る貴族の暴力と経済事情 辛酸:大河ドラマ「光る君へ」は、まひろ(紫式部)の母親が藤原道兼に殺された……という衝撃の幕開けでしたが、これは史実とは違うんですよね? 大塚:実際にそうした事件が起きたわけではないですが、時代背景をよく調べたうえで、「こういうことがあってもおかしくない」というストーリーにしたのではないかと思いました。 辛酸:たしかに「源氏物語」でも、立ち寄った家の娘がいいオンナだったからそのまま無理やり肉体関係を持つ、というシーンもあって、意外にも野蛮だったのかもしれな ...

『傷だらけの光源氏』大塚ひかり×辛酸なめ子 特別対談「リアルとスピリチュアルで語る源氏物語」第1回

【第1回】病む姫君、身代わりの人生に抗うヒロイン 大塚:辛酸さんとは、もう10年以上前になりますが、『週刊 絵巻で楽しむ「源氏物語」』シリーズでご一緒して以来ですね。 辛酸:1年間、大塚さんと倉田真由美さんと私で、「源氏物語」についてお話をしました。 大塚:辛酸さんのお話、いつもとても面白かった! 辛酸:私も大塚さんの新刊『傷だらけの光源氏』、興味深く拝読しました。いままで完全無欠の、貴公子中の貴公子だと思っていた光源氏が、タイトルにあるように実は“傷だらけ”……年を取ってからは女性にちょっと嫌われて、最 ...

モヤモヤしながら生きてきた【第7回】日本社会が認めたがらない言葉「フェミサイド」|出田阿生

【第7回】日本社会が認めたがらない言葉「フェミサイド」 昨年の夏、NHKのテレビ番組「キャッチ!世界のトップニュース」を何気なく見ていて、驚いた。この番組は世界各国のニュースが見られるから好きなのだが、フランス国営放送F2のアナウンサーが、夫が妻を殺害した事件を報じるとき、こう言ったのだ。 「フェミサイドは増える一方です……」 いま、フェミサイドって言った!? なぜ興奮したかというと、日本のニュースではこの言葉がまず出ないから。 フェミサイドとは、女性であることを理由にした殺人のこと。1970年代にフェミ ...

本を「カタチ」にする人たち【第1回】「製版」の現場を見に行こう|稲泉連

【第1回】「製版」の現場を見に行こう 本が印刷・製本される現場を見てみたい――。 ライターとして本を書く仕事をしていると、ときおりそんな思いにとらわれることがある。書いた原稿を編集者に渡し、何度かの「ゲラ刷り」のやり取りを交わした後、その原稿はどのようにして一冊の「本」へと変わっていくのだろう。書き手にとって最初の一冊を手にするときの気持ちはひとしおだけれど、その間にどんな「現場」で、どんな人たちが自分の原稿を手にして、一冊の本に変えてくれているのかに関心があった。 私は2017年、それとよく似た思いを抱 ...