傷つきやすいのはHSPだから仕方ない?|『これって本当に「繊細さん」? と思ったら読む本 HSPとトラウマのちがいを精神科医と語る』より

「やっぱり、私が『繊細さん』だから傷つきやすいんでしょうか」

「職場で、相手の機嫌がすごく気になります。これは気質だから、もう仕方ないんですよね?」

「耳栓や眼鏡など、HSP向けに紹介されていた方法を試しました。少しはラクになったけど、やっぱりしんどい。これ以上どうすればいいんでしょう?」

「後天的に『繊細さん』になることはあるんでしょうか? 私は正直、親のせいで繊細さんになったと感じているんです」

――このようなギモンを抱いたことはないでしょうか?

『「繊細さん」の本』など(シリーズ累計85万部突破)で繊細さんの第一人者となったHSP専門カウンセラー・武田友紀氏と、テレビなどのマスメディアでおなじみの精神科医・名越康文氏の対談書籍、『これって本当に「繊細さん」? と思ったら読む本 HSPとトラウマのちがいを精神科医と語る』から、その考え方を本書より一部抜粋して紹介します。

 

トラウマとは何か? 動物が生き延びる仕組み

名越 武田先生に相談にいらっしゃる方は繊細さんとして生きづらさを感じていて、それをなんとかしたいと相談に来られるのですか?

武田 はい、人間関係や仕事に悩んで、もう少し生きやすくなればとご相談にいらっしゃいます。ですが、カウンセリングをしていると、最終的にトラウマに行き着いてしまうことがあるんです。

名越 繊細さんというのはいわば気質であり、治すものではないのかもしれませんが、一方でトラウマとの関わりがあるというのはよくわかります。繊細さんとトラウマにはどのような関係性があるのでしょうか?

武田 繊細な気質による悩みかと思っていたら、実は背景にトラウマがあった、というのがよくあるケースです。たとえば、繊細さんは感じる力が強いので、誰か怒っている人がいるとすぐに気づいて緊張したりします。職場でそうした状態が続くと、疲弊して「繊細さで困っていて」とご相談にいらっしゃるわけですが、「上司や同僚が不機嫌だったり、電話で怒っていたりするとすごく怖い」という話を聞くうちに、実はお父さんが怒鳴る人だったなどの話が出てくることがあるんです。過去の経験がトラウマになって、まわりの人のイライラや怒りに対するものすごい怖さがあるんですね。ですが、本人はトラウマには気づかず、繊細な気質だからつらいんだと思ってしまうんです。

名越 「繊細さん」という枠のなかでそれが説明できると本人は思ってはるんですね。

武田 はい。私がこれまで、繊細な気質とトラウマ症状のちがいを本でしっかり書いてこなかったのも悪かったと思っています。「気質だから仕方ない」と思ってしまうと、本当は解消していける悩みなのに、そのままになってしまうという問題が出てきます。

先ほどの「まわりの人が不機嫌なのが怖い」という話のように、現在抱えている悩みに過去のトラウマが影響していることがよくあります。過去につらい目に遭うと、もう二度とあんな目に遭わないようにと、似た出来事に対して警戒します。職場にいる間中、警戒状態が続いて疲弊してしまう、ということがあるんです。

トラウマとHSP気質は別物なんですが、「過去の経験に似た危険がないか、まわりにセンサーを張り巡らせる」というトラウマの仕組み自体は、繊細さんの生存戦略にも通じるように思います。

繊細さんは、まわりの環境をよく見て慎重に行動します。これは動物の世界でも見られる生存戦略です。ショウジョウバエには2種類の生存戦略があり、ひとつは、いち早く動くことで餌を得るという戦略、もうひとつは、まわりにリスクがないかよく観察してから動くという戦略です。いち早く動く個体が8割、慎重に動く個体が2割いるそうです。繊細さんは後者ですね。餌を取るのは遅くなるけど、他の動物に捕食される可能性も減って、生き延びる可能性が上がるんです。

名越 4対1くらいの割合で均衡が取れているわけですね。繊細さんの割合(5人に1人)と同じですね。

武田 はい。慎重な個体は少数派であることに意味があって、もし慎重な個体が多数派になったらこの特性をもつメリットがなくなってしまう、というところまで研究でわかっています。

 

【コンテンツ】
第1章◎繊細さんとは?
HSPを知ったきっかけ/繊細さんの素敵なところ/繊細さんの4つの性質/HSPのカウンセリングはどんなことをするの?/繊細さんが自分らしく生きるには/自分がHSPかどうかを知る方法/◆HSPセルフテスト/◆HSPの4つの性質/(DOES)/◆HSPをめぐる様々な研究

第2章◎繊細さんとトラウマの関係は?
トラウマとは何か? 動物が生き延びる仕組み/トラウマについて(武田)/遺伝と環境の両方が、現在の感受性に影響する/トラウマの解消につながるソマティック・エクスペリエンシング®/「繊細さん」に見えない繊細さん/『鬼滅の刃』から考えるトラウマ・解離/休職時代の診療/『星の王子さま』に見る世界とのつながり方/心の報酬を得て、会社員時代よりも元気に

第3章◎繊細さんとトラウマの見分け方
身体の緊張を解きほぐすバーチャルツアー/東洋的な瞑想と西洋的な瞑想/ポリヴェーガル理論とタッチセラピー/自分の「好き」がわからない人へ(武田)/協働調整と感応技法/パーツアプローチ/感覚の出どころは自分? それとも相手?/心理学は決して高邁な学問ではない

第4章◎トラウマを抱えたままどう生きていくか 
トラウマ治療は必要性な分だけ取り組もう/トラウマ治療を終えるタイミングの例/他者とつながる経験が心を支える/心のつながりを感じる共同体感覚/「相性」という視点を取り入れる/トラウマを抱えたままどう生きるか

 

【著者紹介】

名越康文
近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪精神医療センター)にて、精神科緊急救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。著書に『「鬼滅の刃」が教えてくれた 傷ついたまま生きるためのヒント』(宝島社)、『SOLOTIME~ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)『【新版】自分を支える心の技法』(小学館新書)『驚く力』(夜間飛行)ほか多数。「THE BIRDIC BAND」のヴォーカル・作詞/作曲者として音楽活動をするほか、完全会員制動画チャンネル「名越康文TVシークレットトーク」も運営中。

「精神科医・名越康文の研究室 Dr.Nakoshi's Laboratory」
「名越康文TVシークレットトーク」
●YouTube対談:これって本当に「繊細さん」? 武田友紀先生と語るHSPの世界
※「名越康文TV シークレットトークyoutube分室」

 

武田友紀
HSP専門カウンセラー、公認心理師。自身もHSPである。九州大学工学部機械航空工学科卒。大手メーカーで研究開発に従事後、カウンセラーとして独立。HSPが感性を活かし、のびのびと生きることを大切にしたカウンセリングとHSP向け適職診断が評判を呼び、日本全国から相談者が訪れる。著書に60万部を突破したベストセラー『「繊細さん」の本』(飛鳥新社)、『「繊細さん」の幸せリスト』 (ダイヤモンド社)などの“繊細さんシリーズ”がある。ラジオやテレビに出演する他、講演会も開催し、HSPの認知度向上に努める。

「繊細の森」

 

『これって本当に「繊細さん」? と思ったら読む本』
著者:名越康文・武田友紀
発行:日東書院
発売日:2023年8月1日
定価:1,540円(本体1,400円+税)
体裁:四六判240ページ

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