名著『アナログレコードにまつわるエトセトラ』がWEB連載で復活! ディスクユニオン店長兼バイヤーがいざなう、さらにディープなレコード天国(地獄?)へようこそ!

今や(一部を除いて)古の存在となった通販リスト。こういうものに略語が載っていて──。
みなさんはレコードのことだけで頭をいっぱいにして、昼夜問わずレコードをディグる日々を送っていますか?
日中レコ屋を巡れば中古レコードのプライス・タグに、夜間インターネット・オークションを徘徊すれば商品の説明欄に、「VG」とか「SOC」みたいな、なんだかよく分からない暗号めいた文字が書かれていて、「はぁ? これ、どういう意味よ?」と思ったことも少なくないはずです。
ただ、実はこの暗号、オリジナルの見分け方とかコンディションの詳細とか、自分でパッと分からないようなことが簡潔に表現されている、便利極まりない「略語」なのです。
ということで、今回はそんなレコード専門略語を懇切丁寧に分かりやすく解説させていただきましょう。
最近レコードに興味を持ち始めた方はもちろんのこと、(すでに取りに取り憑かれて自制心がきかなくなった)マニアな方にとっても、この略語を読み解く力は必須スキル。知っていれば知っているほどディグがはかどることうけあいなのです。
知らなきゃただの暗号、知っていれば超有益な略語。もっとスキルを身につけて、より良いレコード・ライフを楽しんじゃいましょう!

ディスクユニオンのお馴染み中古カード……暗号だらけ!
とはいえこの略語、いとも簡単に読み解けるものでもありません。スラスラと読むにはいろいろな前提知識が必要で、この話を読めば即略語ネイティブ、というワケにはいかないのです。
では、それを踏まえて一例お見せしましょう。
■THE BEATLES / PLEASE PLEASE ME
【規格】PMC1202
【状態】VG++/VG++
【備考】UK-ORIGINAL / MONO / GOLD PARLOPHONE (DICK JAMES) MAT:1N/1N[1G/1R] E.J.DAY (ANGUS右寄り)/SOBC/WOL w/CS
これはディスクユニオンなんかではお馴染みの商品説明なんですが、問題は略語モリモリの「備考」欄です。これをいったん原語に戻して、略語のない世界をお見せしましょう……お覚悟を!
『英国オリジナル盤、モノラル録音、ラベル面はParloponeレーベル製の黒金地で印刷されたものを使用しており、A1「I Saw Her Standing There」、B4「Do You Want To Know A Secret」の出版社名クレジットが「Dick James Mus. Co.」となっている。マトリクス番号はA面が1N、B面が1N、マザーとスタンパーの番号はA面が1G、B面が1Rとなっていて、ジャケットは表面右下に小さく記載されたテキスト「Photo: Angus McBean」の表示位置が少し右寄りになっている初回仕様。また、ジャケット裏面にはステッカーが貼られてしまっており、さらにラベル面には書き込みあり。そして、カンパニー・スリーヴが付属している』
ね? もうすべてが嫌になったでしょ?
念を押しておきますが、別にこれが全部分からなくても全く問題ないですし、なんならスラスラ読めるほうがどうかしているともいえます。ただ、前提知識を積み上げて、(オタク度とともに)解像度が増していくと、もっとレコードがより深く楽しめちゃうかもしれませんよねという話なんです。
加えて、今の例は略語というよりも、けっこう込み入った専門用語が多かったというのもあります。ここでこれらを全てイチから解説するワケにはいきませんが、ここからは汎用性の高い、もっと「使える略語」を徹底解説させていただきますよ!
それと「状態」欄も暗号度(EX、VGなど)がかなり高いんですが、ここでの解説は割愛させていただきます……。だって、私の前著『アナログレコードにまつわるエトセトラ』でたっぷり解説していますからね!

前著『アナログレコードにまつわるエトセトラ』もあわせてご覧ください!
それでは、最も使いやすい状態表記系の略語からレクチャーしていきましょう。
まずは、以下の略語リストをご覧ください。実際はこれらの略語を組み合わせて使用するのです。
■状態表記用略語①:組み合わせ略語
▼状態
S:Sticker (ステッカー)
W: Writing (書き込み)
T:Tear (裂け・剥がれ)
▼場所
C :Cover (ジャケット)
BC :Back Cover (ジャケット裏面)
組み合わせ方としては、「状態」を上の句、「場所」を下の句にするんですが、その間に接続詞として「O(On)」を使用します。まぁそんなこと言われてもピンとこないかもしれませんので、使用例を写真とともにお見せしましょう……分かりやすいはず!


◎WOC (Writing On Cover)
この略語の組み合わせはジャケットへの書き込みを表していますが、上の写真だと裏ジャケへの書き込みなので、正しくは「WOBC (Writing On Back Cover)」となります。
また、これは状態表記略語の基本原則なんですが、基本的には「マイナス表現」として使います……ってまぁ、そう言われてもピンとこないかもしれませんので、こちらの写真もあわせてご覧ください。


上と同じアルバムで、これも同じく書き込みには違いないのですが、実はこの書き込み、アーティストご本人によるサインなのです。ということで、こんな時はマイナス表現となる「WOBC」という表記はせずに、「w/Autograph」みたいな表記をするのが通例です。だってプラス要素ですからね!
あ、ちなみに「w/」は「With」の略語です。「w」は必ず小文字というのもミソです。なお、「w/o (Without)」という活用形もあるんですが、少なくとも日本ではポピュラーではないので、あまり見ないかもしれませんね!


◎SOC (Sticker On Cover)
これも似たようなことなんですが、プライス・ステッカーが貼られた上の個体は「SOC」で、そのタイトル固有のステッカーが貼られた下のような個体には「SOC」は付きません 。


そして、この場合は「w/Hype Sticker」です。なお、「Hype Sticker」は、「〜のシングル・ヒット曲収録」みたいな、宣伝用のステッカーのことを指しています。


◎TOC (Tear On Cover)
ラベルにも同じことが言えるんですが、剥がれのほとんどの要因はステッカーの剥がし跡。この写真の個体もよくよく見たらステッカー(プロモ・ステッカー)の痕跡が残っているのが分かると思います。
なお、「T」は「Tear」の意味で使うほうが一般的ですが、「Tape」の意味で使う派閥(?)の方もいます。ジャケの糊剥がれかなんかをビーッとテープで留めているアレです。
ただ、こればっかりは文字面だけでどっちの派閥か判断できませんので、迷ったら事前に確認しておきましょうね!



◎WOL (Writing On Label)
1番上の普通の書き込み、そして2番目の塗り絵(元の所有者が中央上部のロゴを赤、回転数の左側のマークを緑に着色)も同じく「WOL」。ただ、3番目のものは同じく書き込みではあるんですが、テスト・プレスやアセテート盤特有のアータイの書き込みで、マイナス・ポイントではないので「WOL」と記載はしません……ね? なんだか要領つかめてきたでしょ?


こちらも以下同文で、上は「SOL」で、下は「w/Factory Sample Sticker」となります。

◎TOL (Tear On Label)
ここまで読めばもうお察しだと思いますが、これは「TOL」と「SOL」の合わせ技という感じですね。
また、ラベルはレコードの顔ともいえるので、「SOL」よりも「TOL」のほうがマイナスが大きく、LPよりもさらにダメージが赤裸々に見えちゃう7”シングル(しかもジャケなしのヤツ)のほうが、さらにマイナス評価が大きくなりますよ……って、もちろんケースバイケースなんですけどね。
■状態表記用略語②:カット盤
そして、お次は状態表記略語の中でも、少し分かりづらいかもしれない「カット盤」です。
そもそもカット盤とはどういうものかというと、いわゆる「新古品」のことを指します。当初は新品で販売していたものの、イマイチ売れ行きが悪い作品の値段を下げて、中古市場へ2次流通品として回そう……そんな時に、新品との差異を出すかのようにジャケットに穴を開けたり、切れ込みを入れたりしたのです。今じゃとても考えられない乱暴な手法ですが、一時期は輸入盤のCDだって同じ手法が取られていました。
また、このカット盤という手法は、基本的にアメリカでだけ行われていたことです。他国盤でもカットがされているものもあるんですが、それは海を渡ってアメリカで新品として販売され、同じく新古品化する時にアメリカでカットが施されたというものなのです……以後お見知りおきを!

◎CC (Corner Cut)
その名の通り、ジャケットの角が切り取られたカット盤です。ただ、このカットの大きさは千差万別で、小さいものから、盤まで切り落とすんじゃないのというぐらい、大きくカットされたものもあります。
また、次の写真も見てください。


これは英国盤なのに「CC」された例です。この作品はちょっと特殊で、こちらの英国オリジナル盤はジャケが英国製で、盤が米国製となっています。ややこしいんですけど。
とはいえ、イギリスにはない他国文化によるカット盤ということで、コレクターからはしっかり忌み嫌われています。まぁ、いろいろと個別のケースはありますが、こういった悪カットは販売価格にもダイレクトに響いてきます。悪しからず。

◎DH (Drill Hole)
ここからは少し細かいんですが、形状違いで略語が変化していきます。こちらは「Drill」というだけあって、文字通りドリルで無理矢理穴をこじ開けているので、ガミガミとした形状になっています。
また、ジャケの中央付近に穴を開けたものもあるんですが、もちろんそれだと中のラベルまで貫通してドリル穴が開くワケで……この乱暴者!

◎PH (Punch Hole)
そして、こちらは若干丁寧な(?)パンチ式の穴。ドリルと違って、穴の大きさはいろいろあります。

◎SC (Saw Cut)
ここからは少しマイナー略語ですが、こちらは「Saw」、つまりノコギリ状の刃でカットしたものです。なお、なんでマイナーかというと、「SOC」とちょっと紛らわしいので、お店とかでも使用頻度が少ないというのもあります。

◎NC (Notch Cut)
そして、「Notch」は「切れ込み」を意味するんですが、切符バサミみたいな感じで切れ込みを入れるんで、ノコギリよりも少し幅があるのがミソですね!
あと、最後に念のための確認ですが、角を切り落としても、穴でも切れ込みでも、形状は違えどカット盤には違いありません。そのため、細かく分けずに総じて「Cut」みたいな感じで記載する店も少なくないでしょう。

もはやどれにも属さない、やりたい放題カットもあります。
ということで、(いつも通り)少し話が長くなりましたが、今回はここまで。ただ、最後に触れておきたいのは、そもそもなぜ略語なんていうものが存在するのかです。
冒頭で触れたように、略語がないとめちゃくちゃ商品説明が長くなってしまうというのはあるんですが、今にしてみれば丁寧なだけで、さほど問題にはならないかもしれません。だって、ネット環境だとさして文字数制限もないですし、意味不明の略語バリバリのほうが分かりづらいかもしれませんしね。
じゃあ、なぜ存在するのか……それを知るには略語の起源をたどってみましょう。まだパソコン誕生以前の話なんですが、レコードの通販リストとかをやり取りする時に、FAXを使用したり雑誌に掲載したりしていたのです。そうなると、紙のスペースが限られている都合上、必然的に短くする必要が出てくるので、いつしかこうした略語が生まれていったという経緯なのです。
今では昔から続くそんなレコード・カルチャーを継承するという側面もありつつ、略語が染み付いているオールドスクールなコレクターたちにとっては、単純にタイトで読みやすいから使っているのです。これからレコードの世界に踏み込んでみようという方には、「こんな中年オーバーのノスタルジーなんて不要だ!」なんていう気持ちもあるかもしれませんが、それも含めてカルチャーとして楽しんでいただければ幸いですね!
あと、これもそもそも話で、海外のレコ屋に行っていただくと分かるんですが、プライス・タグとかに商品説明なんて書いてないんです。細かい略語やコンディションなんていうものは一切なく、なんならプライスだけをバシッとジャケに直貼りです。
よっぽどの専門店以外は、ほとんどの国のレコ屋が同じような状況ですので、いかに日本が特殊でコダワリの強い国なのか、骨身に染みていただけると思いますよ……やっぱり日本は安心安全! では、また次回!
■編集=大浦実千
■バナーデザイン=柿沼みさと
【書籍紹介】 本書の購入はこちらから 【著者プロフィール】 1979年生まれ。神奈川県出身。2003年より(株)ディスクユニオン所属。バイヤーとしてレコードを追い求める日々の傍ら、レコード文化の発展に寄与すべく各種媒体にてコラムや漫画を執筆中。著書にソ連音楽ディスクガイド『ソ連ファンク 共産グルーヴ・ディスクガイド』、『アナログレコードにまつわるエトセトラ』、『レコードジャンキー富和 孤高のアナログ・レコード・コレクター』、編著に日本初のサイケデリック・ロック・ディスクガイド『PSYCHEDELIC MOODS‐Young Persons Guide To Psychedelic Music USA /CANADA Edition 』などがある。 X(旧Twitter):https://twitter.com/@_Akira_Yamanaka

『アナログレコードにまつわるエトセトラ』
著者 山中明
発行 辰巳出版株式会社
定価 2,530円(本体2,300円+税10%)
発売日:2023年4月24日
体裁:A5判/208ページ(オールカラー)
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4777829723/
楽天:https://books.rakuten.co.jp/rb/17426763/
山中 明(やまなか・あきら)
■ レコード・バイヤー/ライター/漫画家
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