名著『アナログレコードにまつわるエトセトラ』がWEB連載で復活! ディスクユニオン店長兼バイヤーがいざなう、さらにディープなレコード天国(地獄?)へようこそ!

レコードは作っても楽しい!
美しきオールド・メディア、レコード。紆余曲折あって「レコード・ブーム」と言われるようになって久しいですが、前回はそんなレコードの栄枯盛衰を中心にお話させていただきました。ただ、それはあくまで導入みたいなもので、今回はより深くレコードを愛するためにも、製造現場の話や、実際のレコードの作り方のススメ的な話をしたいと思います。
というのも、レコードは聴いたり集めたりするだけでも十分楽しいんですが、自分を楽しませてくれているレコードを自分でも作ってみると、また違った角度で楽しめちゃうと思うんです。もちろんお金も手間もかかるんですが、出来上がった我が子のようなレコードは、きっとあなたの心に味わったことのない充足感をもたらしてくれると思いますよ!

ということで、今回はプレス工場をご紹介します。
では、まずは現場を知ってみようということで、私がプレス工場を訪問した時の体験レポをご一読ください。ただ、今回訪れたのは、みなさんお馴染みの東洋化成ではないのです──。
そう、あれは2022年のこと。私に突然遠征DJのオファーが舞い込んできたのですが、その国はなんと……バルト三国エストニア!
私が『ソ連ファンク: 共産グルーヴ・ディスクガイド』という、世界的にもずいぶんと変化球なディスクガイドをリリースしたのは、2022年1月末日のこと。バンバン売れました、なんて口が裂けても言えませんが、ニッチが過ぎるそのテーマは海外のディガーたちにも響いたようで、オール日本語にも関わらずボチボチ順調に販売が進んでいました。
そんなある日、私のFacebookに一通のメッセージが届いたのです。
「この前買った本、ものすごく感動したよ! 今度タルトゥでイベントをやるから来てくれないか?」みたいな内容でした。そして、その送信元はそのタルトゥという街で『Psühhoteejk』というレコ屋を営む、アフトという方からでした。
「タルトゥ……? エストニアだっけ?」
タルトゥはエストニア第2の都市で、人口は約10万人。東京でいえば府中市に毛が生えた程度の広さで、美しい街並みと落ち着いた雰囲気が素晴らしい都市です……って、こんなの今だからスラスラ言えるだけ。
自分の本に頻出した都市名でしたが、正直すぐにピンとくるほどは知りませんでした。ただ、「初めて海外にDJで呼ばれたぜ!」という嬉しさが勝って、そんなアバウトな話に二つ返事でOKしたワケです。その後なんだか話がデカくなって、ビビることになるとも知らずに……。

お呼ばれしたのはこんなイベントでした。
イベント開催日が8月末と決まり、だんだんとその日が近づくにつれて、やけに話が具体的になって不安が募り始めた8月初頭。今回ひょんなことから旅のアテンド役を買って出てくれたのは、タルトゥ在住の日本人研究者のF氏という方でした。そして、彼がたまたま日本に一時帰国するというので、イベントのミーティングでもしましょうか〜と軽い感じで居酒屋に行ったのです。
「トークショーで通訳してくれるのは、上皇様の通訳を担当している方ですよ。コレは国賓対応ですね!」
「え……マジですか……コワ……」
初対面の挨拶もそこそこに、F氏と酒を酌み交わし始めた私は、思ってもみなかった身の丈を超えた待遇にビビり始めたのです。
「もう街のパブに行けば、みんなAkiraが来る、Akiraが来るって毎日盛り上がってますよ! 今一番タルトゥで有名な日本人じゃないですかね?」
私は自分が知らぬ間にエストニアで絶大なプロップスを得ていて、私のために様々な手配が進められているらしいのです。うーん、謎の好待遇。
「いや、なんか自分のことスゴイ人だと勘違いしてませんかね……?」と言いたい気持ちをグッとこらえて、もうこうなったら行くしかないなということで、渡航直前になってようやく腹をくくり始めたのです。
元々海外生活の経験があり、今もレコード買付で年に数回は海外に行く私ではありましたが、さすがに渡航経験なし&お隣ではドンパチ真っ最中の国ということもあり、一抹以上の不安がありましたが、販売用の本とDJ用のレコードをパンパンに詰めて、なるようになるさという気分で出発したのです。

地元新聞は見開き一面待遇!
その後、いろいろあって(割愛)到着した私ですが、すでに夜だったのですぐに宿泊先を案内していただいたのですが、今回は謎の国賓対応ということで、街の名士が保有する中心街ど真ん中の超高級アパートメントでした。
部屋に入ると机の上には新聞が広げてあったのですが……見開き全面には私の姿がデデンと掲載されているではありませんか!
アフト氏が「これは地元で一番有名な新聞だよ。みんながAkiraを大歓迎さ!」って、おいおい、ちょっと待ってくださいよ。これは流石に引きますって──。
とまぁ、そんな感じでエストニアに行って、DJ(+トークショー)も大成功を収めたのですが、全部を話し出すととんでもない長文になっちゃいますので、気になる方がいれば『不思議音楽館 / ORANGE POWER vol.3 ver.2.0』という雑誌に全文(1万字)を掲載しています。もしよかったら、手に取ってみてくださいね!

謎の国賓対応ということで、レストランはどこ行っても顔パス無料……やりすぎ!

なんならソ連ファンク専用の小屋も建っていました。ウレシイ!

そんな小屋前でDJする私。
そして、ようやく本題なんですが、この国賓対応の流れでエストニアにあるレコードのプレス工場にも案内していただきました。
お伺いしたのは『Vinyl Plant』というシンプルな名前の会社で、2022年時点ではEUの北部〜東部で唯一存在するプレス工場とのことでした。
まだ設立数年の新進気鋭の小規模プレス工場ということで、3台配備されたプレス・マシーンは社長自らがパーツを集め独自に組み上げた、オリジナルのマシーンです。マシーンには1台につき1人のスタッフが付いていて、PVC(塩化ビニール)のセットからプレスされたレコードの取り出しまで、各工程を人の手が介するセミオート型でした。
彼らは今っぽくカラー盤にも力を入れているようで、いろいろなパターンを見せていただいたのですが、社長の処女作から自信の最新作まで、大量のサンプルが保存されているのが実に興味深かったです。というのも、それらは時系列に並べられていて、その苦労と情熱の軌跡がレコードで可視化されていました。確かに、最初の方はお世辞にも上手とはいえない出来でしたが、近作はちょっと風変わりなスプラッターも非常に美しい仕上がりとなっていました。まさに努力のたまもの。
さらに、そのコダワリは従業員の労働環境にも反映されているようで、室内の温度管理や休憩室の環境等々、いろいろなところに配慮が行き届いていました。ドンドンと事業も拡大していきたいようなので、やっぱりそういうところも大事ですよね!





とまぁ、そんな感じでレコード製造への知識を深めていくと、なんだか自分でも作ってみたくなってウズウズしてきませんか?
今現在ではさまざまな手段がありますが、今回は私的なオススメを2つほどご紹介したいと思います。なお、これは大掛かりな大量プレスの話ではなくて、あくまで個人の趣味の延長線上でやれそうな規模感でお伝えします。だって、マジで実際に作ってみてほしいですからね!
▪️WOLFPACK JAPAN
https://www.wolfpack-united.jp
まずは、比較的気軽にまとまった枚数を作れちゃう、レコード・プレス・サービス『WOLFPACK JAPAN』をご紹介します。
というのも、その気軽ぶりはホームページに表れていて、プレス枚数とかお好みの仕様とかを入力していくと、簡単に見積もりが取れちゃうんです。
LP、7”等のサイズや回転数、ジャケットの仕様に始まり、インナーのカラーやシュリンクの有無等、いろいろとコダワリを詰め込むことも可能です。しかも、コダワリを詰めれば詰めるほどプレス代に添加されていくという、あるがままの現実をシームレスに金額という形でリアルに分からせてもくれます。明朗会計。
ということで早速、私もレコードを作ってみました。ただまぁ、個人的にではなくて、自分の店の周年ノベルティー用なんですけどね。
今回制作したのは、シリア系アメリカ人のシンガーソングライター、Bedouineによる「Come Down In Time / Hey, Who Really Cares?」という2曲入りの7”シングルです。
現代アーティストではよくある話なんですが、この曲も元々は配信オンリー・シングルというヤツで、CDとかレコードとかのフィジカルは制作されていませんでした。A面はエルトン・ジョン、B面はリンダ・パーハクスと、両面ともカヴァー曲ということもあってそうなったのかもしれませんが、これがまた実に素晴らしいカヴァーなんです。
ただ、私がこの曲をセレクトするまでにも紆余曲折あって、アレが良いコレが良いというアイデアは無尽蔵に湧き出てくるものなんですが、やはりそれらには当然権利があって、ちゃんとオフィシャルに制作するにはなかなかのハードルがあったんです。当然ですけど。
そんなこんなで、最初のアイデアは許諾NG、次のアイデアは権利料で折り合いつかず、そして次は……と困っていたんですが、ある日突然ふと思い出したんです。
以前から親交があった、オーディオ評論家の田中伊佐資さんがYouTubeでこの曲を紹介されていて、その中で「これってレコードになればいいのになぁ〜(超意訳)」みたいなことを言っていたのが頭をよぎったのです。確かに私も好きな曲だし、しめしめ、コレはちょうど良いぞ〜と思い出して即アタック!
その後、無事アーティストの許諾も得て、条件もバッチリだったので制作進行となったのです。あ、もちろんですが、田中伊佐資さんにもアイデア拝借の話をして、快諾いただいております。ありがたや〜。




ピクチャー・スリーヴとかラベルの仕様もいろいろ考えたんですが、結果的には仕上がりに大満足。裏面をくり抜いたのが私のちょっとしたコダワリなんですが、こんなことも簡単にできちゃいます。
そして、肝心のサウンドもバッチリで、制作のイージーさには(良い意味で)似つかわしくない、素晴らしいクオリティーでしたね! うーん、最高!
※ノベルティーの配布はすでに終了しております。あらかじめご了承ください。

自分だけのレコードを作る快感
プレス工場だのなんだの規模感のある制作現場に触れてきましたが、最後にご紹介するのは、打って変わって孤高のさすらいレコード・カッティング職人です。
▪️null record
https://www.instagram.com/nullrecords2026/
『null record(ナル・レコード)』のナルさんは、ポータブルのカッティング・マシーンを担ぎ、レコード・フェアからDJ現場までを行脚する、神出鬼没のカッティング職人です。彼は7”シングルにダイレクト・カットするサービスを行っていて、データはもちろんのこと、その場でマイクから直接撮った音からもレコードが作れちゃうのです。
さすがに個人の趣味で何百枚もレコードを作る人は限られると思いますが、こんな感じで気軽に1枚だけレコードを作れるのであれば作ってみたい、そんな人は多いんじゃないでしょうか?
しかも、彼は軽ノリかなんかでこのサービスを始めたワケじゃなくて、元々その腕はガチガチの超一流エリート。さらに、これをめちゃくちゃお手頃価格(一応具体的な金額は伏せますが、想像以上に安いです)でやっているんですから、もうオススメしない手はないんですよ……。
ということで、気になる方は彼のSNSをチェックしてみてくださいね!

孤高のさすらいレコード職人は、今日もカッティング・マシーンを背負ってアナタの街へ……。
ということで、かなり長くなってしまいましたが、今回はここまで。
こうして作られたレコード、いや、自分の魂(という名の音楽愛)はいずれ海を越え山を越え、世界中の人から人の手に渡るのです。そして、それはさらに時を超えて、何十年後のレコード・ファンをも楽しませるはずなのです。
今までそうやって積み上げられてきた、美しきレコードの円環の一部に自分がなれるなんて、円盤中毒者にとっては最高の愉悦じゃないですか? 正直オススメです!
■編集=大浦実千
■バナーデザイン=柿沼みさと
【書籍紹介】 本書の購入はこちらから 【著者プロフィール】 1979年生まれ。神奈川県出身。2003年より(株)ディスクユニオン所属。バイヤーとしてレコードを追い求める日々の傍ら、レコード文化の発展に寄与すべく各種媒体にてコラムや漫画を執筆中。著書にソ連音楽ディスクガイド『ソ連ファンク 共産グルーヴ・ディスクガイド』、『アナログレコードにまつわるエトセトラ』、『レコードジャンキー富和 孤高のアナログ・レコード・コレクター』、編著に日本初のサイケデリック・ロック・ディスクガイド『PSYCHEDELIC MOODS‐Young Persons Guide To Psychedelic Music USA /CANADA Edition 』などがある。 X(旧Twitter):https://twitter.com/@_Akira_Yamanaka

『アナログレコードにまつわるエトセトラ』
著者 山中明
発行 辰巳出版株式会社
定価 2,530円(本体2,300円+税10%)
発売日:2023年4月24日
体裁:A5判/208ページ(オールカラー)
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4777829723/
楽天:https://books.rakuten.co.jp/rb/17426763/
山中 明(やまなか・あきら)
■ レコード・バイヤー/ライター/漫画家
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