「デフレからインフレに」― 経済の常識が 30 年ぶりに変わった !?|『「新しい資本主義」の教科書 シン・インフレ時代、あなたを守るお金の心得』より

長らくデフレが続いていると思っていたら、いつの間にかインフレが襲来し、所得が必ずしも十分に増えない中で身近な商品・サービスが次々に値上がりしています。人生100年時代、少しでもゆとりある生活を送りたいなら、今この瞬間から「お金」に対する考え方を改める必要があります。

インフレ下でも資産を減らすことなく、持続可能でゆたかな生活を確保するめの「基本となる考え方」について、元日銀マンであり、経済評論家・政策アナリストの池田健三郎氏の著書『「新しい資本主義」の教科書』から一部抜粋してお伝えしていきます。

 

政府が打ち出した「新しい資本主義」とは?

2022年、政府は「新しい資本主義」、「資産所得倍増計画」を打ち出し、「資産所得の倍増とはいったい何か」、と話題になりました。現政権では、「新しい資本主義」の中身として、「企業部門に蓄積された325兆円の現預金を、人・スタートアップ・GX・DX といった重要分野への投資につなげ、成長を後押しするとともに、我が国の個人の金融資産2000兆円を投資につなげ、家計の勤労所得に加え金融資産所得を増やしていくこと」と定義しています。

これは、ごく簡単に言えば「お金の働きをより活発にして、より多くの付加価値生み出す」ということです。無論、所得や資産が倍増するのは悪いことではありませんが、投資による資産増には相応のリスクが伴います。また、せっかく所得や資産が倍増しても、同時に物価も2倍になったのでは実質的には増えたことになりません。ただし、投資で倍増とまではいかなくとも、数割程度ならば増やすことができる可能性があり、体感的に「そろそろ何か手を打たなければ……」と考える人も徐々に増え、投資に注目が集まってきているのも事実です。

危険がすぐ目の前に迫っているのに動かないのはなぜ?

一般的に日本人は「正常性バイアス」が強いといわれます。正常性バイアスとは、自分に都合の悪い情報を無視したり過小評価したりして、不安や心配を減らす心のメカニズムのことを言います。迷ったら動かない、何もしなくても大丈夫だ、下手に動くと危ない―そういう性質が日本人のDNAに強く刻みつけられているのかもしれません。

しかし、緊急時にあえて動かないということは、その場所に居続けるということを積極的に選択しているにほかなりません。隣家で火事が起きているのに、「そのうち消えるだろう」と避難しないのは危険であるばかりか、愚かとさえいえるでしょう。今の日本には、まさにそれに近い状況も散見されます。「国と地方の公的債務(借金)が1200兆円を超えた」、「年金受給開始が70歳以上になるかもしれない」といわれているのに、まだ多くの人が「何とかなるだろう」と考え、行動を変えようとしていません。

「我々は常に動くものの上に乗っている」―つまり自身は静止した状態を保っているつもりでも、実は自身が乗っている地盤自体は常にぐらぐらと動き続けているというわけです。この感覚は、地震大国・日本に住んでいる人々には理解しやすいかもしれません。

しかし、かなりの人は「今すぐに何か行動を起こさずとも大丈夫だろう」と、あまり本格的な対策をせずに生活しているでしょう。これは資産運用においても同じです。私たちは先行き、大激震に遭遇する可能性があり、いつどの方向に動くのかもわからないグローバル経済の上で生活しているにもかかわらず、大事なお金をタンス預金や利息0・001%の銀行普通預金に放置していないでしょうか。

大激震がいつか来るかもしれないと予見されているのに、これまでと同じことを続けているのは、危機管理の観点からは、「何もしないという選択を『積極的に』していること」になります。ある日、危機が現実のものとなってから慌てても、まさに後の祭り、完全に自己責任です。今、グローバル社会はインフレの潮流に入りました。それにもかかわらず、多くの日本人は「物価が高くなった」と嘆くだけで、これまで通り「何もしない」という選択をしているようです。

資産防衛は知らずのうちに、ほとんどの人が行っている

こうした話をすると、「言いたいことは分かるが、資産防衛などお金持ちだけの話で自分には無関係」と言う人が必ず現れます。しかし、そもそも資産運用は、特定の人が一夜にして巨額の富を手に入れる(あるいは失う)ギャンブルのようなものではなく、誰もが身の丈に応じてリスク(危険)とリターン(危険の代償として得られる利益)のバランス調整を図りつつ、コツコツ続けざるを得ないもので、すでにほとんどの人が(意識しているか否かにかかわらず)大なり小なり行っている活動なのです。つまりは過去からの惰性や無計画、ドンブリ勘定などを見直し「家計のやり繰りの精緻化」を行うことを指し、資産の多寡とは関係ありません。

例えば、最近の諸物価の高騰に際しては、「来月から食用油が値上げされるので、少し余計に購入して備蓄しておこう」、「スマホの契約を見直して、安いプランに変更しよう」とか、「電気料金が3割もアップしたので、当初は高額な費用が必要だが蛍光灯をLEDに交換し、さらに節電に努めよう」などと考えるのは、ごく自然な家計の防衛戦略で、資産の増減に一定の影響力を持つ行動と捉えることができます。

なお、消費税率が上がったり、年金の掛け金増額、支給開始延長、金額カットなどが行われたりすると、より大きな打撃を受けるのは、富裕層よりも経済的余裕がない人のほうです。したがって資産運用や投資は、富裕層の専売特許ではなく、むしろ一般の人々こそ、将来の安心・安全のために積極的に考えて行動すべきものなのです。

 

『大谷翔平 二刀流メジャーリーガー誕生の軌跡』 著者:ジェイ・パリス 訳者:関 麻衣子 発行:辰巳出版 &books 定価:880円(本体800円+税) 体裁:文庫判/264ページ

「新しい資本主義」の教科書 シン・インフレ時代、あなたを守るお金の心得
著者:池田健三郎
発行:日東書院
発売日:2023年7月19日
定価:1,760円(本体1,600円+税)
体裁:四六判224ページ

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著者プロフィール

池田 健三郎(いけだ けんざぶろう)
経済評論家・政策アナリスト、関西学院大学大学院 経営戦略研究科 客員教授。シンクタンク代表(公共政策調査機構理事長/共同ピーアール総合研究所長)のほか、TVコメンテーター、ビジネス・コンサルタント、企業経営者として活動中。芸能プロダクション㈱三桂所属。日本公共政策学会、日本行政学会所属。英国勅許公共財務会計協会日本支部 地方監査会計技術者。神奈川県横須賀市出身。県立横須賀高校、金沢大学法学部卒、早稲田大学大学院政治学研究科(公共経営専攻)修了。1992年日本銀行入行(総合職/調査統計局企画調査課)、調査統計局・国際局・金融市場局など一貫して金融経済の第一線で研鑽を積んだ後、民間シンクタンクに活動本拠を移し今日に至る。TBS系「みのもんたの朝ズバッ!」やYTV系「情報ライブ ミヤネ屋」のレギュラーを多年にわたり務め、現在はTOKYO MXテレビ「堀潤 モーニングFLAG」に出演中。近年は、ESG課題を含むSDGs推進に注力。とくに公共政策を中心とした評論・執筆・講演、プロデュース活動、さらには企業団体の役員や顧問として、ESGや持続可能性を重視したPR・IR支援、ガバナンス及びリスク管理強化に注力するほか、戦略的経営のアドバイザリー・サービスや政府・自治体との関係構築支援など多面的に活動を展開。2020年以降は自民党総裁選に臨む岸田文雄議員の広報戦略アドバイザリー・チームの責任者に就き、政権誕生まで一貫してサポートした。著書に『金融政策プロセス論』(日本公法)、『「郵政」亡国論』(ワニブックスPLUS)などがある。

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