続・アナログレコードにまつわるエトセトラ【第2話】フェイクに気をつけろ!|山中明

名著『アナログレコードにまつわるエトセトラ』がWEB連載で復活! ディスクユニオン店長兼バイヤーがいざなう、さらにディープなレコード天国(地獄?)へようこそ!

 

The Beatlesの人気レア盤も、しっかりとリプロが存在しています。

 

みなさんは「リプロ」というレコード専門用語をご存知でしょうか?

リプロ(ないしリプロ盤)というのはリプロダクションの略で、その言葉自体は普通の英語ではあります。ということで、試しにAIにその意味を聞いてみると……『リプロダクション(reproduction)は、英語で「再生」「再現」「複製」「生殖」「繁殖」を意味し〜』云々という解説がスラスラと始まりましたが、レコード専門用語としてのリプロは、ズバリ「フェイク(贋作)」のことを指しています。

ただ、そんなリプロにも大きく2つの種類があります。それは、「非公式リイシュー」としてのリプロと、「純粋なフェイク」としてのリプロです。

早速、非公式リイシューなんていう分かりにくい用語を出してしまいましたが、本来リイシュー(または再発盤)は、キチンと権利関係がクリアされたオフィシャルなもので、ジャケも盤も造りがちゃんとしています。基本的にはですけどね。

一方、リプロはどこかの誰かさんが無許可で勝手に密造したものです。もちろん、そんな誰かさんがマスター・テープやアートワークの原画なんかを持っているワケではないので、やはりそこはイマイチな造りとなっています。

そして、大半の盤は俗に「盤起こし」と呼ばれる、オリジナル盤のレコードをソースにして複製されていて、ジャケットも同じくオリジナル盤を元にしています。ただ、なにせパソコン誕生以前に作られたものが多いので、印刷が甘々でかなりのしょんぼりクオリティーになっていることが基本でしょう。

とはいえ、オフィシャル側もマスターが紛失していたり、保存状態が悪すぎて劣化が激しいなんていうことがあると、「なんなら盤起こしのリプロの方が音良いな……。」なんていうこともあるものです。まぁ、オフィシャルでもそんな理由で盤起こしすることはあるんですけど。

なお、この非公式リイシューとしてのリプロの存在はそれほど問題にはなりません。もちろん脱法レコードであるという事実は十分問題なんですが、リプロかリプロでないかはシンプルに見分けやすく、「つかまされる」可能性は低めでしょう。

先述したように明らかにクオリティーが低かったり、密造者なりの(レコード愛好家として最後に残された)良心が働いたのか、ジャケやラベルのデザインが変えられていたりもします。また、レコ屋によってはコメント・カードみたいなものにちゃんとリプロと記載していることもあるでしょうしね。

とはいえ、このタイプのリプロの存在は、途方もなくレアなオリジナル盤を手頃な値段で試せるなんていう側面も持ち合わせているので、レコード市場ではある程度重宝されているのもまた事実でしょう。

ただ、本当に問題なのは、今回のメイン・テーマでもある「純粋なフェイク」としてのリプロです。これは良心のカケラもない密造者が完全に「ヤリに」きていますので、非常に見極めが難しく、普通のレコード好きはおろか、レコ屋のバイヤーまでだまされてしまうこともしばしば。

これらは今までも、そしてこれからも、中古市場をグルグルと回り続けるので、リプロ被害者の数は延々と増え続けていくことになるのです……くわばらくわばら。

ということで、今回はそんなリプロの被害拡大を少しでも未然に防ぐためにも、百戦錬磨の私がその見極め方を伝授させていただきます。

具体例を挙げながらそのポイントを解説させていただくんですが、ここで最も大事なことは「リプロの存在の有無」を知ることです。今自分が探しているとあるレコードにはリプロが存在する──その事実さえ知っていれば、あなたのフェイク・センサーはフル稼働して違和感にビビンと気づき、その被害から免れることが可能となるのです……さぁ、五感を研ぎ澄ませ!

 

画像はオリジナルですが、多くのリプロが市場に流通しているジョン・レノンのレア盤『Roots』。リプロでもバリエーションがありますし、チェックすべきポイントもたくさんあるんですが、定番リプロは裏ジャケ下部の『20 SOLID GOLD HITTS』のジャケ写の、「ORIGINAL HITS BY」等の黒い文字が潰れてしまっています。

 

ケース①

The Yardbirds 『Little Games』(US / Epic / BN26313)

最初のケースからトップ・ギアなんですが、これは非常に厄介なリプロです。アマチュアから熟練のプロまで、今まで数多のレコード野郎たちをだまし続けてきたセオリー無視の最強リプロといってもいいでしょう。

では、順に追って説明していきましょう。

まず世の中に存在する数多のリプロを見極める際に、その肝として最有力候補となるポイントは、デッドワックス(最内周の無音部)に刻まれた「刻印」になります。特に、オリジナル盤が「機械打ち」と呼ばれる刻印を採用している場合は、最短で判別がつくでしょう。

刻印とは、音溝が刻まれていないデッドワックスに刻まれた文字や記号のことで、製品番号や製造工場、カッティングを担当したエンジニアの名前等の情報が記載されています。

そして、その刻印方法には大きく2種類、「機械打ち(マシン・タイピング)」と「手書き(ハンド・ライティング)」があります。「機械打ち」はその名の通り機械的に刻まれたもので、カチッとしたキレイなフォントになっています。一方、「手書き」は人の手で直接刻み込まれたもので、丁寧なものから汚すぎて判読不能なものまで、さまざまな刻印が存在しています。

つまり、ここではその情報を利用して、真贋を見極めようということです。オリジナルは「機械打ち」のはずなのに、今手にしているレコードの刻印は「手書き」になっている──みたいな食い違いが発生しているとリプロだと判別がつくワケです。え? なんでオリジナルがどっちの刻み方かを知っているかって? それは話せば長くなってしまうので割愛しますが、プレス国やレーベル等々である程度パターンっていうものがあるんです。

なお、多くのリプロはその製造工程上の理由から、基本的には「手書き」となっていますので、こういったファクトをベースにして詰めていくと真贋判定ができるワケです……って、大丈夫ですか? ついて来れてますか?

 

1枚目がオリジナル、2枚目がリプロ。色やフォントのエッジが少し鈍っているのがお分かりでしょうか?

 

そして、ここからが本題になります。

The Yardbirdsには超定番として『Live Yardbirds』のリプロが存在するんですが、見分け方は至ってシンプル、「ジャケのカラーリング」です。オリジナルは「カラー」で、リプロは「白黒」、ただそれだけでOKです。

ただ、問題なのはこの『Little Games』です。

これらは1970年代製のリプロなのでしょうか? ジャケやラベルはパッと見た感じではオリジナルとほぼ同じで、経た年数もそれほど変わらないので、その劣化具合もかなりそれっぽいのです。

 

こちらも1枚目がオリジナル、2枚目がリプロ。正直同じですよね

 

そして、一番の問題は刻印です。

先ほどお伝えした判別方法の最有力候補、デッドワックス部分の刻印が、セオリー無視の「機械打ち」となっているのです……これはヤバい! しかも、上の画像をよく見てください。オリジナルと比べるとよく分かるのですが、フォントも完璧に一緒……再現度がエグいのです!

これって、まだ初心者の方にはピンとこないかもしれませんが、すでにレコードに関して一定以上知識のある方こそが危険なんです。だって、頭にはセオリーが染み付いているのに、ブッちぎりで無視してきてるワケですからね。

私はなにせ百戦錬磨なんで一瞥すれば判別できますが、この見極め方をより多くの人に伝えるにはどうすればいいのか、そして文章化するにはどうすればいいのか、そんな余計なお世話を長い間考えてきたんですが……ついにワン・ワードでお伝えする方法を発見したのです!

そう、その気になる見極めポイントこそが、刻印の「輝き」です。

では、改めて上の画像を見てください。フォントこそ同じですが、なんだか輝き方に差があると思いませんか? リプロの方はなんだか全体的にのっぺりとしているのです。

これはおそらく掘りの深さのようなものが違うんだと思いますが、決定的な違いではあります。こんなの見比べないと分かんないよ……と思われたかもしれませんが、一度この情報を頭に叩き込んでおくと、次からはパッと見で気づけるようになるんですよ。いや、ホントに。

さぁ、復唱しておきましょう。「刻印の輝き」、ちゃんと覚えておいてくださいね!

※あ、あと実は、このリプロってStereo盤(BN26313)にしか存在しないと思いますので、Mono(LN24313)だと基本的に安全だったりしますよ!

 

1枚目がオリジナル、2枚目がリプロ。ちょっとオリジナルの方の画像が粗めで見づらいかもですが、縁の部分の形状が少し異なっているのがお分かりでしょうか?

 

ケース ②

Brinsley Schwarz『Brinsley Schwarz』(UK / United Artists Records / UAS 29111)

次にご紹介するのは、ちょっと特殊なケースにして好例です。

本作はみんなの人気者、ニック・ロウを擁した英国のパブ・ロック・バンドが1970年に残したデビュー・アルバムなんですが、さっきのThe Yardbirdsと比べても一般的な知名度は少し低めだと思います。

「こんなメジャー感イマイチなタイトルのリプロなんて作んないよ、だって儲からないじゃん……」という気持ちの隙間を突くかのように、マイナーだったり、ほとんど無名な自主盤にもリプロは存在するのです。

そして、本作の見極めポイントは2点、刻印とジャケットです。

オリジナルの刻印は「機械打ち」で、リプロは「手書き」となっています。また、ラベルの紙質や形状も若干違いますし、一見簡単に見極められそうなんですが……やはりそうは問屋が卸しません。

というのも、このリプロもセオリーを無視しているところがあって、ジャケットの加工方法に罠が潜んでいるのです。多くのリプロは造りが雑だったり簡略化されていたりするんですが、こちらではテクスチャー加工までもが再現されているのです。そのため、「ジャケはちゃんとしてるし、刻印はオリジナルでも手書きのパターンがあるのかな?」と思い込ませ、プロ・アマ問わず今まで多くのレコード野郎たちを欺いてきたのです。

とはいえ、そんなジャケットも実際に見比べてみるとけっこう違うものです。さぁ、ご覧ください。

 

これも1枚目がオリジナルで、2枚目がリプロです。ちょい違うでしょ?

 

こう見ると、加工のパターンが異なっていることが分かりますよね?

ただ、そんな細かいディテールは忘れてしまうかもしれませんので、もう1点大きな違いを確認しておきましょう。

 

今度は1枚目がリプロで、2枚目と3枚目がオリジナル。

 

見開き部分の内面にもテクスチャー加工が施されているのは同じですが、よくよく見てみると、オリジナルには折り部分の上下に三角形の切り込みが入っているのです。これはちょっと謎の仕様で、他作品ではほとんど見られません。そのため、ここが一番分かりやすい見極めポイントとなるワケですね! これで安心!

 

英国ジャジー・プログレの人気レア盤、Tonton Macoute『s.t.』の例も。1枚目と2枚目がリプロで、3枚目がオリジナルです。オリジナルはラベルにコーティングが施されていて、風合いがまったく異なっているのが分かると思います。

 

ということで、今回は2つのケースをご紹介しましたが、他にももっと極悪なリプロ、否、単なるリプロを超えた醜悪なフェイクが存在するのです……ただ、字数の関係もあるので、それはまた次の機会にお話ししましょう。

最後に繰り返しにはなりますが、判別する上で最も大事なことは、その作品に「リプロが存在するかどうか」を知ること、そして、何かしらの違和感を察知し、五感が怪しいと判断したら買わない、いわば「君子危うきに近寄らず」を徹底することです。

こういった精度の高いリプロはプロであるレコード屋をもだまし、店で普通にオリジナルとして売られている現場も数限りなく見てきました。さらに、なんならその事実に気づいているのに、高からず安からずの絶妙な値段設定にしてだましにきている(としか思えない)店もありますからね……ぐぬぬ。

とにかく、用心するに越したことはありません。最後に信じられるのは、自分自身の知見だけなのですから……では、また次回!

■編集=大浦実千
■バナーデザイン=柿沼みさと

【書籍紹介】


『アナログレコードにまつわるエトセトラ』
著者 山中明
発行 辰巳出版株式会社
定価 2,530円(本体2,300円+税10%)
発売日:2023年4月24日
体裁:A5判/208ページ(オールカラー)

本書の購入はこちらから
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4777829723/
楽天:https://books.rakuten.co.jp/rb/17426763/

【著者プロフィール】
山中 明(やまなか・あきら)
■ レコード・バイヤー/ライター/漫画家

1979年生まれ。神奈川県出身。2003年より(株)ディスクユニオン所属。バイヤーとしてレコードを追い求める日々の傍ら、レコード文化の発展に寄与すべく各種媒体にてコラムや漫画を執筆中。著書にソ連音楽ディスクガイド『ソ連ファンク 共産グルーヴ・ディスクガイド』、『アナログレコードにまつわるエトセトラ』、『レコードジャンキー富和 孤高のアナログ・レコード・コレクター』、編著に日本初のサイケデリック・ロック・ディスクガイド『PSYCHEDELIC MOODS‐Young Persons Guide To Psychedelic Music USA /CANADA Edition 』などがある。

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-続・アナログレコードにまつわるエトセトラ, 連載