試し読み|『黒板アート甲子園作品集2019-2022』過去に受賞した卒業生たちの「黒板アートの描き方&後輩へのエール」

黒板アート甲子園作品集2019-2022』に掲載されている特別企画「黒板アートの描き方&座談会」から一部抜粋してお届け。それぞれ受賞実績のある元高校生だが、現在では黒板アートの制作依頼が舞い込むアーティストでもあり、美術への理解を深めるべく勉学に励む大学生でもある。東京・大井町にある日学株式会社本社にて、実際に黒板アートを描きながら語ってもらった。

写真左から、塩澤海斗、林利緒奈、橋場こゆき、阿部れいな

 

黒板アートで意識していること

塩澤:久しぶりに黒板アートを描きましたが…やっぱり大変ですね。今回ハッチングという技法を使っていて、離れて見たときの絵の印象に注意しながら描きすすめました。描いているときはどうしても黒板との距離が近くなるので、最後は離れて見て確認する、ということを今回もですが、いつも注意深くやっています。

:私は今回、いろいろな色を重ねて人の肌に見えるようにする、ということを意識しました。

橋場:(林さんの作品を見て)ほんとに不思議な色づかいするよね?

:ほんと? わあ、うれしい(笑)。黒板の地の色を影にすると、透けているような感じになってしまうから、影の部分は緑とか「肌」とは程遠い色を下地にしてきちんと描くことで、遠くから見たときに暗くなって見えるようにしました。透けさせないためにあえて暗い色を置いている…というところがポイントと言えばポイントです。

橋場:私が描いたのは金属のシャープペンシルなんですが、金属のものって、よく見てもらうと黒と白が隣りあっているんです。さらに、よおーく見ると、黒の部分と白の部分がパキっと分かれているんですね。なので、それを表現するために消しゴムを使ったり、白のチョークを使って黒と白を隣り同士にしたりしています。そのなかに消しゴムで(消して)黒板の地の色を使って中間の灰色をつくることで、金属特有の質感を表現しました。

阿部:私は白のチョークのみで動物を描いたんですが。質感にかなり特徴があるものだったので、白から黒に移り変わる境目のところを意識して描きました。地そのものが黒いのでそこを考慮しつつ、影がどのくらいあるのか、光がどのくらいあるのか。

 

橋場:こうして見るとほんとうに四者四様という感じですね。私自身、絵にそこまで自信があるわけではないんですけど、自信がないぶん、アイデアをふくらませてうまい人に勝つ方法を考えたりしていたことが今に繋がっているように思えます。今回なら金属のシャーペンですが、これを黒板で描くにはどうすればいいか…というところから、シャーペンと何を組み合わせたら画面や構図が面白くなるかとか。連想にちかいのかな。

塩澤:紙に比べて黒板というものはすごく横長で構図がとりにくいですからね。その横長の黒板を端から端まで活かすような構図を考えることに時間をたくさん使ったらいい作品が生まれる気がします。描く前にそこをしっかり考えるだけでかなり違ってくるはずです。あと、黒板アート甲子園の審査は画像(写真)審査じゃないですか。実物で見ていいなと思う作品でも写真で見たときに印象が変わってしまうということはよくあるのでこまめに写真を残して、審査をする側がどう見えているかを考えながら進めるといいのかな。

阿部:もし技術にまだ自信がないのであれば、やっぱりアイデアは大事だなと私も思います。黒板という共通項を利用するという意識を持っていてもらうといいんじゃないかな。せっかく全国から作品が集まるので、内輪ノリで自分たちだけが知っているものというよりは、「青春」とか、高校生ならではのものを土台にしてもいいし。オリジナリティはありつつもみんなが知っているものに昇華できると自分たちの強みになりそうですよね。

 

黒板アートがもたらしたもの

:黒板アートに出会って、TV チャンピオンに出たりして「自分も1番になれる」と、自分に対して自信を持つことができて。何かで1番になるというのは初めての経験で、そこから黒板アートのお仕事をいただいたりするようにもなりました。だから、黒板アートは人生の大きなきっかけにもなったし、人との繋がりにもなってくれているなあと。

橋場:私は、もともとデザインの専門学校に行こうと思っていたんですが、美術の力で「人の心を動かす」ことができるんだと黒板アートをやったことで気がついて。もっと幅広く美術を捉えたいと、現在の大学に進路変更しました。今は美術教育にも興味があって子ども向けのワークショップなどにも参加しています。

阿部:私も黒板アート甲子園で最優秀賞がとれたことで自信がついて、美大受験をしようという気持ちになった部分もあります。大きい画面で絵を描いてみたいな、と。実は受験からずっと、描くものに写実性を求められていて、練習もよりリアルに…という方向になっていたんです。だから逆に、そうじゃない視線・視点というものが欲しくなる瞬間があります。美術にかかわっていない人たちの視点というか…なのでそういうお話はとても興味深いですね。

塩澤:黒板アートの依頼をしてくださる方は、美術以外の世界の人だったりするんですよね。そういうところから美術の外の世界に触れて、その体験が美術に還元されて、自分の作品制作の幅が広がっていく。黒板に向かって何人かで同じ絵を描くという体験は高校を卒業したらほとんどありません。だからこそ黒板アートを通して授業とか以外の時間も楽しんでもらえたらいいですよね。

:黒板アート甲子園で賞をとるってすごいことだし、それによって得られるチャンスも多いと思うので、そのチャンスを貪欲に使って、今後の進路などにいかして頑張ってもらいたいですよね。

橋場:高校生だけじゃなく、この本を読んで美術をやってみたいという気持ちになる方もいらっしゃいますよね、きっと。そういう方にはぜひその気持ちを大事にしてほしいです。

阿部:学生さんにとっては毎日見飽きている黒板にとことん絵を描けるのはきっと楽しいと思います。精一杯楽しんで、思うままに描いてください。

 

<座談会メンバー>

阿部れいな│あべ・れいな

埼玉県立大宮光陵高等学校・美術科卒業。黒板アート甲子園2018 年度大会において『極彩色を纏い』で最優秀賞を受賞。古来の独特な表現技法や色具の鮮やかさに感動したことがきっかけで美術大学進学を志す。現在は東京藝術大学美術学部に在籍し、日本画を専攻している。

塩澤海斗│しおざわ・かいと

静岡県立富士宮東高等学校・普通科芸術コース、東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業。黒板アート甲子園2017 年度大会において『VR 黒板』で最優秀賞を受賞。第8 回日動画廊未来展にてグランプリを受賞。様々な展示に出展するなど精力的に活動している。

橋場こゆき│はしば・こゆき

神奈川県立白山高等学校美術科卒業。黒板アート甲子園2019 年度大会において『美術やろうぜ!!』で入賞。2019 年、TV チャンピオン極「高校生対抗 黒板アート選手権」(BS テレ東)に出場し、チャンピオンに輝く。現在は東京造形大学に在籍し、グラフィックデザインを専攻。ワークショップなどでも講師を務める。

林利緒奈│はやし・りおな

神奈川県立白山高等学校美術科卒業。黒板アート甲子園2019 年度大会において『美術やろうぜ!!』で入賞。2019 年、TV チャンピオン極「高校生対抗 黒板アート選手権」(BSテレ東)に出場し、チャンピオンに輝く。現在は和光大学表現学部芸術学科に在籍し、ワークショップなどでも講師を務める。

 

本書は、瑞々しい感性と無限の想像力を持つ高校生たちの作品が盛りだくさん。2019~2022年度に開催された黒板アート甲子園の傑作を239点掲載しております。

書籍:黒板アート甲子園作品集2019ー2022 チョークに込めた熱き想い
監修:日学株式会社
定価:4,180円(本体3,800円+税)
体裁:A4判/176ページ(オールカラー)
発行: 日東書院本社(辰巳出版グループ)

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【監修】日学株式会社


1950年に創業、1957年に設立された、黒板の製造・販売を主要事業に据える企業。ITやDXをはじめとするデジタル技術革新・変化が速い時代において、「どんなに技術が進歩しても、人と人が向きあって、言葉や文字、あるいは絵図で考えや想いを伝えあうアナログなコミュニケーションは生きつづける」という信念のもと、「社会のコミュニケーションを支え続ける」ことをミッションに掲げて事業を展開。最新技術を取り入れた製品への探求にも余念がなく、あらゆる壁面のコミュニケーションスペース化やデジタル機器との融合など、次世代に求められる製品づくりに日々取り組んでいる。
2015年より毎年、「日学・黒板アート甲子園®」を主催。学生に馴染みの深い「教室の黒板」をキャンバスにするという斬新な試みで、「アート系を志す学生」たちが、運動部のインターハイ同様、協働・全力で情熱を注げる大会を実施。学校生活で得た「想い」を形にすることで、学生たちの創造・芸術性を世間に発信し、これからの未来を担う若者たちが活躍できるフィールドを広げる貴重な場を提供するとともに、教育・文化の発展に貢献している。
日学HP:https://www.nichigaku.co.jp
日学・黒板アート甲子園®HP:https://kokubanart.nichigaku.co.jp

 

 

 

 

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