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リーダーの保護犬こみみ(右)とお散歩に行く元「野犬の子」たち(写真提供:home for paws)

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トイレはすぐに覚えて無駄吠えや争いもなし。「野犬の子たち」が愛情を注がれて巣立っていくまで|野犬5きょうだい

2022年12月20日

血統書がなくても、ブランド犬種ではなくても、こんなにも魅力的で、愛あふれる犬たちがいます。
み~んな、花まる。佐竹茉莉子さんが出会った、犬と人の物語。

保護犬たちの物語【第2話】野犬5きょうだい

紅葉が色づき始めた11月のある日、内房総の広大なドッグランで、元野犬たちの同窓会が開かれた。千葉県市川市で野犬たちの預かりから譲渡に繋げている加藤紗由里さんの自宅シェルター「home for paws」を巣立っていった卒業生たちが、飼い主に連れられて集ってきた。きょうは、生後9ヶ月の5きょうだいも勢ぞろいする。4匹は実のきょうだいで、1匹は同じ場所から保護された母親の違う同年齢の子である。彼らも「野犬の子」と呼ばれていた子たちだ。

数ヶ月ぶりの再会に大はしゃぎの、(右から)ルー、ルル、セボ

一番乗りは黒犬の女の子ふぉす。千葉県内で、先住犬のりざお姉ちゃんと、乳飲み子の時に保護された猫たちと仲良く暮らしている。
鎌倉からやってきたのは、鼻筋に白い筋がある茶色の女の子ルル。預かり時の名は「ニャボ」だったが、争い続きの世の中に心を痛める子どもたちが平和を祈って、ハワイ語で「平和」の意味を持つ「ルル」と名付けた。
白黒で白いハイソックス模様の女の子は、ルー。ひとめぼれしてくれたパパとママと都内で暮らしている。
ルーと同じく白黒だが、黒い斑点模様のあるセボは、きょうだいの中で唯一の男の子。保護猫先輩2匹と、神奈川県で暮らしている。
まずは、4匹そろったところで、はしゃぎ合いながら、きょうだいはドッグランへ。他の犬たちがあまり入りたがらない池を見つけるや、ザンブと飛び込み、ずぶ濡れのままで、追いかけっこを始めた。野犬として生まれた子は身体能力の高い子が多いと聞くが、めざましい跳躍力である。

初対面のフレンチブル君ともすぐに友だちに

遅れて、ベージュの女の子カルモちゃんも、埼玉県から駆けつけた。すぐさま、きょうだいたちに大歓迎される。
同窓のジャックとルーニーを交えた7匹が、体中をバネに走り回り、転げまわり、愉しさのあまり互いを噛み合う。甘噛みは、最大の愛情表現なのだ。

さんざん噛み合ってきょうだい愛を再確認した、ふぉすとセボ

ふぉすのお母さんは、元野犬と一緒に暮らしてみて、野犬の賢さに驚くことがたくさんあるという。
「人間とかかわらずに暮らす野犬は、自分で自分の身を守らなくてはならないから、ビビリと言えるくらいとても注意深く用心深いですね。無駄な吠え方は一切しませんし、危険な場所にも近寄りません」
そんな用心深い元野犬が、自分に心を開き、信頼し甘えてくれるようになる喜びは、とても大きかったという。

紗由里母さんとこみみ母さんを囲んで

きょうだいたちがはしゃぎ回っていると、育ての親がふたり到着。
幼い自分たちを保護して育ててくれた人間の紗由里母さんと、柴犬のこみみ母さんだ。卒業生たちはこぞって駆け寄り、紗由里さんに甘え、こみみを囲んでもみくしゃにした。野犬の子たちがどんどんたくましくなっていくのと引き換えに、こみみ母さんは年老いていく。
全員そろっての記念写真は、毎回、大変だ。シャッターのたびに、誰かがお尻を向けているか、輪から抜け出していくから。

同窓会恒例の記念撮影

会うたびにたくましく、家族に愛されている自信をみなぎらせる卒業生たち。紗由里さんにとって、それを目の当たりにするのが、至福のときだ。

栃木県の牧場に、人なれすることなく住み着いてしまっていた野犬から生まれた4きょうだいを紗由里さんが保護に向かい、自宅に搬送したのは、今年4月7日のことだった。
4匹は2月生まれと思われた。全員ノミとダニだらけ。何を食べていたのだろうか、お腹にはたくさんの回虫がいたが、とても元気でやんちゃな子たちだった。
捕獲が遅れていたら、親と同じく人間には警戒心バリバリに育ってしまっただろう。

保護初日の「カルモ」(写真提供:home for paws)

保護初日の「セボ」(写真提供:home for paws)

保護初日の「ふぉす」(写真提供:home for paws)

保護搬送時、左上が「ルル」(写真提供:home for paws)

10日遅れて、同じ牧場に住みつく別の野犬の母犬から生まれた黒白の「ルー」も、保護(写真提供:home for paws)

5匹はこみみ母さんのもとで、5きょうだいとしてやんちゃを尽くし、大きくなった。

「今日もしっかりやんちゃしました」(写真提供:home for paws)

紗由里さんは言う。
「野犬の子は、水辺で用を足し、敵に居場所を知られないようにと母犬から教わります。なので、家でも水回りでおしっこをするんですよ。とても賢くて用心深く、トイレの場所など一度覚えたことは忘れません。無駄吠えも、無用な争いもしません。我が家には保護猫も常時10匹くらいいますけど、猫とも息子たちともすぐに仲良くなりました」

犬は群れを作る習性があるので、リーダーがいると暮らしやすい。
紗由里さんの家の場合は、2021年に推定18歳で旅立った柴犬のこのはから、若い保護猫コタロウにバトンタッチされた。昨年末にセンターで出産し、娘たちと共にここに引き取られたこみみがやってきてからは、こみみとコタロウがダブルリーダーとして犬猫を取り仕切っている。
コタロウはシッポを子犬たちのおもちゃに鷹揚に提供してやるが、痛すぎるとピシッと叱る。

子犬たちは、猫のコタロウリーダーに頭が上がらない(写真提供:home for paws)

現在、紗由里さんが自宅で面倒を見ている犬猫は、合わせて21匹。
「動物ってすごいなあと思うのは、リーダーがはっきりしていること。人間のリーダーみたいに威張ることもなく、何か起きたときにはサッとことを鎮める。だから、血がつながっていない者同士もすぐに仲良く暮らせるんです」
交通事故でセンターに収容され、骨髄炎の治療後に迎えた犬も、みんなに大歓迎されたし、センターで子どもを8匹出産した母犬も、ここで安心して子育てできた。

愛情を注げば、犬猫は必ず愛を返してくれる

そんな動物たちの「互助」に支えられて、この活動を続けてきた紗由里さんだが、その原点は子ども時代にあるという。
「歩けば、ノラ犬ノラ猫に出会う山のふもとの町に育ちました。捨て猫などを見つけてもマンション暮らしでは飼えないので、こっそりマンションの床下に連れてきては貰い手を探す少女時代でしたね。『おとなになったら、家のない犬や猫を助けたい』と、いつも思っていたんです」

結婚して子育て一段落の年になった頃、とある団体の預かりボランティアの方が書いているブログのあたたかさに心ひかれ、秋にレスキューしたから犬に「このは」と名付けたというセンスにも感動した。最初に迎えたその保護犬「このは」亡きあとは、猫のコタロウと柴犬のこみみがあとからあとからやってくる野犬の子たちの教育係になってくれた。

天国組の、初代リーダーこのは(左)と、こまち(写真提供:home for paws)

それにしても、野犬やノラ犬と呼ばれていた犬たちを、子犬、成犬、老犬問わず引き受け続けるそのエネルギーは、どこから湧いてくるのだろう。その問いに、紗由里さんは、明快に答える。
「私が野犬たちをレスキューしたり、保健所やセンターから引き出して譲渡までを預かるのは、こんな思いからなんです。子犬の場合は、人間への怖い思いがトラウマになる前に。成犬の場合は、これ以上怖い思いをさせないため。老犬の場合は、最後は安心して暮らさせてやりたいから」

野犬は怖いという先入観がなくなるようにと、切実に願っている。
「置かれていた状況がそうだっただけで、どの子もどの子も、新しい状況のもとで、人と寄り添って生きられるはずなんです。元野犬を迎えるという選択肢が広まっていきますように。そして、野犬という存在がどうかなくなりますように」

譲渡の日まで、愛情を注ぐ

微笑んで語るその膝の上で、「野犬の子」と呼ばれていた子たちが、母さんの温もりを思い出すかのように甘えて眠りにつく。

佐竹茉莉子

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。おもに町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。保護猫の取材を通して出会った保護犬たちも多い。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『里山の子、さっちゃん』(すべて辰巳出版)など。朝日新聞WEBサイトsippo「猫のいる風景」、フェリシモ猫部「道ばた猫日記」の連載のほか、猫専門誌『猫びより』(辰巳出版)などで執筆多数。

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