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飼い主を亡くし保健所で2年を過ごしたホワイトシェパード 殺処分寸前に引き出され自由な山奥暮らし|才蔵(8歳)

2023年3月14日

血統書がなくても、ブランド犬種ではなくても、こんなにも魅力的で、愛あふれる犬たちがいます。
み~んな、花まる。佐竹茉莉子さんが出会った、犬と人の物語。

保護犬たちの物語【第7話】才蔵(8歳)

ここは、房総半島の真ん中に位置する富津(ふっつ)市の山奥。
日没後には真っ暗闇となる、13軒しかない集落だ。
夕闇が迫るなか、白い犬がまだまだ遊び足りないかのようにご機嫌で広い前庭を走り回っている家がある。
前庭がひと原っぱの広さだ。

彼の名は「才蔵」。
5歳のときにこの集落に来て、3年がたつ。
白い狼ともいうべき体つきだが、「ホワイトシェパード」という、1970年代にアメリカからスイスに渡ったとされる種である。

木の枝もボールも、ボクのもの

ホワイトシェパードの性格は穏やかで友好的。
体力があって運動量を必要とするので、広い場所での飼育が適している。
ここなら、十分。
才蔵は木切れやボールを投げてもらって取りに走ったり、それを取り合いっこする遊びが大好きだ。
目の前に置かれたサッカーボールは、飼い主の両親が今年のお正月に遊びに来たとき、お年玉として彼にプレゼントしてくれたものである。
愛用のあまり、もはや原型をとどめていないが、一番のお気に入りだ。

このボールは渡すもんか

絶対に絶対に渡さない

才蔵の「今の」家族は、和志さんと、2匹の兄妹猫である。
3年前に、突然ここに連れてこられたときは戸惑いしかなかった。
その日初めてあった人が新しい飼い主になったことも、こんな山奥で暮らすことも。

5年前、まだ3歳だった才蔵は、最初の飼い主の病死により保健所収容となった。
彼を迎える環境にある親族がいなかったのだ。
保健所収容後も譲渡希望者は現れず、いったんブリーダー預かりとなった時期もあったが、再び保健所に戻された。
収容は足掛け2年におよび、「もう譲渡は無理だろう、殺処分やむなし」の方針となる。

保育士の和志さんと、知り合いの日本ウルフ協会の人との間に、こんなメールが交わされたのは、才蔵の殺処分ぎりぎりのときだった。

「番犬にもなる犬を探していまして」
「ちょうどいい犬が、いま保健所にいますよ」

和志さんは、すぐに保健所へ会いに行った。
そして、その日に連れ帰った。
「才蔵は5歳。たぶん見たこともなかっただろう山奥に連れてこられて、不安そうな面持ちで土の匂いを嗅ぎ回っていました」と、和志さんは振り返る。

家にきて間もない頃。不安げな表情だが、あちこち嗅ぎまわった真っ黒な顔が愛らしい(和志さん提供)

当時、和志さんはこの地での暮らしを仲間と始めたばかりの25歳だった。
村内では牛もヤギも飼育されていて、山にはイノシシや鹿やサルが棲んでいる。
下には川が流れている。
たまたま縁があったこの自然豊かな集落で、町の子どもたちを招いての共同保育ができないものかと考えたのだった。
空き家はないかと集落の人に尋ねたところ、「ないよ。あ、そういえば」と、この家を教えてもらったというわけだ。

20年以上放置された荒れ果てた家で、家に続く坂道は土砂で埋まっていたし、庭には木が生い茂っていた。
持ち主を探しあて、ここを開墾し、家をリノベーションして活動の拠点とすることを定めたスタート段階で、才蔵を迎えたのだ。
だから、才蔵が来たときは、足場はぬかるみ、床もなく土台むき出しで、まだ「住む」環境ではなかった。
野宿のようなものである。

畑を荒らすイノシシやシカやサルを寄せ付けない用心棒

「最初の頃は才蔵の夜鳴きがひどく、僕も眠れない夜が続きました」と、和志さん。
それでも、「おいで」と呼べばやってくる素直な子だった。
才蔵を迎えたすぐ後に、保育士仲間が保護猫兄妹をもらってきて、にぎやかになった。

黒猫旭くんはマイペース

「才蔵を初めて川に連れて行ったときは、水に入ったものの自分で出られなくて、クーンクーンと情けない声を出しました。山に連れて行ったときは斜面を下りるのに難儀してました。少しずつ山暮らしに慣れていったものの、戸惑いがすっかりとれて、甘えたり我を出したりしてのびのび暮らし始めたのは2年くらいたってから」と和志さんは言う。

今は珍しい囲炉裏のある風景

村の人たちをはじめ、いろいろな人たちの協力で、井戸を掘り、母屋に畳が入り、囲炉裏ができ、かまどや薪ストーブも置かれた。
庭には鶏小屋が建ち、ピザ焼き窯やすべり台もできた。
「ちんたら村」と名付けたこの場所にやってきた子どもたちは目を輝かせ、楽しそうに遊んだ。
その様子を、才蔵は猫たちと共にいつも眺め、ときに一緒になって遊んだ。
一日の終わり、母屋の上に作った2階で、遊び疲れた才蔵や猫は和志さんと眠りにつく。

ホワイトシェパード種は、寒さには強いが、暑さには弱い。
夏休みには、やってくる子供たちに混じって才蔵も川遊びを楽しむ。
川でも、ボールを投げてもらうのが大好きだ。

夏休みの川遊び(和志さん提供)

現在、一緒に開拓した仲間はこの地を離れ、和志さんはひとりで体験学習の事業を続けている。
今は13戸だが、これから戸数が減少していくだろうこの地で、何ができるだろうかを思案中だ。

「村で酪農を営む動物好きの一家には、犬や猫の育て方や野生動物との距離の取り方など、いろいろ教えてもらいました。犬猫にとっても良質な栄養のある牛の初乳を、才蔵たちにも分けてくださっています。街では見えない、水や食べ物はどこから来るのかなど、子どもたちと一緒に学びながら、村の文化や助け合いを伝えていけたらと思っています」

すっかり家族

共に四季を楽しみ、共に街の子どもたちに山村文化を伝え、共にイノシシや鹿の肉を食して土に戻す。
和志さんにとって、才蔵や猫たちは、人生を共有するよき相棒だ。

ここでの暮らし、毎日楽しいよ!

飼い主との死別、保健所暮らしを経て、命救われ、思いもかけない第3の犬生を送ることになった才蔵。
その満面の笑顔を見れば、ここの暮らしがぴったり性に合ったようである。

佐竹茉莉子

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。おもに町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。保護猫の取材を通して出会った保護犬たちも多い。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『里山の子、さっちゃん』(すべて辰巳出版)など。朝日新聞WEBサイトsippo「猫のいる風景」、フェリシモ猫部「道ばた猫日記」の連載のほか、猫専門誌『猫びより』(辰巳出版)などで執筆多数。

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