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殺処分寸前で救い出された生後3ヶ月の子犬…今はまるで「大きな猫」|ハチ(9歳)

2022年12月6日

血統書がなくても、ブランド犬種ではなくても、こんなにも魅力的で、愛あふれる犬たちがいます。
み~んな、花まる。佐竹茉莉子さんが出会った、犬と人の物語。

保護犬たちの物語【第1話】ハチ(9歳)

ハチは、9歳のシェパード系のオス犬である。
性格は、温厚で用心深い。

「ハチ、何すましてるの?」

千葉県の、野菜作りで知られるのどかな農村地帯にハチは住んでいる。
大好きな智子母さんと、大好きな猫の仲間たちと。

みんな一緒のおやつタイム

猫は、いろんな猫がいる。全部、ハチと同じくワケアリで保護された子たちだ。
大けがをしていた猫も、よれよれの猫も、家に入りたがってた子猫も、お母さんはみんな家族にしてしまったから、8匹の猫にハチは取り囲まれて暮らしている。

「猫たちは、ハチのことを『やたら大きな猫』と思っているようですよ。ハチも、自分が猫とは違う生き物とは思ってないでしょう。やること、同じだから。猫たちのことは小さな弟や妹と思ってるんじゃないかな」と、智子さんは笑う。

朝の散歩は気持ちいい

家の周りは畑や雑木林ばかりで広々としていて、お母さんと毎朝毎夕、散歩するのがハチの楽しき日課だ。

前庭で鬼ごっこ

前庭で、お母さんと鬼ごっこすることもある。ハチは、子犬のようにはしゃぎにはしゃぐ。
今は幸せいっぱいのハチだが、9年前の1月にここにやってきたときは、どこに連れてこられたのかとおびえきっていた。まだ、3ヶ月の子犬だった。

譲渡後半年の頃

お母さんの智子さんは、犬を飼うのは初めてだった。夫に病気の後遺症が残ったことと、自分の仕事の定年を機に、都内のマンション暮らしから、思い切って、見渡す限りの田畑と空と木立しかないこの地を終の棲家と定めたのだった。
夫は動物嫌いだったが、智子さんは動物好き。家が広かったので、路頭に迷う猫を保護できた。東京暮らしの息子が保護した子もいる。
その猫「かりん」は大けがをしていて神経がマヒし、排泄介助をする必要があって預かった。

広い田畑に囲まれた一軒家なので、室内飼いでも番犬になる犬を飼おうということになり、県内にある保護団体のシェルターへ出かけた。そこで出会ったのが、殺処分寸前を保健所から救い出された生後3ヶ月のハチだった。生後間もなくきょうだい3匹で捨てられていたという。

「他の犬と違って、ハチだけがこそこそっと身を隠したんです。一緒に行ってくれた姪が『こんな犬こそ番犬になる』と言うので、その子にしました」と、智子さんは言う。

連れ帰ったハチは、数日は飲まず食わずで、すみっこで震えていた。面倒を見てくれる智子さんにだけは少しずつ心を開いていったが、お父さんには目も合わせず、けっして近寄らなかった。
ハチという名は、忠犬ハチ公の米国版映画を見たお父さんがつけたのだったが。

当時家をリフォーム中だったのだが、大工さんが来ると帰るまで物陰に隠れてガタガタ震えていた。「大きな声と男の人とデッキチェアー」を異常に怖がるのは、何かトラウマがあるようだった。お父さんも体が大きく声が低かったので、怖かったようだ。

やってきて数年は、客が怖くて、お母さんのそばで固まった

猫たちは、最初こそハチに「フー」「シャー」を見舞ったが、すぐに打ち解けた。この新入りは、ビビリで乱暴なことは何もしないと、すぐに見抜いたのだった。そして、いつのまにか、ハチはマヒを持つかりんちゃんといい仲になっていた。

今は天国のかりんちゃんと

ハチは、大きな自分のベッドを持っているが、そこにかりんちゃんがやってくると、抱きしめて一緒に眠る。
やがて、愛情余って、かりんちゃんばかりか猫たちの頭ごと、大きな口でパクリと食べるようになった。歯が当たらないよう、やさしくそっとそっと。猫たちも、されるがままである。
かりんちゃんは、20歳を超えるまでお達者な猫生を全うして旅立った。

れんげくんともすぐ仲良しに

そして、今も、ハチの猫愛は続く。

可愛さのあまり、れんげくんをパクリ

ハチと一番仲がいいのは白黒のナナちゃんだが、同じく白黒で若いれんげくんは、頭が小さくて食べやすいのか、年がら年中食べられている。れんげくんも、食べられることがわかっているのにハチが大好きで、すぐにベッドに忍び込む。

今日は、れいわちゃんとまったり

動物学的には、頭パクリは、最高の愛情表現らしい。ハチは、もしかしたら、お母さんの頭を一度食べてみようと狙っているかもしれない。

お母さん、大好き

やってきて9年近く。ハチはようやくお客さんをそんなに怖がらなくなった。客がいようがいまいが、好き勝手に過ごす猫たちに学んだのだろうか。

カメラを向けられると、シッポが下がってしまう

動物が好きではなかったお父さんは2年前に亡くなったが、ハチのことも猫のことも、それは可愛がってくれた。愛情表現の苦手な人だったのに、抱き寄せてチューチューしたり、撫でまくったり。ハチもすっかり甘えるようになっていた。
「車いす生活でしたが、猫たちは肩や膝に飛び乗り、ハチは足元でくつろぎ、彼も楽しかったんじゃないかな」と智子さんは思っている。
最後の日々は病院だったが、「ハチや猫たちに会いたい」と言い続けていたという。

ハチはいま、しっかりと番犬を務めている。初めての人がやってくるのを見ると室内から吠え続けるが、智子さんと会話を交わす姿を見ると吠えるのをやめる。客が乗ってきた車の音をしっかり覚えていて、2度目からは吠えない。

トラウマは、少しずつ消えていった

「とっても賢くて性格のいい犬なんです」と、お母さんが人に自慢してくれるのが、ハチにはうれしい。

「これからも、一緒に楽しく生きようね」

ハチの「楽しき我が家」は、きょうもにぎやか。誰かがハチに食べられている。
寒くなってくると、ハチはお母さんの毛布に潜り込み、中で向きを変えて丸くなる。
大きな猫のように。

佐竹茉莉子

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。おもに町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。保護猫の取材を通して出会った保護犬たちも多い。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『里山の子、さっちゃん』(すべて辰巳出版)など。朝日新聞WEBサイトsippo「猫のいる風景」、フェリシモ猫部「道ばた猫日記」の連載のほか、猫専門誌『猫びより』(辰巳出版)などで執筆多数。

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