鬼才「くっきー!」による初の小説。思春期全開JKの、どこかおかしい、たぶんおかしい青春ラブストーリー。
【第7回】顔面熱油
ゾンビを始末し、余韻に浸る間も無く急いで家に到着。早速、ペペロンチーノを作る準備です。まずは、下準備。ニンニクを細かくパターンと荒めパターンの2パターンに切って、乾燥した唐辛子一本を細かく輪切りです。
自分、けっこう辛めが好きですんで唐辛子は多めです。
フライパンにオリーブオイルをたっぷり入れて、火にかける前に細かめのニンニクを投入。弱火でゆっくり焦げないように丁寧に混ぜ混ぜしながら、オリーブオイルにニンニクの香りをしっかりとつけていく。
ニンニクがいい感じにきつね色になりました。ってか、絶対に焦がしちゃダメよ、ダメダメですよ。ペペロンに焦げた苦味は不必要です。
いい感じのペペロンオイルに輪切りにした唐辛子をパラっと入れて、そこに茹で汁とパスタを絡めます。
あっ、パスタを茹でてないな……。
最悪です。完全にミスってしまいました。
フツフツと怒りが湧いてきました。
アイツらのせいです。
ゾンビ達のせいですよ。
今までペペロンチーノを作ってきて、こんなミス一度もなかったのに(怒)。
気がつけば、私は自転車を漕いでいました。右手に熱々のペペロンオイル入りのフライパン、ケツポケには乾燥パスタが2束、カゴにはガスコンロ。
当然、立ち漕ぎです。怒りが僕を立たせるのです。
現場に到着し、すぐさまガスコンロを着火。ペペオイルを熱しなおします。その間、少々時間があるので、ぶっ倒れている悪しき元凶の白衣ゾンビの頭をパスタの束で思いっきりぶっ叩きます。
おもいきり振りかぶり、タメにタメて一気に振りおろす。「パシャンッ」という乾いた音とともに、パスタの破片が四方八方に飛び散る。
気持ち良すぎます。2束持ってきていてよかった〜と心から思いました。せっかくだから、もう1束をじいちゃんゾンビに喰らわせます。
「パシャンッ」
気持ちいい〜。そんなこんなでペペルはグツグツと煮えたぎっております。せっかくなので、白衣とじいちゃんを綺麗に並べました。
そして、2体の顔にまんべんなく丁寧にペペルを垂らしました。「ジュウ~」と「シュウ〜」の混ざったなんともいえない音。その隙間から聞こえる、高熱油が肉を焼くクツクツという音。香ばしいニンニクと焼き鳥っぽい良い香りが立ち込めています。
そのときです。誰かに背中をトントンと叩かれた気がしました。
振り返ると、じいちゃんでした。すぐにわかりました、じいちゃんの霊だと。
だって全体的に透けていて、ほんのり白く光ってますんで。じいちゃんは僕に穏やかな声で『どうゆう意味なん?』と訊ねてきました。
僕はなんのことかわからず戸惑っていると、倒れて顔面から細い白煙をあげている自分のゾンビ遺体を指差して、『どうゆう意味なん?』と、じいちゃんは再び訊ねてきました。
僕は白衣ゾンビにやられ、じいちゃんはゾンビになったこと。いたたまれず、僕がトドメを刺してあげたこと、いろいろと説明しました。
するとじいちゃんは、
『じゃなくて……なんで熱々のオイルを顔面にかけるん?』
と、尋ねてきました。
僕は特に意味や悪意はなく、なんとなくの流れでこうなったと説明しました。じいちゃんは『激ヤバ……』と言いながら消えていきました。
僕はスッと手を合わせ『大好きなじいちゃん……天国でゆっくりしてください』と祈りました。そのとき、なぜか笑いが止まりませんでした。
『僕って激ヤバですかね? キャキャキャキャキャ』
そんなこんなで、やっぱり腹ペコでゾンビズから出ている煙を鼻から肺いっぱいに吸い込み帰路につきました。帰りのペダルはすごく重かったのを覚えています。
なぜなら電動自転車の充電が切れていましたからね。重いペダルをゆっくり漕ぎながら空を見ると、雲ひとつない突き抜けていくような空でした。僕は道の真ん中で自転車を停め、空を眺めました。穏やかで優しく、それでいてどこか他人行儀な空をじっくりと眺めていました。
空をこんなに見るのなんて初めてだなぁと思っていると、背骨に違和感を覚えました。なんだかゴリゴリと内側から外側に押し出される感じというか……。
なんだろう、この感じ……。
そのとき、ふと彼女の顔が浮かんだんです。
からの怒涛の衝動です。彼女に会いたくて会いたくて、手を握りたくて、キスしたくて、抱きしめたくて、食べたくて。
ん? 食べたくて?
一瞬、気になったのですが、気にせず彼女のいる病院に急いで向かいました。僕は自転車をほったらかしで走っていました。なぜだろうか、全速で走っているのに一切疲れませんでした。これが恋の力ってやつですか。
指先をピンと伸ばし、しっかり腕を振って腿をあげ、まるでカールルイスです。疲れることなく猛ダッシュ。
走りながら僕は、彼女を抱きしめてみたり、キスしてみたり、食べてみたり、いろんな想像を巡らせながらダッシュダッシュです。疲れを知らぬ今の我は人を超越したぞっ。
そんなこんなで、あっという間に病院につきました。早く彼女に会っていろいろと起こったことを話したい。信じてもらえるかわからないけど、笑われるかもしれないけど……。
じいちゃんのこと、ゾンビのこと、その2体のトドメを僕が刺したこと。そしてキミが……好きすぎること……。
はぁー! 食べたい、食べたいっ! キミを食べちゃいたい! キミのその細くて白い首を噛んで、そのままキミをっ、食べたいっ!
猛ダッシュで病室の前に到着。僕は部屋をノックし『いただきます』と言いながらドアを開けました。逆光のなかで、窓からのやわらかい風がカーテンとキミの髪を揺らしている。右手で髪をかきあげるキミはあまりにも綺麗で……。
僕は無意識にキミの首を噛んでいた。
『ごめんね……』
(つづく)
くっきー!
(イラスト ア~ミ~)
連載一覧
- 第1回 腹へりマウスホーン
- 第2回 牡蠣とマーク・ボラン
- 第3回 こっち側の腹減りマウスホーン
- 第4回 出来立てクレイジー彼女
- 第5回 復讐の白衣ゾンビ
- 第6回 朝日はしみるなぁ
- 第7回 顔面熱油
- 第8回 ファースト…
- 第9回 それぞれの道(悲しいバラード)