名著『アナログレコードにまつわるエトセトラ』がWEB連載で復活! ディスクユニオン店長兼バイヤーがいざなう、さらにディープなレコード天国(地獄?)へようこそ!

値段が付くものにフェイクあり。左がフェイクで右がホンモノ……アナタに分かるかな?
とにかく足で稼いで掘り周っていた、ただただ必死だったあの頃。あれから経ること◯十年、ポテチ片手にモニター前に座してポチポチすれば、世界中に死蔵された幻のレア盤をゲトれる……まぁ、良い時代になったものです。
そんなテクノロジーの発展により、みんなで仲良く安寧としたレコード・ライフを送る、そんなレコード桃源郷の到来を期待していたのですが、その実、コレクターたちの純真な(?)レコード欲求を逆手に取り、エサをまいて冷酷無比に背後からだまし討ちする、そんな狼藉者が蔓延る未曾有のレコード戦国時代が訪れていたのです──。
ということで、今回もこの乱世を生き抜くために必要な、フェイクの判別方法をお伝えしたいと思います。
第2話ではリプロ盤について、前著『アナログレコードにまつわるエトセトラ』では、フェイクのテスト・プレスやアセテートについて解説させていただきましたので、今回はステッカーやポスター等の「付属品」についてたっぷり解説いたします。そして、このカテゴリが最も危険度が高く、廃盤ビギナーから海千山千の上級コレクターまでもが欺かれ続けているのです。
これ以上の被害拡大を防ぐためにも、私がここでその悪事を暴き、泰平の世を築き上げましょう……切捨御免!



フェイク帯の代表格、通称「半掛け帯」。写真の1枚目と3枚目がホンモノで、2枚目がフェイクとなっています。判別方法はいろいろありますが、一番安全なのは裏面上部の糊の跡の有無を確認すること。個体差があるので必ず跡があるワケでもないんですが、逆に跡がある個体は安心安全ともいえます。まぁ、今のところはですが……。
ケース① 日本盤「帯」
「帯」──それは日本が生み出した独自のカルチャーにして、最もコレクション要素の強い恐るべき「紙切れ」。1960〜70年代の、いわゆるリアルタイム世代の多くの方にとっては、帯は文字通り紙切れみたいな存在で、邪魔だとでもいわんばかりにビリっと破いて捨てたり、几帳面な方でも外して半分に折ってジャケの中に閉まっておいたりと、今では考えられないような邪険な扱いをされていました。まぁ、あくまでそれが当時の当たり前の感覚なんですけどね。
そんなこともあって、今ではキレイに帯が残っている個体はずいぶんと数を減らし、年々その価値を高めています。そのため、中古市場での帯の有無による評価は辛辣なほどにパッキリと分かれていて、あの時のただの紙切れが立派な「宝」へと変貌したことをまざまざと分からせてくれます。
では、論より証拠ということで、ここでひとつ例を挙げてみましょう。The Beatlesの国内デビュー・アルバム『ビートルズ!』(OR-7041)は、帯なしであれば5千円以下(状態微妙ならジャスト1千円ぐらい)のフツー盤なんですが、初回の帯(いわゆる半掛け帯)付美品であれば、50万円クラスのお宝盤……つまり、プライスにおいて占める割合は「帯99:盤1」となっています。
まぁ、これはちょっと極端な例ではあるんですが、それほどまでに希少になってしまった帯は、今や蒐集対象としてポピュラーな存在として君臨しているのです。
ただ、そうとくれば帯を複製し、金もうけをしようとする狼藉者が現れるのは必然です。ただの紙切れなんで、ジャケや盤に比べると複製のハードルも低いのです。
例に挙げたThe Beatlesの帯はもちろんのこと、ありとあらゆる希少帯にはフェイクが存在すると疑ってかかったほうが安全です。

こちらは日本独自のアートワークが使用された、The Who『マイ・ジェネレイション』ですが、通称「ガール・ジャケ」と呼ばれ、帯がなくてもレアで高値を呼ぶ一枚です。ただでさえレアなレコードに帯がつく、そうなればシャレにならないほど右斜め上のプライスになるのは自明の理。
加えて、このクラスの帯はレアが故に実物を見たことない人が多いとくれば、「大きい利ザヤと小さいリスク」、つまりはフェイクの温床となるのです。
では、早速判別方法をお伝えいたしましょう。まずは帯の裏面を見てください。


一見普通に見えますが、特に分かりやすい「ブランスウィック」のロゴをよーく見てみましょう……なーんか四角がガミガミと粗くないですか?
こんなことは当時の印刷(写植)じゃ起こるはずもなく、PCで起こしたデジタル・データということが一目瞭然なのです。
これだけでも十分判別可能ですが、他の部分にも注目してみましょう。


上がThe Whoのフェイク帯、下は他作品のホンモノですが、同じロゴでもフォントや雰囲気がまったく違うことが分かっていただけると思います。この雰囲気を覚えておけば、いろいろと応用が利くので今後は安心でしょう。
ただ、フェイクもフェイクで地味に「汚し」の作業をして、アナタの目を曇らせようとしてくるのです……お気をつけて!

イタリアン・プログレッシヴ・ロック・グループ、Maxophoneの最初期プレスに付属していた希少なパッチ。右がフェイクです。
ケース ② 付属品
さぁ、ここからはさらにディープかつ、深刻な問題について言及させていただきます。
帯もその一種なので同じことがいえますが、インナーやインサート、ポスターやステッカー等の付属品の有無は、その市場価値を大きく左右します。
また、やはりホンモノを見る経験の少ない、レアなものであればあるほど市場価値が釣り上がりますが、それだけにフェイクが横行しているのです。


早逝の天才ヴォーカリスト、デメトリオ・ストラトスを擁したイタリアン・プログレッシヴ・ロック・レジェンドAreaのデビュー・アルバム『Arbeit Macht Frei』(1973年)には、実に象徴的な「Gunインサート」が付属していることでも、コレクター界隈では非常に有名です。
また、このインサートは古くからフェイクが存在していて、その見極めポイントは「撃鉄(ハンマー)の形状」と言い伝えられてきたものです。
では、上の写真を見ていただきましょう。古くからの言い伝えでは、「撃鉄が曲がっておらず、スッと尖った形状であればフェイク」というものでした。となると、上の写真のものは曲がっているので条件をクリアしています。
また、裏地の色が違ったりもしていますが、「白地はフェイク」との言い伝えがあるので、左の方が条件2つをクリア。さらに、よくよく見ると書いてある文字にも少し違いがあって、「CORPO DI REATO」と「CORPO DEL REATO」となっていて、実はこっちのバージョンが……って、ちょいちょい! 今、レコード詐欺師に耳を傾けちゃいませんでしたか!?
実はこれ、どっちもフェイクなんです。たしかに古のフェイクはさっきの条件で判別できましたが、密造者とて知恵者。バンバン情報を更新して新しいフェイクを生み出していくので、いつまでも同じ条件が通じると思ったら大間違いです。くわばらくわばら。
ということで、満を持してホンモノを見ていただきましょう。



さっきつべこべ言っていたことは一回忘れてください。判別方法を見つけたり覚えたりする時のポイントは、再現しにくい(できない)部分を「1点だけ」確実に捉えることです。その方がシンプルで覚えやすく、判断に濁りが起きにくいのです。とはいえ、確かに判断に迷う時もあるんですが、その時は「君子危うきに近寄らず」を徹底してください。
そうすると、前見たアレ、実はホンモノだった……チクショウ、まんまと獲物を取り逃してしまった……まぁ、そんなこともあるでしょう。でも、フェイク判別において、限りなく安全性を100%に近づけることが肝要なのです。
レコード詐欺師は「次はありませんよ」とかなんとか言って揺さぶってきますが、そんな甘言に乗るとロクな目に会いませんよ!
ちょっと横道に逸れましたが、「Gun」の正しい真贋判別方法は、「ホンモノはトリガー部分の文字が型押し」になっているということです。
写真だと少し分かりづらいですが、実物を見ると一発で分かると思います。フェイクの方はかなりのぺっとした印刷ですからね。
なお、このAreaというバンドは鬼門で、他にもフェイクが蔓延している付属品があるので、そちらもあわせてチェックしておきましょう。


1975年リリースの3rdアルバム『Crac!』には、非常にレアなステッカーが付属していることがあって、アートワーク同様に全4種のカラー・バリエーションが存在しています。
また、プロモーション用にのみ少し色味が異なるステッカーがさらにもう1種存在していて、市場には数年に一度しか出てこない……って、またそれっぽい話に耳を傾けちゃいませんでしたか?
そんなプロモ色違いのくだりなんてただの与太話で、上の写真のものって全部ただのフェイクなんです。
だますためならエンヤコラ、フェイクってそういう謎のエピソードを盛り込んできて、木を見て森を見ず状態に陥れ、買い手を欺こうとするんですよ!
まぁ、たしかに全4種のステッカーは存在(5種ではない)するんですが、真贋の判別方法はいたってシンプルです。


ポイントは裏面です。無地だったり格子柄だったりといろいろありますが、ホンモノは「斜線」のものです。
表面もフェイクは右下のレーベルのロゴ部分が潰れてしまっていたりと、微細な違いはあったりするんですが、裏面で判断しちゃうのが分かりやすくて良いと思います。なんだか要領つかめてきましたかね?

ケース ③ シュリンク
最後にサラッともうひとつだけ例を挙げておきましょう。というのも、まだ分かりやすい判別方法が見つかってないんですよ……。
もちろん私は判別つくんですが、いろいろパターンもあるので言語化がすごく難しいのです。ただ、まずはこういうフェイクがあるって知っておいて欲しいです。それだけでだいぶ違いますからね!
そう、それがフェイク判別における最高難度のひとつ、「シュリンク」です。単なる透明ビニールなんで他付属品よりもかなり判別が難しく、かつフェイクの製造もイージーです………って、あんまりこんなこと言っちゃいけないかもですが。
コレクターって、自分にとって特別なアルバムはコンディションの最上位にあたる「シールド(未開封)」で(も)保有しておきたい、そんな蒐集欲がある方も少なくないんですが、そこを密造者はここぞとばかりに刺しにくるのです。
では、ここで「悲劇」の一例をご覧ください。

この個体は元々シールドだったものですが、外からでも当時の内袋(カンパニー・スリーヴ)がシュリンク越しに確認できていました。

清水からダイブする気持ちでシールドを開封、ヨダレ垂らしながら盤を取り出そうとすると──。

あれ⁉︎ 途中で切れてる!
しかも、中の内袋が新しい! なんで⁉︎

あ……盤がすり替わってる……ジム・リーヴスって……。
こんな災い、自分の身に降りかかることを想像しただけでもゾッとしませんか?
ちなみに、これって別にわざわざこんなカットをせずに、当時の内袋をそのまま使えばいいのにとは思いましたが、少しでも安くフェイクを作ろうと思ったんでしょうか?
もしそうであれば、反対面はまた別のフェイクに流用されたということになるワケで……この恨み晴らさでおくべきか!

今回はホンモノとフェイクの比較画像をいろいろとご用意しましたが、(自称)トップ・プロ・バイヤーである私とて、この情報や画像はかなりの長い時間を費やして集めています。そう、レアな付属品って、そもそも目撃することすら困難なのです。たとえネットで調べてみたとて、真偽不明の不鮮明な画像程度じゃなんのアテにもなりません。だからこそ、密造者はその情報の隙をついてフェイクを密造するのです。
最後にもう一度繰り返しておきますが、大事なのは限りなく安全性を100%に近づけること。すべてのレアな付属品にはフェイクが存在するって思っておいてもいいぐらいです。そう、「君子危うきに近寄らず」──必ず復唱しておいてくださいね!
では、また次回!
■編集=大浦実千
■バナーデザイン=柿沼みさと
【書籍紹介】 本書の購入はこちらから 【著者プロフィール】 1979年生まれ。神奈川県出身。2003年より(株)ディスクユニオン所属。バイヤーとしてレコードを追い求める日々の傍ら、レコード文化の発展に寄与すべく各種媒体にてコラムや漫画を執筆中。著書にソ連音楽ディスクガイド『ソ連ファンク 共産グルーヴ・ディスクガイド』、『アナログレコードにまつわるエトセトラ』、『レコードジャンキー富和 孤高のアナログ・レコード・コレクター』、編著に日本初のサイケデリック・ロック・ディスクガイド『PSYCHEDELIC MOODS‐Young Persons Guide To Psychedelic Music USA /CANADA Edition 』などがある。 X(旧Twitter):https://twitter.com/@_Akira_Yamanaka

『アナログレコードにまつわるエトセトラ』
著者 山中明
発行 辰巳出版株式会社
定価 2,530円(本体2,300円+税10%)
発売日:2023年4月24日
体裁:A5判/208ページ(オールカラー)
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4777829723/
楽天:https://books.rakuten.co.jp/rb/17426763/
山中 明(やまなか・あきら)
■ レコード・バイヤー/ライター/漫画家
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