続・アナログレコードにまつわるエトセトラ【第10話】これが次なるトレンド!? 盤重量徹底解剖

名著『アナログレコードにまつわるエトセトラ』がWEB連載で復活! ディスクユニオン店長兼バイヤーがいざなう、さらにディープなレコード天国(地獄?)へようこそ!

高音質盤界の帝王Classic Recordsが誇る、重量盤界最高額レコード。通称ジュラルミン。全10枚のアルバムが45回転片面カットの200g重量盤×4枚(元々2枚組のアルバムは8枚組)に魔改造されており、計48枚組という超ド級の仕様になっています。

 

今や猫も杓子も重量盤。新譜でも再発でも、大抵のレコードは180g重量盤仕様で、もうそれがノーマルなんじゃないかというぐらい重量盤が根付いています。

そして、私も現場で「やっぱ盤は重いほうが音良いねぇ!」なんていう声を時折耳にするんですが、果たしてそれって本当なのでしょうか? それはサイエンス? それともオカルト……?

ということで、今回は盤重量の歴史を追いながら、レコードの重量と音質の関係性について考察していきたいと思います。さらに、この道25年の私が、これから中古市場で予見される「盤重量トレンド」についても大胆予測したいと思います……ぜひご一読ください!

 

1953年に英国でリリースされたLP『Music From Bali』は、重厚なガムラン・オーケストラの名演がたっぷり堪能いただける作品なんですが、その盤重量は250gとこれまた重厚な造りで最高。古いレコードは重いのです。

 

LPレコードの普通の重さってご存知でしょうか? けっこう慣れてる方とかだと、盤を持った瞬間に「お、これ重いなぁ」とか思ったりするワケですが、ともなればノーマルな重さの感覚というものがあるはずなのです。

もちろん、年代とか国によって変わってはくるんですが、中央値は「120〜140g」となっていて、それが私たちレコード愛好者たちが体得している普通の重さとなっているのです……って、ちょっとレコード・ビギナーな方にはワケワカラン話かもしれませんが、多くの盤の重さはだいたいそれぐらいと思っておいてください。あ、ジャケは除きますよ。

とはいえ、塩化ビニール製のLPよりも前の時代、1950年代以前のSP全盛期は、サイズがひとまわり小さい10”サイズが主流でしたが、それでもその重さは250gが中央値とずっしりヘビー。素材もシェラックという昆虫の分泌物を主成分にした天然素材だったので、塩化ビニール以前以降ではなにかと違うことも多いんですが、LPはSPよりも薄く軽く進化してきたというバックボーンがあるのです。

そうして、1960年代後半〜1970年代にかけてレコードの最盛期が訪れるワケですが、ここでひとつの事件が起きます。そう、1973年の「第1次オイルショック」です。

若い方はピンとこないかもしれませんが、ここ日本でも石油由来の商品、つまり、トイレットペーパーやらの買い占め狂想曲が起こったぐらいの大騒動で、当然レコード界にも激震が走ったのです。

そうとくればビニールの使用量を抑えようということで、だんだんと軽量化が進み、100g前後のレコードまで現れてきたのです。

また、アメリカでは「実はレコードってもっと軽いほうが音良いんじゃない?」という、いわば「軽量盤思想」も生まれていました。ざっくり解説すると、薄く柔軟なほうがプレイヤーへの密着度も高く、音質的にも一定のアドバンテージがあるんではないだろうか、とまぁそんな思想でした。

そして、その思想はRCAが作り出した「Dynaflex」という超軽量盤シリーズに結実するんですが、このシリーズが始まったのは1969年と、オイルショック前のことなのです。つまり、別に必要に迫られて苦し紛れで生まれた思想ではないのです……実に興味深いですよね!

ちなみに、私には盤重量を計る趣味(理由は後述します)があるんですが、私が今まで測った盤の中で最軽量だったのは、アメリカのSSW、マーク・スポールストラによる『This House』という1971年発表のアルバムです。Dynaflexとこそ銘打たれてはいないものの、RCAからのリリースで、その重さはわずか「78g」。もう、不安になるくらいペラッペラです。

なお、最近私が勝手に繰り広げている、「最軽量盤決定戦」というものがあるんですが、そのチャンピオンである本盤に勝てるレコードをお持ちの方、ぜひ私宛にご一報ください。別になんにも出ませんが、その盤重量で美味い酒が飲めそうです……テヘヘ。

 

これがマーク・スポールストラ『This House』。今のところ最軽量盤チャンピオン候補。

 

レコードは1975年から1980年にかけて、歴史上最大級の生産枚数を記録しますが、それ以降は徐々に下降の一途をたどり、1990年には最盛期の100分の1までその生産数を減らすこととなります。

そんな時代に生まれたのが「重量盤思想」です。その重さと厚みが故の、変形への強さや盤の安定性を旗印に、多くの高音質再発盤を手掛けたレーベルが先導しました。

1977年創業の大御所、Mobile Fidelity Sound Labを筆頭に、1984年にCisco Music、1986年にDCC Compact Classicsと、この時期には多くの高音質再発盤系レーベルが設立されています。そして、1994年には今や絶対的な信頼とともに帝王として君臨する、Classic Recordsが誕生するのです。

重量盤思想は今ではすっかり一般化したともいえる一大思想ですが、彼らが重量盤として設定したレコードの基本重量は180gでした。

では、そもそもなんで180gという設定なのでしょうか? まぁ、ハッキリとした理由は不明なんですが、レコードは120〜140gが普通なので、160gじゃ重さの差異が少し分かりづらく、多くの人が持っただけで確かな重みを感じられるのが180gだったという、そんなボンヤリとした説が有力です。

この説では、盤を重くしたのは科学的根拠に基づくものというよりも、高音質盤商売を進めるにあたって、重量盤という商品に説得力を持たせること、加えてラグジュアリーな印象を与えることを狙ったということなのです……って、もしかして重量盤=高音質じゃない?

 

Mobile Fidelity Sound Labを代表する最高音質シリーズ「The Ultra High Quality Record(UHQR)」。

 

この件に関しては非常に素晴らしい記事があります。1976年創刊、英国の老舗オーディオ誌『What Hi-Fi?』2025年4月11日号に掲載された記事で、各界のエキスパートたちが様々な見解を示してくれています。ということで、それを要約して引用させていただきましょう。

まず最初に、この記事の最重要ポイントを伝えておきましょう。エキスパートたちにも多少なりとも意見の相違というのはあるんですが、一貫して共通していることがあります。それは、「音質を決定するのは、マスタリングとプレスのクオリティー」ということです。つまり、重量盤にしたからって、なんでもかんでも高音質ってワケじゃないってことです。当たり前なんですけどね。

では、それを踏まえていくつかエキスパートの声を挙げてみましょう。

 

ジョン・ジェアリー(Golding)

「技術的には、レコード盤の重量が音質に影響を与えることはない」

 

ロバート・サッキー(clearaudio)

「重量盤レコードを使っても、録音状態の悪い音は良くならない」

 

ロタール・メルテンス(Dual GmbH)

「純粋に音質の観点から言えば、レコードの重量は音質に直接的な影響を与えない。他すべての条件が同じであれば、120gと180gのレコードは全く同じ音に聴こえる可能性が高い」

 

エドワード・フォース(Audio Technica)

「同じスタンパーで140g盤と180g盤をプレスした場合、テスト条件下では180g盤のほうが技術的には音質が良いはずですが、音は非常に主観的なものなのです」

 

伊谷哲也(Technics)

「レコードの重さそのものが音質に大きな影響を与えるとは思いませんが、レコードが重くなることで厚みと剛性が増すことが、音質に影響を与えると思います」

 

という感じで、おおむね意見は共通しています。確かに、盤重量によってプレス・マシーンが変わることはないですし、溝が深くなるなんていうこともありません。

では、もう少しみなさんの意見を聞いてみましょう。

 

サイモン・ウェブスター(Rega)

「初期は180gレコードの製造にもう少し気を配っていたのかもしれないが、現代では売上を伸ばすためのマーケティング的な側面も加わっている」

 

ロタール・メルテンス(Dual GmbH)

「重いほど音質が良いという考えは、ほとんどが誤解です。人々が音質の差を感じたとしても、それは重量ではなくマスタリングやプレスの品質の違いによるものです」

 

ここまでみんなの意見が共通してくると、「重量盤って意味なくない?」とか、「重量盤ってただの商法じゃん!?」とまぁ、そう思うのが自然でしょうか。ただ、私と同じ意見の方がいるので、ここぞとばかりに引用させていただきましょう。

 

世界初と目される、3Dピクチャー・ディスク仕様のSaturnalia『Magical Love』(1973年)。オカルティックなサウンドも重いですが、盤だけで243gとこれまた重い。

 

レイフ・ヨハンセン(Ortofon)

「たとえ音質に違いがなかったとしても、顧客は厚みのあるディスクの質感に惹かれるでしょう。レコードの魅力は、触感や手触りにあることを忘れてはなりません」

 

そう、エキスパートたちも決して重量盤の存在自体を否定しているのではありません。私も度々お話ししていますが、こういったレコードの見た目や感触の違いというものが、思ったよりも人間の耳や感覚に影響を与えるということです。

これっていわゆる「プラシーボ」と揶揄されるヤツなのかもしれませんが、あくまで音楽を聴くのは計測器じゃなくて人間。耳に飛び込んでくるサウンドは、レコードのビジュアルや手にした時の質量、特有の紙の匂い、はたまた小さな刻印や付随する情報等がシンクロすることによって、それらはとびきり良質な体験へと昇華されていくのです……そう思いません?

ということで、私はこれらを踏まえて、前々から次なるレコード・トレンドを予見しているのです。実例を挙げながら解説してみましょう!

 

200g重量再発盤で、さらにテスト・プレスという足し算も。

 

それでは、あくまでロック中心の視点にはなりますが、ここ30年ぐらいの超大雑把なトレンドを振り返ってみましょう。

 

ラベルとジャケットの変遷研究(=オリジナルの要件定義) > マトリクスの探究、プロモとテスト・プレスの発掘 > マザー / スタンパーの追求

 

すごいざっくりですが、(音楽そのものの追求とは別に)レコード深掘りトレンドはこんな感じで進んできました。つまり、同一作品でもより細かいディテールが求められるようになってきたということです。というのも、いろいろな音楽に興味が向く人はさておき、The Beatlesだけを買って聴く、なんていう感じで対象をギューンと絞り込む方も少なくないのです。これホント。

そうなると、The Beatlesの13枚しかないオリジナル・アルバムなんて、条件なしなら 1日で収集終了です。ということで、マトリクス違いを集めて聴き比べたり、いろいろな国のジャケ違いを集めたりと、もっと細かい要素を追い求めることになるのです。そうすれば収集対象は指数関数的に増えていきますからね。

とはいえ、最近は行くとこまで行っちゃって、みなさん煮詰まり気味ではあります。この手の専門コレクターはすでに何周もしていて、同じものの状態グレードアップに勤しんでいる状態です。

ただ、私はレコードの売り買いを生業にしている売人。この状況に幾ばくかの危機感を抱いておりますので、ここで新たな研究対象ともいえる劇物を披露して、みなさんの好奇心と蒐集欲を煽り倒し、新しいトレンドを生み出してやろうではないかと思い立ったのです……正直すぎ?

 

鋭い方だと「文字組みがちょっと違くない?」となったかもしれませんが、これと盤重量に関連性があるかどうかは……調査中なんでいったん伏せさせてください。

 

そう、その研究対象こそが「盤重量」です。

みなさん薄々気づいているかもしれませんが、1960〜70年代のレコードはラベルやマトリクス等が同じ条件のものでも個体差があるもので、盤の重さにも差があるのです。ただ、多くの個体は誤差の範囲内で収まるのですが、果てしない量のレコードを追い続けていくと、激しく重量差のあるレコードに出会ったりするのです。

ということで、今回は『Help!』のモノラルのUKオリジナル盤を比較対象にしてみましょう。

上の写真のものは同じ条件の個体で、いずれもオリジナルの構成要件は満たしていて、どちらもマトリクスは同じ「2/2」です。さらに、細かくマザー/スタンパーまで見ていくと、①は「4GLP / 18GHR」、②は「5ADM / 29PTH」となっています。大差ないですよね?

しかし、この2枚の盤重量を測ってみると……。

 

 

あらまぁ……ぜーんぜん違うじゃありませんか!

①が「112.5g」で、②が「164g」。つまりは50g超の重量差! うげげ!

まぁ確かに、頑張って極端な例を探しはしたんですが、もちろんこの計測結果に嘘偽りはありません。これほどまでに個体差があるというのは、動かし難い事実なのです。

ここまで読んで「じゃあ、音質はどうなんだい?」となった方もいるかとは思いますが……私には正直違いが分かりません。先述したエキスパートの言葉通り、ブラインドで聴き比べると判別なんてつきませんでした。

ただ、この計測結果と諸々の情報を知った上で聴くと、重いほうがなんだか立派に聴こえる気がしてくるのです。というか、盤をプレイヤーに乗せようと持った時点で、そのあからさまな重さの違いにマインド・セットされちゃってます。

ほら、音の違いはさておき、なんだか重い盤が欲しくなってきてませんか? どうせならって思うでしょう?

では最後に、私が過去捜索した中でも頭ひとつ飛び抜けていた、横綱級の逸品をご覧ください……もうすんごいんだから!

 

 

あまりの重さに驚愕して、計測時の写真を撮り忘れてますし、一度計り間違えてもいますが、「188g」という超重量仕様『Rubber Soul』です。私は持った瞬間に「キターッ!」と大声を出したぐらい、もう別次元の手応えでしたよ!

みんながデジタルスケールを手にレコード屋を巡り、検盤カウンターでいそいそと盤の計量をする……なんていう光景が見られるようになる日も近いかもしれませんねぇ!

え? そんなのヤダ? まぁ、こういうのは慣れってヤツですから……。

では、また次回!

 

■編集=大浦実千
■バナーデザイン=柿沼みさと

【書籍紹介】


『アナログレコードにまつわるエトセトラ』
著者 山中明
発行 辰巳出版株式会社
定価 2,530円(本体2,300円+税10%)
発売日:2023年4月24日
体裁:A5判/208ページ(オールカラー)

本書の購入はこちらから
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4777829723/
楽天:https://books.rakuten.co.jp/rb/17426763/

【著者プロフィール】
山中 明(やまなか・あきら)
■ レコード・バイヤー/ライター/漫画家

1979年生まれ。神奈川県出身。2003年より(株)ディスクユニオン所属。バイヤーとしてレコードを追い求める日々の傍ら、レコード文化の発展に寄与すべく各種媒体にてコラムや漫画を執筆中。著書にソ連音楽ディスクガイド『ソ連ファンク 共産グルーヴ・ディスクガイド』、『アナログレコードにまつわるエトセトラ』、『レコードジャンキー富和 孤高のアナログ・レコード・コレクター』、編著に日本初のサイケデリック・ロック・ディスクガイド『PSYCHEDELIC MOODS‐Young Persons Guide To Psychedelic Music USA /CANADA Edition 』などがある。

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