家にいるのに"やっぱり"家に帰りたい【第5回】あなたの記憶|クォン・ラビン 桑畑優香 訳

いまいる場所になじむことができず、不安やとまどいを感じると、心やすまる居心地のいい家に帰りたくなる。
自分を守ってくれる温もりあふれる人と空間を誰もが必要としているのだ。
わたしが綴る言葉たちが、あなたのあたたかい避難場所となり、心と体がゆっくり休まりますように。――クォン・ラビン

【第5回】あなたの記憶

空っぽ

思い切って空っぽにしてこそ、満たされるもの。
愛ってきっと、そんなもの。

 

「好き」をあきらめることにした

あなたを好きになるのを、あきらめることにした。
駆け引きしたり、まわりの目を気にしたりする恋は、つらく哀しすぎたから。

好きになっただけなのに、失うことが多すぎて、わたしはただただ後悔した。噓で飾ったあなたにとって、真実とは何なのか。あなたの言葉と行いを信じたわたしが間違っていたのか。

わたしは深く傷ついた。わずかだけど期待していたから。

愛はどこへ消えたの。
「好き」と言ってくれたあなたはどこへ消えたの。

 

一枚の紙

愛と別れは、まるで一枚の紙の表と裏のよう。
憎しみの裏に愛が透けて見えるから、捨てたいけれど捨てられない。

あなたの記憶

つらくてたまらない時、わたしはあなたを思い出す。

息苦しさとめまいで救急治療室に運ばれた日、「わたしは今日で終わりなの?」と不安が襲いかかってきて恐怖にがんじがらめになった日。

あなたはいつも、わたしのそばにいた。あなたの名前を何度も呼ぶわたしの指先を、「ここにいるよ」とあたたかい手でぎゅっと包んでくれた。

麻酔から覚めて名前を呼ぶと、すぐに駆けつけてくれたあなた。わたしたちは、つながっていた。もう恋人ではないにもかかわらず。

いまでも苦しい気持ちになるたびに、あなたを想う。遠いところにいても、別々の道を歩いていても。 わたしを見守っていたまなざしが、いまも忘れられない。

いつもそばにいてくれたあなた。あなたにとって、わたしはどんな人として記憶されているのだろうか。

(イラスト チョンオ)

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著者プロフィール

クォン・ラビン
1994年、韓国生まれ。9歳のときに両親が離婚。そのことがきっかけで、世間では「あたりまえ」と思われている多くのことに疑問を持ちはじめる。2020年、自分と同じような思いを抱える読者に寄りそう言葉を届けたいと、デビュー作となる『家にいるのに家に帰りたい』(&books/辰巳出版)を刊行。

永遠なる紫の月——あなたはきっと、わたしとこの言葉たちが好きになる。

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桑畑優香
翻訳家、ライター。早稲田大学第一文学部卒業。延世大学語学堂、ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」のディレクターを経てフリーに。多くの媒体に韓国エンターテインメント関連記事を寄稿。主な翻訳書に『BTSを読む』(柏書房)、『BTSとARMY』(イースト・プレス)、『BTSオン・ザ・ロード』(玄光社)、『家にいるのに家に帰りたい』『それぞれのうしろ姿』(&books/辰巳出版)ほか多数。

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-家にいるのに“やっぱり”家に帰りたい, 連載