“自分を愛おしく、抱きしめたくなる”自己肯定感を高めてくれると話題のエッセイ『家にいるのに家に帰りたい』。著者のクォン・ラビンさんが綴る言葉は、不安やとまどい、どうにもできないさびしさ、愛することの痛みと幸福、たとえようのない感情にそっと寄り添ってくれます。今回は特別に、CHAPTER 4「わたしたちはふたたび恋をする」より一部抜粋をお届けします。
誰よりもわたしの幸せが一番大切
ときには消えてしまいたくなる
お風呂にすっぽり首まで浸かり
目と耳をふさいで湯船の栓をぬいたら、
わたしもお湯のように流れて消えてしまえるだろうか。
「どうか消えてしまいますように」
そう願っていた時期があった。
思いきり幸せになれる日がわたしにも来るのかな
幸せすぎると心が病気になる。
干からびた人生に
雨や雪のように幸せがふりそそいでも、
思いきり楽しめず、
「失ったらどうしよう」と考える。
ただ幸せになればいいのに、それでもいいのに。
いつか、足もとに幸せがぎっしり積もる日が来れば、
思いきり幸せになってもいいのかな。
わたしにも、そんな日が来るのかな。
幸せでも不安にならない日。
ただ幸せだけを感じる日。
家にいるのに家に帰りたい
いまいる場所になじむことができず、不安やとまどいを感じると、心やすまる居心地のいい家に帰りたくなる。カタツムリが自分を守るため、背なかに家をのせて生きるように。自分を守ってくれる、温もりあふれる人と空間を、誰もが必要としているのだ。
仕事とひとり暮らしを始めた頃は、ガスの申し込み方法さえわからず、仕事でも失敗ばかり。何度も壁にぶつかった。慣れないことに次々と直面すると、すべてを放り出し、家に帰りたくなる。一番親しい人がいる場所が、本当のわたしの「家」。だから、「家にいるのに家に帰りたい」と思ってしまう。
社会に出て気づいた、家族と暮らした時間の大切さ。「人生で一番いいのは、勉強しておこづかいがもらえる学生時代」という言葉は本当だった。大人になれば何でも思いどおりにできる。そう信じていたのに。
(イラスト チョンオ)
本書の続編『家にいるのに“やっぱり”家に帰りたい』がコレカラにて連載中!
著者プロフィール
クォン・ラビン
1994年、韓国生まれ。9歳のときに両親が離婚。そのことがきっかけで、世間では「あたりまえ」と思われている多くのことに疑問を持ちはじめる。2020年、自分と同じような思いを抱える読者に寄りそう言葉を届けたいと、デビュー作となる『家にいるのに家に帰りたい』(&books/辰巳出版)を刊行。
永遠なる紫の月——あなたはきっと、わたしとこの言葉たちが好きになる。
Instagram桑畑優香
翻訳家、ライター。早稲田大学第一文学部卒業。延世大学語学堂、ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」のディレクターを経てフリーに。多くの媒体に韓国エンターテインメント関連記事を寄稿。主な翻訳書に『BTSを読む』(柏書房)、『BTSとARMY』(イースト・プレス)、『BTSオン・ザ・ロード』(玄光社)、『家にいるのに家に帰りたい』『それぞれのうしろ姿』(&books/辰巳出版)ほか多数。