鬼才「くっきー!」による初の小説。思春期全開JKの、どこかおかしい、たぶんおかしい青春ラブストーリー。
【第4回】出来立てクレイジー彼女
無言は続いている。
口の空洞がこの子に気づかれぬよう、呼吸を抑えゆっくりと“吸う”“吐く”の繰り返し。ホーン化した口内は少しでも気を抜くと、ボウボウと音を出すだろう。
気を抜かず、気を紛らわす。
ただただタオルを搾り、この子のデコに置く。まるで車のタイヤにガムが張り付き、クルクル回っている感じ。
無駄すぎるが、意味のある時間。この子も確実に退屈してきているだろう。気の利いたトークを脳内に蔓延らせ、それでも言えぬストレスの極み。
なんだかんだで、2時間ほど経過。
拷問鬼すらも飽きて帰り出すであろう長尺。
それでも絞ってのせる。
僕は無言でタオルを絞ってのせる。
指が水を含み、ふやけてほうとうみたくなった頃、なんだか女の子の目の色が、いや、黒目のサイズが変わった気がする。まるで小鹿を狙うヒョウのような目。
キレている?
そう思った瞬間、悪魔のような顔をして女の子は笑い出した。
念力?
僕の脳内トークを理解したのか?
泥だらけの小銭をサンポールで磨いて、結局ボタンだったというトーク。
オレのテッパン! 滑るはずがないっ!
会心の脳内トークです。
やったよ、じいちゃん!
女の子はまっすぐ僕を見ていました。
ウケたからと言って調子にのらない僕。無表情で対応いたしました。
その後に女の子はひとこと言ったのです。ハッキリは聞き取れなかったけど。
「超オモレっ」と。
ワタクシご満悦ですが、ここは無表情を決め込ませてもらいますよ。
ウケても無表情and平常心なアシュラマンの右っぽい感じ。
そうしたら、なんだか女の子は「L.A.A!」とコールをはじめました。
「L.A.A! L.A.A! L.A.A! L.A.A!」
解釈の難しいアピールですが、こんなときのためにとエナジードリンクを3本注入しております。脳みそは鬼の大回転。余裕で理解です。
「L.A.A!」とは『LOOP AMAZING ANARCHY』の頭文字をとっているのです。
意味? まぁ、いろんな解釈がありますからね。
そして、超絶ご満悦でいると、なんの前触れもなく大きな破裂音が、女の子の肛門付近から放たれたんです。
屁です。
うん。まごうことなき屁です。
皆さんはいかがですか? ろくに会話もせず、ただかわいいだけの女子。素性も正確な年齢も分からぬ年頃の女子が、なんの躊躇もなく照れもなく大きな屁をこく。僕は素敵だと思いました。
その後も彼女は屁をこき続けました。僕の目を見て笑いながら。
ひと屁のたびに、素敵バロメータが5メモリほどUP。上がる、上がる。メーターは上がり続け、いよいよレッドゾーンに差し掛かろうとしたそのとき、何処からともなく咳払いが聞こえたのです。
それはなんだか陰陽師が柏手を打ったかのように、病室はスンと静まりかえって。
そしたら彼女は何故か我に返ったかのように、僕に会釈をしてきたんです。僕も会釈をすると、彼女は自分の名前や年齢、住んでいる町や通っている学校、便秘ぎみであることや排卵の周期まで、こと細かく僕に話してきました。
僕はそんなことはどうでも良く、早く話が終わらないかなと思っていました。
素性の話より屁が聞きたいのに。
そうこうしていると彼女は真っ直ぐ僕を見て、なんと、僕に告白をしてきたのです。
初対面なのに尻の軽い女だなぁとは思いましたが、正直、屁が魅力的なので…。
まぁ、付き合いますよ。
へへへ。
てか、陰陽師の柏手のような咳払いは続いており、気がつけばリズムを刻み出していました。覗き込むと、クリクリロン毛の顔色の悪い男が咳ってます。
知らねー、じじいだな。
あっ、わかったぞ。
アンドレ・ザ・ジャイアントのモノマネの人だ。
ええーっ!
すげー(笑)。
体型こそ違うけど、どっか似てる気がするなぁ。
ガリガリだけど絶対アンドレのモノマネ芸人じゃん(笑笑)。
すげー、アンドレ・ザ・ジャイアントだぁー。
僕はもう楽しくて、楽しくて。
彼女と、あっ、言っちまった。
まぁ、いいですかっ。
彼女とアンドレ(笑)は色々喋ってました。
なんでこんなところにいるのかっ、とかね(笑笑)。
てか、なんでアンドレはオレの彼女に心開いてんだよっ(笑笑)。
でも、僕はそんな事どうでもいいのです。
だって、僕のすぐ近くに小さいガリガリのアンドレがいるんですよ(笑笑)。
しかも、なりたての彼女と喋ってるんですよ(笑笑)。
神妙な顔したりするんすよっ(笑)。
ガリガリのアンドレがっ(笑笑)。
しかし、そんな日々は終わりを迎えます。
アンドレはどうやら自分の国に帰るらしいんです。
なんでなのか、わかんないけど。
CDにサインして渡してきたんです。
誰がニセアンドレのCDなんて聴くんだよっ(笑笑)。
しかも、サインなんて偉そうに(笑)。
聴いたら結構かっこいいんだけど、なんせアンドレだしっ(笑笑)。
しかし、今どきはモノマネ芸人もCDを出す時代なんだなぁ。
ほんと(笑)。誰が買うんだか(笑笑)。あー、楽しい(笑笑)。
それからの日々は、アンドレがいない病室と出来立ての彼女とCD。
毎日病室に行きました
彼女の看病のために。
そのたびに、彼女にアンドレのCDをイヤホンで聴かされます。
片方ずつで、もう笑っちゃうんすよね(笑笑)。
なんで、彼女はアンドレのCD聴いて、うっとりしてんだろって(笑笑)。
なんで、彼女はアンドレのことをマーク・ボランって言うんだって(笑笑)。
わけわかんねー(笑笑笑笑)。
超クレイジーじゃん。
出来立てクレイジー彼女ってタイトルの曲でも作るかっ(笑笑)。
まぁーまぁーまぁー各々の感覚なんでぇー。
一切の文句はありませんけどねっ(笑笑)。
せっかくなら、ここらで一句いっときますか。
我が彼女
ニセアンドレに
トキメクレイジー
先生直しは?
ございませんっ(笑笑)。
イヒヒヒヒィーフハハハハっ!!(笑笑)
と言ったような……そんな日々の繰り返しでした。
いっけん何もなく、退屈で同じような時間の繰り返しでしょうが、それでも幸せって思えたのです。
当たり前が何よりの最良の日々で、でも、当たり前はいつまでも続かないのです。
ほんと、ふとしたことで終わるんです。
僕たちの場合は……。
じいちゃんが……。
まさか、あの強いじいちゃんが……。
あんなことになるだなんて……。
ごめんね……。
キミの看病に行けなくなっちゃって……。
(つづく)
くっきー!
(イラスト ア~ミ~)
連載一覧
- 第1回 腹へりマウスホーン
- 第2回 牡蠣とマーク・ボラン
- 第3回 こっち側の腹減りマウスホーン
- 第4回 出来立てクレイジー彼女
- 第5回 復讐の白衣ゾンビ
- 第6回 朝日はしみるなぁ
- 第7回 顔面熱油
- 第8回 ファースト…
- 第9回 それぞれの道(悲しいバラード)