鬼才「くっきー!」による初の小説。思春期全開JKの、どこかおかしい、たぶんおかしい青春ラブストーリー。
【第1回】腹へりマウスホーン
鳥のさえずりよりも先に目覚めちゃうくらいのセッカチちゃんな私。
ベッドの中でカラダ伸ばし、窓に向かって「おはようございます」ってのが私の日課。
窓を開けて入り込んでくる朝一番の風は、私を心地よく起こしてくれる。
カーテンも嬉しそうに揺れちゃって。
歯に張り付いた上唇をベロで剥がしてあげて、私の一日はスタート。
でわでわ、高2女子のナウな朝のルーティーンをご紹介。
メヤニをガリゴリゴリガリしてぇー。
まずはスマホのチェックぅー。
ちーーーん……誰からもメッセ無しぃ~。
続きまして、寝癖魔王の怒りを鎮める鎮魔毛の儀スタート。
適度な水分と針山の如きクシ、そして聖風を起こしし銅羅意矢(ドライヤー)。
これで一気に寝癖魔王は鎮まるっちゃんっ!
自慢のサラサラ毛々完成で今日一日はHAPPY確定。
次は皮膚の御メンテナンス。ぎゃっ! ニキビこいてんじゃん!
しかも鼻と口の間、どセンターに出没ってんじゃん!
年頃乙女は皮膚最弱なんだしー(泣)。
しょうがないっす、強行突破っす! パパのT字カミソリで削ぎ落とし。
シャオっ! ぎゃっ! したたってんですけどぉ。血ぃしたこいてんですけどぉ(泣)。
終わったぁぁぁー! バンドエイド先生お願いしますぅーはぁ……(泣)。
今日一日UNHAPPY確定(泣)。
気を取り直して、朝ごはんっ♡
朝は小洒落たパンよりも、やっぱ米と味噌汁でしょう。なんて言ってるティーンは私からしたら、ただの鼻頭真っ赤系の田舎もん女子でしょー。
だったら麦わらでオサゲでもこいてろっての(笑)。
真っ赤なコンバインで車道走って渋滞の先頭なってろっての(笑)。
土ほってオケラ見つけて、飼う飼わないで悩んでろっての(笑)。
ベタだけどぉー朝はやっぱトーストくわえながら遅刻ギリこいて猛ダッシュってのがトキメキングなイマドキ乙女じゃんっ。
これで決まりっしょ! って、ウダウダこいてたらこんな時間じゃんっ! 遅刻コースじゃん!
急げ、急げ、急げー! 時短歯磨きして、とっとと制服に着替えて行ってきまーす!
きゃーっ! 私ったらトーストくわえて走ってんですけどぉー。
超超にイマドキ乙女なんですけどぉー。
トーストくわえて猛ダッシュこくなんてお決まりのストーリーっぽくない?
ドラマだと、この感じって転校生男子とぶつかって恋するやつなんですけどぉー。
ドーナツ化現象丸出しの我がシティーに突如現れた純都会の転校男子っ!
ぶつかってこいー、ぶつかってぇ恋ぃー、どっしゃいーーーっ!
とか言ってる場合じゃないじゃん! 腕時計をLOOKっ! ぎゃ!
バスの時間ギリじゃねーっ!
ヤビーっ! 走れ、私! 心臓のポンプをフル回転して、全身に血を巡らせて左右の足を前え前え!
ふんっはっふんっふんっはっ! ふんっはっふんっふんっはっ!
てか、この息遣いってば、嵩山少林寺でクンフーこいてる時のじゃんっ。
ジャッキーもいいけど、リーリンチェイもいいんだよなー。
ふんっはっふんっふんっはっ! ふんっはっふんっふんっはっ!
よっしゃーっ! バス停目前っ! 残り80歩前後っ。
むむむっ! なぬっなぬっ! 後ろからバス来てっし!
すごいスピードこいってし! バス私を抜いてったし!
てか、バス客乗せて出発進行ってっし!
……ぜってぇー遅刻じゃん! 地獄こいてらぁーーー。
んーっがないっ! がないっ! しょうがないっ!!
くわえたトーストをカバンに詰め込んでバスロードをBダッシュ!
いや、無理無理無理っ! バスロードBダッシュこいてバスに追いつくワケねーし!
こりゃー遅刻確定だしー!
しょうがないっ! だったらワープゾーン使うっきゃないっしょ!
この品揃え鬼クソの自販機横の茂みに突入ぅぅぅ!
これがショートカットロード!
そうっ! ワープゾーンでございます!
しかし、気をつけなきゃ! 茂みを抜けるとコンロー爺さんの敷地内!
コンロー爺さんとは、敷地内に入ってくる子供たちにもれなく靴下に砂利を詰めたオリジナル武器ボールをぶん投げてくるんです。
そのコントロールがすごいのなんの。
コントロールのいい爺さんで、『コントロール爺さん』と呼ばれてて、私ら世代はコンロー爺さんとよんでるのっ。
コンロー爺さんに万が一見つかりでもしようもんなら、砂利ボールは私のコメカミに食い込むことでしょう。
息をひそめて静かに静かに……腰を落とし地面を這うように……。
ぎゃおっ! コンロー爺さんが縁側で茶すすってらぁ。
むっ! よく見るとコンロー爺さんは動いていない。
眠っている? イケる……イケるぞ……。
このまま物音を立てず静かに静かに……。
よしっもう少しで敷地を抜ける……。
その時でした……。
私のコメカミに「ノゴンっ」という音と共に衝撃が……。
痛みはありませんでした。痛みには気づかなかったという方が正しいか。
ただ、身体は巨象が倒れるかの如く、ゆっくりゆっくりと地面に吸い付いていくかのように……。
一瞬の出来事すぎて理解できぬまま地面に横たわり、私は意識を失いました。
一つだけ覚えていることは倒れゆく瞬間に見たコンロー爺さんの顔は……笑っておりました。
痛い……コメカミが痛い……。
えっ? 私、布団の中?
知らない天井の木目と蛍光灯……。
知らない匂いと知らない湿度……。
ホコリまみれの床の間……。
ここはどこ……誰かの家……。
あぁそうだ……私……コンロー爺さんの武器ボールをくらって……。
あぁ口の中が血の味がする……。
あれ? 誰かが横に座ってる……。
桶につけたタオルをしぼってる……大きな手……。
肘に大きなキズ痕……あぁ……タオルを私の頭に……。
冷たいっ……でも……なんだか……あったかい……。
喋りかけたいけど……意識が朦朧として声が出ない……。
あぁ、また眠ってしまう……せめて、この人の顔だけでも……。
だめだ……間に合わない……肘に……大きな……。
うっすら聞こえるサイレンの音と共に、意識完全シャットダウン
それから私は何時間ほど眠ったのでしょうか。
目を覚ますと病院のベッドの上でした。
見るとコブダイに似た看護師さんが私の脈を測っているところでした。
指はチンアナゴのようにしなやかでした。
海だぁー。ルーツが海がらみの人なんだぁーと思いました。
名札を見ると大空翼子(おおぞら・つばさこ)と書いてありました。
キャプツバだぁー、親がキャプツバ好きなんだぁーと思いました。
髪型はクリクリパーマのロン毛で海藻のようで……いや、もしやラモスヘアーか?
色々ききたいなぁー。
コブダイフェイスにラモスヘアー。
名前は翼子で指チンアナゴ……色々聞きたいなぁー。
でも、私はなぜか寝たふりをしました。
なぜ寝たふりをしたのかはわかりません。
色々聞きたいのに私は寝たふりをしました。
寝たふりをしながら、なぜ私は寝たふりをしたのか考えましたがわかりません。
なぜ寝たふりをしたのでしょう。
もう少し寝ようとか喋るのが面倒くさいとかでなく。
痛みすら少しあるのに、はっきり目も覚めているのに、聞きたいこといっぱいあるのに……寝たふりをしたのです。
起きるタイミングを無くした私は診察が終わるまで、時間で言えば1時間ほど寝たふりをしていました。
人生において圧倒的に無駄な時間でした。
寝たふりをしている間はあえてカントリー娘と田中義剛さんのことを考えていました。
人生において圧倒的に無駄な時間でした。
コブダイラモスが診察を終え部屋を去りました。
時計を見ると昼の二時。
お腹が究極に減っています。
食べるもののない私は口の中の皮をチムチム食べました。
しかし、口内の皮でお腹が膨れるわけありません。
口の中を全部食べても腹三分いけばいいところ。
それでも食べるしかない私はソシャクを多めにし、満腹中枢をマックスまで持っていきました。おかげで口の中がなくなる頃には腹はパンパンになっていました。
ふー満足ぅー……。
その時、重要なことを思い出しました。
朝の食べかけのトーストをカバンにねじ込んでいたことをっ!
しくったーっ! トーストを食えば丸く収まっていたのにっ。
口の中はスカスカで空洞ができ、息をするたびにボォーボォーと大きい管楽器みたいな音がします。
今やコメカミよりも口内のほうが痛んでおります。
痛みと空洞で言葉もうまく言えそうにありません。
試しに田中義剛と言ってみました。
「ふぁなぁふぁふぉふぃふぁふぇ……」
泣けてきました。いや泣きました。ハッキリと泣きました。
ふぉふぇーんふぉふぇーん。
気持ちはえーんえーんです。
泣きじゃくりがなんとなく落ち着きだした頃、誰かが部屋の扉を開けました。
そこには顔の知らない同世代くらいの男子が立っていました。
サラサラの髪をかきあげ、私にペコリとおじぎをしました。
右手にはビニール袋。
誰だろう……?
完全なる男前。身長も180センチほどで痩せマッチョ。
脈々しい腕と手のひら、肘には大きなキズ痕……。
肘に大きなキズ痕ッ!?
彼だ! 私を知らない部屋で看病してくれたのは、この彼だっ!
なになにっ! この感情っ! ほぼほぼ初対面なのに、胸が熱すぎてマグマなんですけどっ!
急激な訳わかんない感情で唾が固形化してんですけどっ!
うっすらでしかない記憶の中のこの人。
はじめて異性に看病された。
デコに置かれた冷たいタオルはなぜかあったかくて。
やっと確認できたあの時のこの人の顔。
だめっ、言っちゃうっ!
ほぼほぼ初対面なのに言っちゃうっ!
マグマな気持ちが今にも大噴火起こしちゃうっ!
言っちゃうっ、言っちゃうっ! 言っちゃうっ!!
えーーーーいっ! 言っちゃえーーーーっ!
「す……す……」
「すふぃふぇふっ(好きです)!!!」
悔やまれる口内と首を傾げる彼でございます……(泣)。
これが私と彼のマグマラブストーリーのプロローグ♡
(つづく)
くっきー!
(イラスト ア~ミ~)
連載一覧
- 第1回 腹へりマウスホーン
- 第2回 牡蠣とマーク・ボラン
- 第3回 こっち側の腹減りマウスホーン
- 第4回 出来立てクレイジー彼女
- 第5回 復讐の白衣ゾンビ
- 第6回 朝日はしみるなぁ
- 第7回 顔面熱油
- 第8回 ファースト…
- 第9回 それぞれの道(悲しいバラード)