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普段着としての名著【第5回】選挙をめぐるあれこれと『近代人の自由と古代人の自由』|室越龍之介

【第5回】選挙をめぐるあれこれと『近代人の自由と古代人の自由』 「ハック」という時代精神 2024年は選挙イヤーであった。 七夕には東京都知事選挙が行われ、10月には衆議院選挙。海の向こうアメリカも大統領選挙の年で、選挙戦の模様が連日報道された。 選挙を巡るあれこれの出来事は世相を表しているのであろう。 都知事選では、56人の立候補者が乱立し、候補者ポスターのスペースを広告に転売するなど、システムをハックした振る舞いがみられた。有力候補者の中には、YouTubeやTikTokなどでショート動画を作成し機運 ...

普段着としての名著【第4回】ハイカルチャーインテリとディスタンクシオン|室越龍之介

【第4回】ハイカルチャーインテリとディスタンクシオン メガシティ・TOKYO 生存の必要から僕が東京に越してきて半年が経とうとしている。 人口が47万人しかいない大分県大分市から、4434万人の首都圏に移動してきたわけだ。 実に約100倍の人間が往来を闊歩し、家々がしめている。 「東京には慣れましたか?」と親切に聞いてくれる人もあるのだが、慣れるわけがない。 幸い、旧知の友人、新知の知人が何くれとなく様々なものに誘ってくれる。 誘われてみると確かに九州の片田舎では思いもよらないような人々や場所がある。 あ ...

本屋さんの話をしよう【第15回】書店の「界隈」化はじまる│嶋 浩一郎

【第15回】書店の「界隈」化はじまる 最近よく目にする言葉「界隈」  ちかごろ、「界隈」という言葉をあちこちで目にしませんか? Z世代が多用する用語で、同じ嗜好性を持つ人たちを意味します。#(ハッシュタグ)とともに使われることも多いですね。たとえば、「ジャニオタ界隈」のように「推し」が共通の人たちを表現するのに使われます。渋谷109のマーケティング研究部門である「SHIBUYA109 lab.」が2024年のトレンド予測で取り上げて話題になったのが「#自然界隈」。それは単なるピクニックじゃないのか?と年配 ...

モヤモヤしながら生きてきた【第10回】「社会はそんなに不公正ではない」と思いたい人たち|出田阿生

第10回 「社会はそんなに不公正ではない」と思いたい人たち 男女別学の公立高校が突出して多い埼玉県 わたしが現在勤務している埼玉県で今夏、こんな議論が沸騰した。 「男子校、女子校は時代おくれなのか、それとも存在意義があるのか」 埼玉には男女別学、つまり共学ではない公立高校が全部で12校ある。 全国で、別学となっている公立高校は全部で42校。上位3位を占めるのは、埼玉のほかに群馬(12校)、栃木(8校)だが、群馬は共学化の具体的な計画がある。数が多い上に計画もない点で、埼玉が突出している。 そもそも公立高が ...

事故物件の日本史【第10回】橋という場所にさまざまな怪異が存在するわけ|大塚ひかり

第十章 橋と事故物件 永代橋崩落事故にまつわる霊現象 戸山の徳川尾張藩の下屋敷について調べるために国立国会図書館デジタルコレクションで『江戸叢書』を見ていた時のこと。 同じ十二巻に所収された『遊歴雑記』巻の四に「深川富賀(ママ)岡八幡宮永代寺」という項目があって、そこに深川の富岡八幡宮の祭礼の際、永代橋が崩落し、千人以上の男女が溺死したという“怪事”があったと書かれていた。 永代橋の崩落とは、文化四(1807)年8月19日に起きた史上最悪と言われる橋の事故である。その惨事は同時代のさまざまな書籍に伝えられ ...

普段着としての名著【第3回】本当は正しいマッチングアプリの使い方と『価値があるとはどのようなことか?』|室越龍之介

【第3回】本当は正しいマッチングアプリの使い方と『価値があるとはどのようなことか?』 商品になる僕たち 「価値を出す」という言葉がある。 僕がベンチャー界隈に足を踏み入れてからよく聞くようになった言葉だ。 それ以前にはあまり聞いたことがなかったし、僕にとってはこの言葉遣いは不思議であった。 なぜなら、価値というものは「ある」ものないしは「ない」ものであって、「出す」ものではないからだ。 「価値を出す」というのは一体全体どういうことだろうか。 僕たちを取り巻く社会には、ものの交換が行われる市場がある。 そこ ...

本屋さんの話をしよう【第14回】本を読みながら飲む最高のビールに出会ってしまった話│嶋 浩一郎

【第14回】本を読みながら飲む最高のビールに出会ってしまった話 今年の夏も暑いですね。こんなときはビールを椎名誠さん的にプハーッと飲みながら、文庫本などをめくって午後の時間をゆるゆると過ごしたいものです。最近は、カフェ併設の本屋さんも増えて、ビールを飲みながら読書も気軽にできるようになったのは嬉しい限りです。 いきなり、本を読みながら飲むのはビールと決めつけてしまいましたが、もちろん、コーヒーでもいいんですよ。むしろ、多数派の皆さんは本に合う飲み物はコーヒーと答えるのではないでしょうか。本の街神保町にも〈 ...

本屋さんの話をしよう【第13回】座って本を売ってもいいですか?│嶋 浩一郎

【第13回】座って本を売ってもいいですか? 「バイトさんが座って仕事してもいいじゃない」 アルバイト情報を提供するマイナビが面白い実験を始めました。その名も「座ってイイッスPROJECT」。マイナビの調査によるとアルバイトの23.3%しか座っての接客が許されていないんだそうです。もちろん、厨房で料理をする仕事は座ってできないから、立ったままでも仕方がないのですが、ドラッグストアやコンビニのレジ係なんかは、まあ座っていてもいいんじゃないかとお客の立場からしても思うんです。アメリカの小説や映画に出てくる雑貨店 ...

本屋さんの話をしよう【第12回】本は見るもの触るもの│嶋 浩一郎

【第12回】本は見るもの触るもの まずは、“匂い”から本を考えてみる 本の愛で方は人それぞれです。よく言われるのが本の匂いを愛でる人々の存在。自分も本の匂い、嫌いじゃありません。本好きならきっと本を開いて鼻を押し付け深呼吸してみたことあるはずです。地味な匂いですが、心を鎮めてくれるような気分になりませんか? 図書館や古書店に入ったときのウイスキーのピート臭にも歴史を感じてしまいます。 本の匂いは紙とインク水性エマルジョンなど製本の過程で使われる接着剤などの匂いがミックスされたもので、保管場所のコンディショ ...

本屋さんの話をしよう【第11回】出張帰りにゴルゴに感情移入を│嶋 浩一郎

【第11回】出張帰りにゴルゴに感情移入を 特急で松本清張を読むと、妄想力がアップする!? 新幹線に乗るときは必ず本を持っていきます。通勤時間とは違う長距離の移動は、時間をしっかりとって読書ができますからね。鉄道の絶妙な振動が快適な読書のためのリズムになるのもいいですね。そういえば、高校生のとき読書をするために山手線一周とかしていたことも思い出しました。喫茶店の雑音もいいけれど、鉄道は生活音に振動が加わるのがミソですね。読書環境としてはかなりいい場所なんじゃないでしょうか。 それに加えて、地方に向かう特急列 ...

本屋さんの話をしよう【第10回】「この本、読み忘れていませんか?」 痒いところに手が届く盛岡の本屋さん│嶋 浩一郎

【第10回】「この本、読み忘れていませんか?」痒いところに手が届く盛岡の本屋さん 昨年11月に岩手県盛岡に旅をしました。盛岡の三大麺を二日で食すという弾丸ツアーです。盛岡にはじゃじゃ麺、冷麺、わんこ蕎麦という全く違うキャラクターの麺が名物としてひしめいているんですよね。 自分にとってわんこ蕎麦は初体験だったのですが、これが、予想以上のエンタメ体験でした。素早く蕎麦を供してくれる給仕の女性たちがスゴイんです。「どんどん」という独特の掛け声をかけながら、蕎麦を次々とお椀に入れてくれるのですが、「まだ行けますよ ...

モヤモヤしながら生きてきた【第2回】被害者の声を聞く…それはフラワーデモから始まった|出田阿生

【第2回】被害者の声を聞く…それはフラワーデモから始まった 身近な人、たとえば家族に「性暴力を受けた」と告白されたら、どうすればいいだろうか。思わず、耳をふさぎたくなるかもしれない。どこかに「性の話はタブー」という意識がある。しかも性被害の話は、話すのも聞くのもつらい。その人が大事な存在であるほど、被害を現実だと認めたくない気持ちになる。自分も傷つくから……。 日常にあふれかえる性暴力に、社会は耳を傾けてこなかった 昨年7月、俳優の服部吉次(よしつぐ)さん(79)の記者会見を動画で視聴して、そんなことを思 ...

本屋さんの話をしよう【第9回】無人店舗で本を買う│嶋 浩一郎

【第9回】無人店舗で本を買う 世田谷の松陰神社の商店街で夜間、無人の書店が営業している。 山下書店の世田谷店は昼間は書店員のいる本屋として営業しているが、夜間は親会社の取次・トーハンと協業するかたちで、「無人書店」の実証実験中なのだ。 深夜の無人書店。どんな、感じで本が買えるんだろうか? 一度覗いてみなければ。 22時過ぎ、三軒茶屋駅から世田谷線に乗り込む。かつて、渋谷から二子玉川を結んでいた路面電車玉電(今は地下を走る田園都市線になっている)の三軒茶屋から下高井戸を結ぶ支線が世田谷線だ。2両編成の車両に ...

本屋さんの話をしよう【第8回】地野菜と外国文学の未知との遭遇│嶋 浩一郎

【第8回】地野菜と外国文学の未知との遭遇 池袋から電車で30分弱。東久留米駅で降りるとラーメン店〈福しん〉がまず目に入る。同店は西武線沿線にチェーンを展開していて、自分の生活圏ではなかなか出合わない。お、西武線ワールドに旅してきたぞという感じがする。そして、その先にブラック・ジャックとピノコの銅像があるではないか。へぇ、東久留米は兵庫県宝塚出身の手塚治虫が終の住処(ついのすみか)にした街なんだ。なんだか、本屋を訪ねるのに、手塚漫画のキャラクターがお出迎えなんていい感じだ。その銅像のすぐ目の前に、今回のお目 ...

本屋さんの話をしよう【第7回】完全に振り切れた大阪の本屋、 波屋書房のすごさとは?│嶋 浩一郎

【第7回】完全に振り切れた大阪の本屋、波屋書房のすごさとは? 文楽の本を作る仕事を長年しているので大阪に行く機会がしばしばあります。文楽は江戸時代の大阪を代表する芸能ですからね。そして、時間に余裕がある日は国立文楽劇場で太夫と打ち合わせや取材をする前後に、劇場近くの黒門市場や千日前あたりをぶらぶらと散策しています。 大阪の街のイメージは、なんだか、やたらと、活気がある感じでしょうか。どこからやってきたんだろうと思うくらい人がいるときもあって、おっちゃんとおばちゃんがフリースタイルで往来を行き来していて。お ...