第一章 なぜ『源氏物語』の舞台は事故物件ばかりなのか/後編 宇治十帖の舞台は広大な墓場 さて、主人公の源氏死後、その孫たちの物語を描いたのが「宇治十帖」と呼ばれる巻々だ。 その舞台となった宇治は、平安初期、 “わがいほは都のたつみしかぞすむ世をうぢ山とひとはいふなり”(私の庵は都の東南にあって鹿の住むような所だが、このように心を澄まして住んでいる。それを人は宇治山…憂し山…などと、この世をつらく思って遁世したと言っているらしい) と、喜撰法師に歌われて以来、“憂し”の意を込めた歌枕になった。 平安中期の『 ...