• お知らせ
  • 特集
  • 連載
    • 事故物件の日本史
    • モヤモヤしながら生きてきた
    • 令和ロマン髙比良くるまの漫才過剰考察
    • マグラブ
    • あなたを全力で肯定する言葉
    • 本屋さんの話をしよう
    • 家にいるのに“やっぱり”家に帰りたい
    • 法獣医学の世界
    • 保護犬たちの物語
  • Twitter
  • 運営会社
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー

コレカラ

  1. TOP >
  2. 連載 >
  3. 家にいるのに“やっぱり”家に帰りたい >

家にいるのに"やっぱり"家に帰りたい【第4回】「緊急連絡先を書いてください」|クォン・ラビン 桑畑優香 訳

2022年11月8日

いまいる場所になじむことができず、不安やとまどいを感じると、心やすまる居心地のいい家に帰りたくなる。
自分を守ってくれる温もりあふれる人と空間を誰もが必要としているのだ。
わたしが綴る言葉たちが、あなたのあたたかい避難場所となり、心と体がゆっくり休まりますように。――クォン・ラビン

【第4回】「緊急連絡先を書いてください」

ある男の物語

とある壁の片隅に、ある男が書いた文を見つけた。それを読んで、涙が止まらなかった。

「父さんと僕を置いて母さんが家を出た日。僕はその日、母さんが去ってしまうと気づいていた。一生懸命寝たふりをして、母さんがいなくなった後、声を殺して泣いたんだ。涙を流しながらためらう母さんを引き留めなかったのは、自分の人生を生きてほしいと思ったから。幸せになってほしかったから。軍隊生活を送る僕に、母さんは手紙を送ってくれたね。たまらなく会いたくなって電話をすると、母さんは『誰ですか』と尋ねて沈黙し、しばらくしてから僕の名前を呼んだ。あの時、僕は声を出さずに泣いていたんだ。何も言えないまま電話を切ってしまったけど、僕を忘れずにいてくれて、ありがとう。僕は今、とてもつらい日々を生きていて、母さんにすごく会いたい。母さん、母さん。母さんに会いたい」

すっかり大人になった男が、「母さんに会いたい」と綴る文。それは、わたしの文章に驚くほど似ていた。

思わずペンを手に取り、その下に書き加えた。

「母さんも息子に会いたい。ごめんね」

その男は母親に再会できたのだろうか。

 

 

表現

表現できないことと、表現しないこと。それはまったく別の問題だ。

 

「緊急連絡先を書いてください」

ひとり暮らしが10年近くになると、家族との関係もだんだん希薄になっていく。一番近く、もっとも愛すべき存在であるにもかかわらず、一番遠く、もっともややこしいのが家族だ。愛するがゆえに言いたいことをぐっと飲みこみ、わたしの心はどんどん固く閉じていく。

新しい職場に入社した時や、病院に入院したり手術を受ける時に、必ず言われる「緊急連絡先を書いてください」という一言が、わたしをじりじり追い詰める。

緊急連絡先に記す人がいないのだ。
友だちや恋人の名前を書いても、その人たちは本当の保護者ではない。そんな事実が、わたしを孤独の底に突き落とす。

わたしの保護者はわたし。
そんなわたしはどうしたらいいのか。

(イラスト チョンオ)

< 前の話 │ 次の話 >
1話から読む

BTSのVが紹介!
たちまち5万部突破した話題の韓国エッセイ

『家にいるのに家に帰りたい』

クォン・ラビン

購入はコチラ


著者プロフィール

クォン・ラビン
1994年、韓国生まれ。9歳のときに両親が離婚。そのことがきっかけで、世間では「あたりまえ」と思われている多くのことに疑問を持ちはじめる。2020年、自分と同じような思いを抱える読者に寄りそう言葉を届けたいと、デビュー作となる『家にいるのに家に帰りたい』(&books/辰巳出版)を刊行。

永遠なる紫の月——あなたはきっと、わたしとこの言葉たちが好きになる。

Instagram

桑畑優香
翻訳家、ライター。早稲田大学第一文学部卒業。延世大学語学堂、ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」のディレクターを経てフリーに。多くの媒体に韓国エンターテインメント関連記事を寄稿。主な翻訳書に『BTSを読む』(柏書房)、『BTSとARMY』(イースト・プレス)、『BTSオン・ザ・ロード』(玄光社)、『家にいるのに家に帰りたい』『それぞれのうしろ姿』(&books/辰巳出版)ほか多数。

連載一覧

  • 第1回 幸せになれる魔法の呪文
  • 第2回 「だいじょうぶ」が「本当にだいじょうぶ」になるまで
  • 第3回 幸せになるための7つの方法
  • 第4回 緊急連絡先を書いてください
  • 第5回 あなたの記憶
  • 第6回 わたしへ
  • 第7回 不幸と別れから逃げられるなら
  • 第8回 あなたは海、宇宙、あるいはそれ以上
  • 第9回 時間を歩く
  • Post
  • Share
  • LINE

-家にいるのに“やっぱり”家に帰りたい, 連載
-クォン・ラビン, 家にいるのに"やっぱり"家に帰りたい, 桑畑優香

author

関連記事

本屋さんの話をしよう【第1回】本を「地産地消」で楽しむ│嶋 浩一郎

【第1回】本を「地産地消」で楽しむ 京都は喫茶店天国というのは多くの人が認めるところかと思います。三条通と堺町通の交差点近くのイノダコーヒ三条支店は、僕が京都にいったらかなりの頻度で尋ねる場所です。イノダコーヒーではなくコーヒというつづりですからね。イノダコーヒはチェーン店で東京にも支店がある店ですが、三条支店が大のお気に入りです。なぜなら、この店には日本で一番本や新聞を読むのに向いているカウンターが存在するからです(自分調べです!)。 三条通の扉を開けて店に入ると、手前にはコーヒーカップやコーヒー豆など ...

戸外に繋がれたまま放棄された老ピットブル 面倒を見続けた近所の母娘のもとに引き取られ、「可愛い」「大好き」の言葉を浴びて甘える日々|ラッキー(推定14歳)

保護犬たちの物語【第14話】ラッキー(推定14歳) ウオーン、ウオォーン! きのうもきょうも、どこからか聞こえてくる哀しげな犬の鳴き声。 「どこかのお宅で飼い始めた犬が、まだ慣れないから鳴いているのだわ」 洋子さん・梓さん母子はそう思っていた。昨年の夏の初めのことだ。だが、何日もその声は続き、哀切の響きを増してくる。気になっていると、近所の人からこんな話を聞いた。「向こうの路地のアパートで、犬が置き去りにされているんだって」 洋子さんは、近所の方たちと協力し合って、地域猫のお世話を長年続けている。自宅には ...

令和ロマン髙比良くるまの漫才過剰考察|第6回

【第6回】「暴れる叫び声から整えられたビブラートへ」THE SECOND考察 コレカラをご覧のみなさん。 お久しぶりです。くるまです。 今回は先日行われた『THE SECOND ~漫才トーナメント~2024』を過剰に考えていこうと思います。 正式名称の~漫才トーナメント~の部分ってあんまり知れ渡ってないですよね。 『はねとび』で 言ったら『You knock on a jumping door!』の部分。 『めちゃイケ』で言ったら『-What A COOL we are!-』の部分。 フジテレビはサブタイ ...

続・アナログレコードにまつわるエトセトラ【第5話】知らなきゃ暗号、知れば有能、レコード専門略語徹底解説|山中明

  みなさんはレコードのことだけで頭をいっぱいにして、昼夜問わずレコードをディグる日々を送っていますか? 日中レコ屋を巡れば中古レコードのプライス・タグに、夜間インターネット・オークションを徘徊すれば商品の説明欄に、「VG」とか「SOC」みたいな、なんだかよく分からない暗号めいた文字が書かれていて、「はぁ? これ、どういう意味よ?」と思ったことも少なくないはずです。 ただ、実はこの暗号、オリジナルの見分け方とかコンディションの詳細とか、自分でパッと分からないようなことが簡潔に表現されている、便利 ...

試し読み|みんなアソコで悩んでる!女性のための女性器の本『産婦人科医が教える みんなのアソコ』②

【イベント情報】お笑い芸人・小籔千豊さん初著書の刊行を記念して、11/17(木)に『トークショー&サイン会』を書泉ブックタワーにて開催!

https://korekara.news/wp-content/uploads/2024/07/hoboneko.mp4

連載一覧

関連サイト

    • 運営会社
    • 利用規約
    • プライバシーポリシー
    当サイトに掲載されている記事、写真、映像等あらゆる素材の著作権法上の権利は著者および辰巳出版が保有し、管理しています。これらの素材をいかなる方法においても無断で複写・転載することは禁じられております。

    コレカラ

    © 2024 TATSUMI PUBLISHING CO.,LTD.