• お知らせ
  • 特集
  • 連載
    • 事故物件の日本史
    • モヤモヤしながら生きてきた
    • 令和ロマン髙比良くるまの漫才過剰考察
    • マグラブ
    • あなたを全力で肯定する言葉
    • 本屋さんの話をしよう
    • 家にいるのに“やっぱり”家に帰りたい
    • 法獣医学の世界
    • 保護犬たちの物語
  • Twitter
  • 運営会社
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー

コレカラ

  1. TOP >
  2. 連載 >
  3. マグラブ >

マグラブ【第4回】出来立てクレイジー彼女│野性爆弾 くっきー!

2022年12月29日

鬼才「くっきー!」による初の小説。思春期全開JKの、どこかおかしい、たぶんおかしい青春ラブストーリー。

【第4回】出来立てクレイジー彼女

無言は続いている。

口の空洞がこの子に気づかれぬよう、呼吸を抑えゆっくりと“吸う”“吐く”の繰り返し。ホーン化した口内は少しでも気を抜くと、ボウボウと音を出すだろう。

気を抜かず、気を紛らわす。

ただただタオルを搾り、この子のデコに置く。まるで車のタイヤにガムが張り付き、クルクル回っている感じ。

無駄すぎるが、意味のある時間。この子も確実に退屈してきているだろう。気の利いたトークを脳内に蔓延らせ、それでも言えぬストレスの極み。

なんだかんだで、2時間ほど経過。
拷問鬼すらも飽きて帰り出すであろう長尺。

それでも絞ってのせる。
僕は無言でタオルを絞ってのせる。

指が水を含み、ふやけてほうとうみたくなった頃、なんだか女の子の目の色が、いや、黒目のサイズが変わった気がする。まるで小鹿を狙うヒョウのような目。

キレている?

そう思った瞬間、悪魔のような顔をして女の子は笑い出した。

念力?
僕の脳内トークを理解したのか?

泥だらけの小銭をサンポールで磨いて、結局ボタンだったというトーク。
オレのテッパン! 滑るはずがないっ!

会心の脳内トークです。
やったよ、じいちゃん!

女の子はまっすぐ僕を見ていました。

ウケたからと言って調子にのらない僕。無表情で対応いたしました。
その後に女の子はひとこと言ったのです。ハッキリは聞き取れなかったけど。

「超オモレっ」と。

ワタクシご満悦ですが、ここは無表情を決め込ませてもらいますよ。
ウケても無表情and平常心なアシュラマンの右っぽい感じ。

そうしたら、なんだか女の子は「L.A.A!」とコールをはじめました。

「L.A.A! L.A.A! L.A.A! L.A.A!」

解釈の難しいアピールですが、こんなときのためにとエナジードリンクを3本注入しております。脳みそは鬼の大回転。余裕で理解です。

「L.A.A!」とは『LOOP AMAZING ANARCHY』の頭文字をとっているのです。
意味? まぁ、いろんな解釈がありますからね。

そして、超絶ご満悦でいると、なんの前触れもなく大きな破裂音が、女の子の肛門付近から放たれたんです。

屁です。

うん。まごうことなき屁です。

皆さんはいかがですか? ろくに会話もせず、ただかわいいだけの女子。素性も正確な年齢も分からぬ年頃の女子が、なんの躊躇もなく照れもなく大きな屁をこく。僕は素敵だと思いました。

その後も彼女は屁をこき続けました。僕の目を見て笑いながら。

ひと屁のたびに、素敵バロメータが5メモリほどUP。上がる、上がる。メーターは上がり続け、いよいよレッドゾーンに差し掛かろうとしたそのとき、何処からともなく咳払いが聞こえたのです。

それはなんだか陰陽師が柏手を打ったかのように、病室はスンと静まりかえって。

そしたら彼女は何故か我に返ったかのように、僕に会釈をしてきたんです。僕も会釈をすると、彼女は自分の名前や年齢、住んでいる町や通っている学校、便秘ぎみであることや排卵の周期まで、こと細かく僕に話してきました。

僕はそんなことはどうでも良く、早く話が終わらないかなと思っていました。

素性の話より屁が聞きたいのに。

そうこうしていると彼女は真っ直ぐ僕を見て、なんと、僕に告白をしてきたのです。

初対面なのに尻の軽い女だなぁとは思いましたが、正直、屁が魅力的なので…。

まぁ、付き合いますよ。
へへへ。

てか、陰陽師の柏手のような咳払いは続いており、気がつけばリズムを刻み出していました。覗き込むと、クリクリロン毛の顔色の悪い男が咳ってます。

知らねー、じじいだな。

あっ、わかったぞ。
アンドレ・ザ・ジャイアントのモノマネの人だ。

ええーっ!

すげー(笑)。

体型こそ違うけど、どっか似てる気がするなぁ。
ガリガリだけど絶対アンドレのモノマネ芸人じゃん(笑笑)。
すげー、アンドレ・ザ・ジャイアントだぁー。

僕はもう楽しくて、楽しくて。

彼女と、あっ、言っちまった。

まぁ、いいですかっ。
彼女とアンドレ(笑)は色々喋ってました。

なんでこんなところにいるのかっ、とかね(笑笑)。

てか、なんでアンドレはオレの彼女に心開いてんだよっ(笑笑)。

でも、僕はそんな事どうでもいいのです。

だって、僕のすぐ近くに小さいガリガリのアンドレがいるんですよ(笑笑)。
しかも、なりたての彼女と喋ってるんですよ(笑笑)。

神妙な顔したりするんすよっ(笑)。
ガリガリのアンドレがっ(笑笑)。

しかし、そんな日々は終わりを迎えます。

アンドレはどうやら自分の国に帰るらしいんです。
なんでなのか、わかんないけど。

CDにサインして渡してきたんです。
誰がニセアンドレのCDなんて聴くんだよっ(笑笑)。
しかも、サインなんて偉そうに(笑)。

聴いたら結構かっこいいんだけど、なんせアンドレだしっ(笑笑)。

しかし、今どきはモノマネ芸人もCDを出す時代なんだなぁ。
ほんと(笑)。誰が買うんだか(笑笑)。あー、楽しい(笑笑)。

それからの日々は、アンドレがいない病室と出来立ての彼女とCD。

毎日病室に行きました
彼女の看病のために。

そのたびに、彼女にアンドレのCDをイヤホンで聴かされます。
片方ずつで、もう笑っちゃうんすよね(笑笑)。

なんで、彼女はアンドレのCD聴いて、うっとりしてんだろって(笑笑)。

なんで、彼女はアンドレのことをマーク・ボランって言うんだって(笑笑)。

わけわかんねー(笑笑笑笑)。
超クレイジーじゃん。

出来立てクレイジー彼女ってタイトルの曲でも作るかっ(笑笑)。

まぁーまぁーまぁー各々の感覚なんでぇー。
一切の文句はありませんけどねっ(笑笑)。

せっかくなら、ここらで一句いっときますか。

我が彼女
ニセアンドレに
トキメクレイジー

先生直しは?
ございませんっ(笑笑)。
イヒヒヒヒィーフハハハハっ!!(笑笑)

と言ったような……そんな日々の繰り返しでした。

いっけん何もなく、退屈で同じような時間の繰り返しでしょうが、それでも幸せって思えたのです。

当たり前が何よりの最良の日々で、でも、当たり前はいつまでも続かないのです。
ほんと、ふとしたことで終わるんです。

僕たちの場合は……。
じいちゃんが……。
まさか、あの強いじいちゃんが……。
あんなことになるだなんて……。

ごめんね……。

キミの看病に行けなくなっちゃって……。

(つづく)

くっきー!

1976年3月12日生まれ、滋賀県出身。 日本のお笑い芸人。 吉本興業所属コンビ・野性爆弾として活動。 ネタ作りからコントの小道具まで全て自身が手掛けている。

TwitterInstagramYouTube

(イラスト ア~ミ~)

連載一覧

  • 第1回 腹へりマウスホーン
  • 第2回 牡蠣とマーク・ボラン
  • 第3回 こっち側の腹減りマウスホーン
  • 第4回 出来立てクレイジー彼女
  • 第5回 復讐の白衣ゾンビ
  • 第6回 朝日はしみるなぁ
  • 第7回 顔面熱油
  • 第8回 ファースト…
  • 第9回 それぞれの道(悲しいバラード)

 

  • Post
  • Share
  • LINE

-マグラブ, 連載
-くっきー!, マグラブ

author

関連記事

モヤモヤしながら生きてきた【第13回】取材の極意は「性的アピール」?!|出田阿生

【第13回】取材の極意は「性的アピール」?! 「取材中の性暴力だ」国に下された賠償命令 人身事故で電車が遅延……そんな車内放送が流れるたびに、ハッとする。 「五月病」という言葉通り、新しい環境に慣れるためのストレスで心身に不調を来す人が多い季節。春に人事異動があり、新たな業務を必死に習得中のわたしもその一人だ。 低空飛行を続けている中、うれしいニュースがあった。 埼玉県の前知事・上田清司参院議員の公設秘書から性暴力を受けた女性記者の裁判で、4月下旬に東京地裁が勝訴判決を出したのだ。 「取材中に行われた性暴 ...

法獣医学の世界【第3回】初めての多頭飼育崩壊|田中亜紀

初めての多頭飼育崩壊 シェルターメディスンを学ぶ日々 アメリカのカリフォルニア大学デービス校において、念願のシェルターメディスン(動物保護施設における獣医療)の勉強を始めた私は、大学院の授業も、出会う人達も、校内で交わす会話も何もかもが新鮮で楽しく、真新しい経験の連続でした。デービスの大学の空気を吸っているだけで嬉しくて、感動したものです。授業のない時は、大学近辺のアニマルシェルターに通い、シェルターの専属獣医師について回ってシェルターメディスンの実践を一から学びました。 また、大学のシェルターメディスン ...

本屋さんの話をしよう【最終回】僕は本屋のこんな本棚が好き│嶋 浩一郎

【最終回】僕は本屋のこんな本棚が好き 本屋さんの腕の見せどころ 皆様、突然ですが今回が最終回です。終わりはいつもいきなりやってくるものです。 というわけで、今回は僕は本屋のこんな本棚が好きというお話をしたいと思います。 本屋さんで売っている本はどこでも同じです。新潮文庫の三島由紀夫の『仮面の告白』はターミナル駅の大型書店で買っても、地元の駅前の書店で買ってもプロダクトとしては同じ文庫本です。サザンオールスターズ特集の「BRUTUS」はどの本屋さんで買っても中身は変わることはありません。 だから、本屋さんの ...

人間が怖くてたまらない「噛み犬」だったセンター収容の野犬の子 譲渡先で猫にも大歓迎され一歩一歩「怖いこと」を克服 |小春(8か月)

保護犬たちの物語【第11話】小春(8か月) 小春が木村家にやってきて2か月が過ぎた。 彼女はおととい避妊手術を済ませたばかり。ピンクの術後服を着ているのが、サマードレスのように似合っている。 ツヤツヤと黒光りする小春の目は、大好きなかをり母さんの姿を追っている。今日は知らない人がいきなりやってきて、カメラを向けるけれど、母さんがいるから怖くない。ここは、小春のおうちで、もう小春はビビリの「噛み犬」なんかじゃない。 小春は、元野犬の子である。栃木県那須市の山中で捕獲されたときは、まだ生後2か月ほどだった。母 ...

年末のご挨拶

新年のご挨拶

https://korekara.news/wp-content/uploads/2024/07/hoboneko.mp4

連載一覧

関連サイト

    • 運営会社
    • 利用規約
    • プライバシーポリシー
    当サイトに掲載されている記事、写真、映像等あらゆる素材の著作権法上の権利は著者および辰巳出版が保有し、管理しています。これらの素材をいかなる方法においても無断で複写・転載することは禁じられております。

    コレカラ

    © 2024 TATSUMI PUBLISHING CO.,LTD.