令和ロマン髙比良くるまの漫才過剰考察|第1回

2023年M-1グランプリにて、初代王者・中川家以来のトップバッターで優勝という、圧倒的強さを見せつけた超新星・令和ロマン。ボケを担当し、自他ともに認める「お笑いオタク」の髙比良くるまが、その鋭い観察眼と分析力で「漫才」について考え尽くします

【第1回】ウエストランドの漫才はタイムマシンだった

イラスト・髙比良くるま

コレカラをご覧のみなさん。くるまと申します。
普段は街で「令和ロマン」という看板のお笑い屋さんをやっております。特に吉本興業という老舗と仲良くさせてもらってまして、全国の劇場でふざけて回る日々を過ごしております。

お笑い歴6年目、人間歴30年目、というめっちゃ節目の年に、「筆を取ってみないか?」と辰巳出版様に激励されたので覚悟を決め、筆を取り、墨をすり、これ手書きじゃない方がよくない?と気づき、習字セットをしまい、パソコンを開き、キーボードを叩いております。

勘の鋭い方は気付いたと思いますが、いま私はふざけています。舞台上で行っていることを文字の上でも行っています。そうやって日銭をいただいております。マジに。少しでも羨ましいと思った方はぜひ吉本の養成所にお入り下さい。

そんな29歳・お調子者ごときに、何を書き連ねることができるのかと、高騰が続く生卵が投げつけられていると思うので説明いたします。

こちらは芸人が「漫才」について論じる連載企画となっております。

漫才は何も考えずに見ても面白いはずなんですが、何かを考えずにはいられない街のはぐれもののバラッドを聞いてください。

生意気〜〜〜〜〜〜〜!

まあチョコより生チョコ、どら焼きより生どら焼きの時代ですから、意気より生意気でいこうという上層部の判断でしょうか。
いずれにせよ、私に「漫才」が論じられると期待しているようです。
その背景には昨年のM-1グランプリで起きた小さな奇跡がありました。

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その背景には昨年のM-1グランプリで起きた小さな奇跡がありました。

2001年からは幕を開けたM-1グランプリは中断期間を挟んで18回目の開催となり、近年のお笑いブームも相まって異様な盛り上がりを見せていました。決勝どころかテレビ放送もされていない予選の時点からTwitterのトレンドを賑わし、ファイナリスト予想が飛び交い、Twitterのトレンドを賑わしていました。

そんな中、決勝当日のお昼から行われた「敗者復活戦」にて見事復活したのが2021年準優勝のオズワルドだったわけですが、それに続く2位になった謎のメガネとヒゲが令和ロマンなのです。そんでそのメガネの方が絶賛連載中の私・くるまな訳です。

宣材写真ではメガネをかけていないくるま(左)と相方の松井ケムリ

テレビ出演もほとんどなく、全国的な知名度は皆無の我々が、スーパー芸能人であるオズワルドのご両人に12万票差まで迫ったのは何故か。それは、他の芸人がその年に丹精込めて作った漫才をやる中で、我々が恥も外聞もなく「ドラえもん」をテーマにしたおふざけ漫才をやったからです。

ギャル「迫ってなくねー?」

テレビやスマホでの国民投票というシステム上、敗者復活戦といっても実際に復活の可能性があるのは有名人でしょう、大会にとってもそれはいいことだよねーっと私は思っていました。なので消化試合は消化試合として、たくさん票を集めてみようと考え、安直ゆえ玄人ウケは悪いが、万人ウケするアニメ題材のコント漫才を選び、お笑い好きがキャッチアップしやすい固有名詞やオマージュを散りばめ、テレビ映えする派手なスーツで極端にガンマイクを振り回してやりました。

すると全てが上手いこと票に繋がり、ミキ兄弟を抑えて2位に。
これを雑誌や動画で説明すると大反響、あぁ〜こんな考えてたんだ〜! あ〜あぁ〜言語化だ〜!とウエストランド井口さんが大好きな展開へ。
そこから僕はお笑いにおける街の言語化屋さんとしてキャリアを始めました。素直にお笑いを楽しみたい方は「戻る」で戻って下さい。そして「本当にこのページを読み込んでよろしいですか?」とか脅されて、この記事に戻ってきてくれると助かります。

ギャル「ミキのことわざわざミキ兄弟って言うなしっ」

イナバの前置きに100人分くらいの小ボケが乗ったところで本題に入りましょう。初回ということで、昨年のM-1グランプリ決勝を史上最遅で分析していきます。

結果は先ほども出演してくれた井口さん擁するウエストランドさんが制し、審査員・ダウンタウン松本さんの総括、「窮屈な時代でもテクニックとキャラクターがあれば毒舌も受け入れられる」が、この大会を象徴する文句となりました。

ただ、これでもって「必然だった優勝」とする流れは同意しかねています。

確かにM-1というのは常に時代の影響を受けやすく、コロナ初年度の2020は全てを弾き飛ばすマヂカルラブリーさんが、2021は続く不安感を消し去るような錦鯉さんが制してきました。その流れでのウエストランドさんというのは納得してしまいそうなのですが、予選から全体的なムードで考えると、もう少し違う期待感が漂っていたはずなのです。

コロナ3年目となり、withコロナと呼ばれ、ほっぺたとマスクが馴染んできた頃、世間にウケるお笑いは閉塞感からの逃避、ではなく新たな現実での幸福論、つまり爽快感はそのままに、よりアクティブなのものが求められ、バラエティでも有吉の壁やラヴィットなど、「主人公」的な笑いが台頭していました。
コロナ前のコンプラ厳格化期に流行った「誰も傷つけないお笑い」とも少し異なります。
「誰も傷つけない」は客体としておもしろい現象がある感じで、「主人公」は主体としてこちらを明るくさせようと働きかける感じです。もちろん芸人は皆、主体的にネタをやってるのですが、ネタの世界観にお客さんを引き込むやり方に対して、現実側に乗り出して笑わせにくるやり方を「主人公」と定義しております。そう考えると、ウエストランドさんは主人公でもなければ、誰も傷つけない感じとは真逆の存在です。

ではなぜ空気を持っていけたのか、それはもちろんネタが超面白いからなんですが、僕が思うにウエストランド前に「主人公」が出演しすぎたから、なんです。

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さや香さんは分かりやすく主人公でした。体育会の熱い男前同士のバトル、という漫才アニメの主人公。1本目のウケ方を考えても、間違いなくトレンドにバッチリハマっていました。
ロングコートダディさんと男性ブランコさんは文化系の主人公。ほとんどツッコミがない形はお客さん側に笑いどころを投げかけてくれる干渉型。しかしどちらも伝わりやすく、誰も置いてけぼりにしないので全員が参加できてとにかく楽しい。
そしてヨネダ2000は天真爛漫な子どもの主人公。奇想天外な世界に閉じこもるのではなく、リズムやメロディーで客席を巻き込んでいた。
ここら辺が2022決勝の主役であり、明らかにトレンドと合致して最大風速を吹かせていました。

さらにその前後も主人公に挟まれています。本来主人公ではないタイプに主人公「感」が加わったのです。
カベポスターさんには「トップバッター」という主人公感。こう書くとバカみたいですが、前年のモグライダーさんと違い、若手で正統派なしゃべくりという下地があった為、M-1では不利だと言われているトップバターという逆境に立ち向かう主人公感が生まれたのです。
オズワルドさんは「決勝連続出場からの敗者復活」という分かりやすい主人公感。和牛さんやミキさん味も帯びていました。
僕らがココで上がっていたらダークホースが作る第3の空気が生まれ、違う流れになっていたと思います。

真空ジェシカさんとダイヤモンドさんは普段かなり主人公じゃないことをしてますが、M-1のネタではボケ数も多く構成も練られていました。彼らを初めて見た観覧や審査員の方からは主人公的に見えますし、逆に2組をよく知ってる方にはこの「勝ちに来てる」空気が、主人公感を増幅させました。
キュウさんが出てきた時には完全にこの主人公ムードで、もっと干渉してくれるのを客席に待たれてしまった。引き込み型のお二人にとっては最悪の出順だったはずです。

敬語警察「さてはこいつ……ヨネダ2000と同期だな…?」

その主人公キラキラ感の積み重ねが全て、ダークヒーロー・ウエストランドへの壮大なフリになってしまっていたのです。なんてこった。
「YouTuberにはあるけど、タレントにはない」のフリで「やっぱりウザい」。普通は「タレントにはあるけど、YouTuberにはない」で振って、「コンプラ意識」とか「最低限のマナー」とかで展開するネタです。「やっぱりウザい」だと厳密には答えになってないんです。もうこのクイズのフォーマットを2ボケ目で壊してしまっている、だからこそ井口さんが本心で言っているように見えるんです。それまでの主人公たちには決して発生してなかったノイズが突き刺さります。正しい、正しい、が積み重ねられると心の奥底で湧き起こる破壊衝動。その人間の黒い部分がお笑いの流行のギアの一段動かしてしまったのです。たった9本の漫才の間に。
そして整った舞台でアイドル鳥越さん、じゃない井口さんは舞いました。そしてトリで3位を取り、そこから連続して2本目を行えたことでムードは続行、明らかに面白いさや香さんの2本目があの一瞬だけ過去にされてしまったのです。
時代をズラす小さなタイムマシンだった。僕はそう考えます。

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いかがでしたか。私の皆目見当通りの戯言は。本当にこんなことをずっと考えています。
なので今年のM-1には「主人公」のキャリーオーバーがやってくるのでは、とか思いながらネタを作って舞台に立っています。緩和した世界でリーダーシップを振るう感じ。主人公っていうか「キャプテン」ですね。キャプテンお笑い。
キャプテン渡辺さんの年かもしれません。
それでもメンバーによってはまた歪みが起きるかも、とか考え出すとキリがない。早くも今年のM1が楽しみになってまいりました。
この記事が全てのM-1審査員に届かないことを祈りながらルノアールを出ようと思います。

髙比良くるま


1994年09月03日生まれ。東京都練馬区出身。芸人。吉本興業所属コンビ・令和ロマンとして活動。東京NSC23期首席。神保町よしもと漫才劇場に所属している。

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写真・北原千恵美

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