マグラブ【第8回】ファースト…│野性爆弾 くっきー!

鬼才「くっきー!」による初の小説。思春期全開JKの、どこかおかしい、たぶんおかしい青春ラブストーリー。

【第8回】ファースト…

髪をかきあげる彼女の目はフル白目で、あからさまにゾンビってました。そんな事も気に留めず、愛おしさのあまりゾンビの首を噛む行為。

うっすらゾンビの気持ちがわかるなぁ。

彼女の首を噛みながら、肩を握る僕の腕は血管が脈々とほとばしり、ソレはまるで発情雌馬に興奮する発情雄馬のチ●ポコのようにギンギンで、黒目がシャーペンの芯で突いたくらい小さくなって狙いを定める。まるで肉食動物。

彼女の首はギシギシと音をたて、いまにも壊れそうなそのとき、彼女は大きめのゲップをしたのです。

ガボンッ

僕の鼻の穴に悪臭が入り込み自我を取り戻しました。

「ごめんね」

僕が言うと彼女は耳横の髪をかきあげ、

「ええで」

と言いました。

三枝でした。いまは文枝か。べかこは南光だったっけ。

なんて、お考えていると、彼女は僕の右腕を噛んだのです。甘噛みかなぁ、なんて余裕をこいていると、ゴリゴリの本噛み。痛いってもんじゃありません。熱いっす。

血がぷしゅぷしゅ出ちゃって、意識も薄くなってくんすよね。ソレでも腹が立っちゃって、薄れゆく意識のなかデンプシーロールしながら彼女の鼻頭にジャブを数発ねじ込んで右フックを入れる瞬間でしょうか?

倒れたんですよ。

目を覚ますともうろうとしたなか、彼女が僕の顔を覗き込んでいました。無意識にぼくは、彼女の顔を殴ろうとしたのですが、腕が上手く動きません。てか、拳が握れていません。なんだろう。ゆっくりと立ち上がり鏡のほうに向かい、自分の顔を覗いてみました。

最悪です。

ゾンビになっています。うわー、どうしよう。彼女を見ると、あからさまにゾンビです。

大丈夫? と聞こうとしたのですが上手く喋れず、アウアウというばかり。すると、コメカミあたりにキーンという音が脳内に喋りかけてくる、そんな感じがします。

彼女の声でした。テレパシーです。どうやら、ゾンビ間ではテレパシーで会話するようです。

※ココからの会話は全てテレパシーです

『あなたがいない間、ワタシは噛まれてゾンビったわ』
『そうか』
『ほっといてごめんよ』
『だから、僕を噛んでゾンビにしたの?』
『ダメ?』
『ダメ』
『小っさ。器がミクロね』
『殺すぞ』
『死んでるし』
『ソレ、マジ笑えねー』
『笑っとけぇー』

『ハハハハハー』
『ホホホホホー』

『もうゾンビだからどうでもいいや』
『一緒に外に出ないかい』
『いいわね』
『外に出ましょう』
『歩ける?』
『大丈夫』

『僕より早くゾンビってるぶん、慣れてるよね』
『あなたもすぐ慣れるわ』
『あっ、階段気をつけてね』
『うん』

『ねぇ……』
『なに?』
『いや、いいや……』
『えぇ、気になる』
『うんっ。じゃあ、キスしないか?』
『え? ずいぶんと急だね』
『だって、僕たちゾンビだろ? 正直いつ死ぬかわかんないじゃん。まぁ、死んでるんだけど。こうやって話せるうちに……テレパシーだけど、意識があるうちにさ』

『いいよ』
『え、ほんとにっ』
『その代わり……』
『なんだい?』
『優しいの、ちょうだいね』
『う、うんっ!』

僕は彼女の後頭部に手を回して、優しく引き寄せました。彼女はスッと目を閉じて、僕たちはキスをしました。僕の初めてのキス。お互いゾンビだけど、ソレでも嬉しいや。

そのとき、彼女は僕の肩に腕を回してきました。僕は強く優しく抱き寄せました。あれ、このままの流れでイケちゃうかな? そのままトイレに押し込んで見ました。

イケました。

ファーストキスからのファーストビーコウ。顔はトロけてるというか、ゾンビ化してちょっと溶けてるけど、皮膚が剥がれて中身が見えていたりするけど、酷いところは骨見えているけど。

ソレでも彼女はキレイでした。

(つづく)

くっきー!

1976年3月12日生まれ、滋賀県出身。 日本のお笑い芸人。 吉本興業所属コンビ・野性爆弾として活動。 ネタ作りからコントの小道具まで全て自身が手掛けている。

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(イラスト ア~ミ~)

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