マグラブ【第9回】それぞれの道(悲しいバラード)│野性爆弾 くっきー!

鬼才「くっきー!」による初の小説。思春期全開JKの、どこかおかしい、たぶんおかしい青春ラブストーリー。

【第9回】それぞれの道(悲しいバラード)

余韻と湿気が僕を包んでいる。なんだか陰の棒がヒリヒリしている。彼女も何も言わないけど、陰のヒダを掻いたり擦ったりしているから違和感があるんだろう。

僕は彼女を引き寄せ、頬にキスをした。

このキスは『愛してる』とか、『キミが大切だよ』とか、そんなんじゃなくて、『めっちゃくちゃ気持ちよかったですわ』のキス。

さて、やるコトは済んだから外の光でも浴びにいこうか。血や泥で汚れた手を握り、ゆっくり外に出た。

僕が人間でこの病院に着いてから、気を失ってから、なんとなく3時間ほどたったのかなぁ。外はガラリと違う世界になっていた。

煙を上げる車や建物。
倒れている人々。
ゆっくりうろつくゾンビたち。

テレパシーがどんどん入ってくる。助けて、苦しい、殺してくれ。耳を覆いたくなるけど、入ってくる。彼女も同じようで頭を抱えて座り込んでいる。

僕は彼女の肩をトントンとたたく。

『怖がらなくて大丈夫、僕たちはずっと二人で……』
『ちげーわっ! 股が痒いーんだよ』

『あぁ……』
『アンタ、病気もってた?』
『いや、ソレはないと思いますよ』
『じゃあ、なんで痒いーんだよっ』
『あぁ……。なんかすいません』

『あとお前、どこに出した?』
『いや……あの……』

『どこに出したんだよっ』
『……ナカですぅ』

『お前さぁ、●るってんなぁ……』
『いや……ゾンビなんで大丈夫かなと』

『大丈夫なわけねーだろぅ。細チンクソ野郎がよ!』
『えっ!? 細チン?』
『バカ、細ぇーわっ。ボールペンかと思ったわ』
『いやー、ソレは良くないなぁ。そう思っていても、口に出すのはねぇ、よくないと思いますよぉ』

『じゃあ、嘘ついて太かったねぇー、業務用の太サラミだねぇーって、言えばよかったんかよ!?』
『そこまで言ったら、ウソ丸出しじゃないですか』
『めめっちいなっ。細チンだからかっ!? あぁー、めめちいめめちい』
『なんだよっ、うるせーなぁっ! 細チン細チンってよっ! バカみてーなデカ乳輪のヤツに言われたくねーよっ!』

『え、最低……。ほんと最低……。私のデカ乳輪をイジるなんて……。隔世遺伝なんだからねっ! おばあちゃんから譲り受けた乳輪なんだからねっ! えーん、えーん!』

『ごめん……言いすぎた……』
『もういい。さようなら……』

彼女はヨタヨタと僕から離れていきました。なぜか僕は彼女を追いかけませんでした。よろけながら歩く彼女のうしろ姿をただ見ているだけで……。

 

私は彼から離れました。不安で不安でしょうがないけど、あんな男とは一緒にいられない。いっそのこと、こんな私なんてなくなってしまえばいいのに。

上手く動かない身体。美しくもなんともない見た目。しゃべることができないから、念力トーク……。なにコレ、泣いちゃう。ソレでも実際に涙は出ない。遠くへ、どっか遠くへ行こう。なにもない遠くへ。

日が暮れる頃、私は森の中にいました。

薄暗い空。風に押されて笑っているようにも聞こえる木々の音。人間の頃なら怖くてしょうがないって感じだろうけど、ゾンビってるせいか、平気。ソレが怖い……。

どこか寝られる所を探そうとヨタヨタ歩いていると、物置き小屋を発見。でも、カギがかかっている。考えた末、腐っていまにも落ちそうな指の肉を削いで、出てきた骨を削ってピッキング用のカギを作成した。

ガチャガチャすること2時間……。

カチャ。

開いた……。部屋のなかに入ると農作業の道具が丁寧に陳列しています。持ち主は几帳面なんだろうなぁ。とりあえず、今晩はココで寝るか。

立てかけられている藁をすくう。猪八戒の武器みたいなやつの先っちょを見て、私からいなくなった彼の陰の棒を思い出す。私は先っちょを握りながら深い眠りにつきました。いっそのこと、このまま消えてしまいたいと思いながら深く深く眠りました。

 

僕は彼女とは反対の方向に、あてもなく、ただただ歩いていきました。おぼつかない身体にストレスを感じながら、一歩一歩、ただただ進むだけ。歩くだけの時間。

街から徐々に離れていき、気がつけば海にいました。空はもう真っ暗で、波の音だけが聞こえる。たよる灯りはなく、目を凝らしても凝らしても漆黒だけ。砂浜を歩いていると大きな貝殻を蹴りました。ソレを拾って座りながら耳に当てました。都合よく歌なんて聞こえてこない。『コォーーー』という音だけが鳴り響く……。

ソレでも耳を当て続けたのは、嘘でも錯覚でもいいから、悲しいバラードをかけてほしかったんだ……。

(つづく)

くっきー!

1976年3月12日生まれ、滋賀県出身。 日本のお笑い芸人。 吉本興業所属コンビ・野性爆弾として活動。 ネタ作りからコントの小道具まで全て自身が手掛けている。

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(イラスト ア~ミ~)

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