鬼才「くっきー!」による初の小説。思春期全開JKの、どこかおかしい、たぶんおかしい青春ラブストーリー。
【第10回】セットアップ
僕は砂浜に横たわるように眠っていました。寝ている間もザッザッと音が聞こえるのは、他のゾンビたちが砂の上を歩いているから。
うっすら、ほかのゾンビたちのテレパシー会話が僕の耳に届いています。ゾンビのわりにキャッキャはしゃいでいるような会話でストレスを感じていると、希望ともとれる言葉が耳に入ってきました。
北に500キロほど行った街に、ゾンビを人間に戻せる医者がいる。
『2時間ほどの手術で治せるって』
『マジかっ』
『マジでマジか?』
『マかっ』
『行くっきゃないよねぇ』
『マル決よねぇ』
うわー。じいちゃんにトドメらなかったらえがっだなぁ。はぁ…。
過去のことぉ〜🎵
過ぎたことはしょーがねぇー🎵
だって🎵
過去のことぉ〜🎵
コード進行は、
A G C Cm A G C D
E A E A
A G C Cm A G C D
ってな感じです。
あっ、彼女を探さなきゃ。彼女を探して2人で人間に戻らなきゃ。そう思い立った瞬間、僕は走り出しました。
彼女が歩いていった方向へ。まぁ、走るといってもゾンビですんで、ヨタヨタの時速2キロって感じっすけど。できれば、爆風スランプの『Runner』あたりをかけていただきたいもんす。
すれ違うゾンビを避けながら、ゆっくりゆっくりダッシュ。疲れません。全然息があがりません。いくら遅いとはいえ、全速力なのに全然疲れません。ゾンビだからかなぁ。うぅーん、ゾンビも悪くないのかもなぁ。ノソノソダッシュをしていると、自転車が落ちていました。
カギはー? 開いてるっ! ラッキーっ。ちょっとお借りします。少しの間、自転車を漕いでいると、原付が倒れていました。もしやコレは?
カギついてらーっ! ラッキーっ。乗り物チェンジっす。マジカルっす! 原付にまたがりゴーゴーゴー。わぁー気持ちいいなぁー。コレなら速攻だなぁー。
ん? あれって。原付を急ブレーキで見に行くと、やったぁー、軽トラだっ。学生ですけど乗れるんすよねぇ。じいちゃんの軽トラよくお手伝いで運転してたんで。
カギはー? はいっ、ついてますっ。がっ! あれ? 軽トラの荷台になんぞ乗ってますぅ。
わぁっ、ナナハンですわっ。CB750FOURですわ。余裕でこっちっしょーっ!
いやっ待てよ、冷静にいこう。CB積んだまま軽トラで行ったほうが、絶対に後々いいよな。長旅になるからなぁ。
いやっ、でも彼女の前にさっそうと現れるなら、軽トラより単車のが絶対カッコいいし。いやいや、カッコつけてる場合じゃない。500キロもの長旅をバイクじゃちとしんどいし。でもカッコいいんだよなぁ。後々だれかに話すときにバイクで旅のがサマになるよなぁ。軽トラじゃ笑われちゃうなぁ。でも、絶対に軽トラのが便利だしなぁ……。
小一時間悩んだ結果、僕は両方とも捨てて自転車を漕いでいました。マジ謎っす……。とりあえず、なんでもいいから前に前に。
そういや着替えたいなぁ。どうせ街はぐちゃぐちゃだし。そうだ、デパートにいって色々と揃えちゃおう。ちょっと寄り道って感じで、僕は方向を少し変えてデパートにいきました。
到着すると、やっぱり雰囲気が違います。ってか、ゾンビがバンバンに死んでます。倒れて死んでいるゾンビを見にいくと頭に穴が開いてます。
人間だっ。人間がゾンビをハントしてるんだ。
するとデパートの入り口付近で、ヒャーッハァーっと聞こえてきました。ゆっくり近づいてみると、人間たちがゾンビの群れを狩っている。バタバタ倒れるゾンビたち。『やめてー、助けてー』とゾンビのテレパシー会話が……。
僕はその悲痛な声に怒りを覚えながら、デパートの裏口にこっそり回りました。裏は静かなもんです。ココから入り込んで……。
15分後。
僕はパリッとしたセットアップに着替えて、自転車を漕ぎ漕ぎ。
『さて、彼女を探すんだぁー』
(つづく)
くっきー!
(イラスト ア~ミ~)
連載一覧
- 第1回 腹へりマウスホーン
- 第2回 牡蠣とマーク・ボラン
- 第3回 こっち側の腹減りマウスホーン
- 第4回 出来立てクレイジー彼女
- 第5回 復讐の白衣ゾンビ
- 第6回 朝日はしみるなぁ
- 第7回 顔面熱油
- 第8回 ファースト…
- 第9回 それぞれの道(悲しいバラード)