鬼才「くっきー!」による初の小説。思春期全開JKの、どこかおかしい、たぶんおかしい青春ラブストーリー。
【第5回】復讐の白衣ゾンビ
病室からの帰り、ドがつくほどの快晴。
明日はキスでも決めちゃうか? なんて考えながら意気揚々と道を歩く。
歩くと言うより弾むと言った方がいいか。
いい事があるとうかれる、なんて言うけどまさにそれ。
気分がいいから、たい焼きでもじいちゃんに買って帰ろう。
2個、いや、2尾? 2菓子? なんでもいいや。
買って帰宅。じいちゃんの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
玄関を開けじいちゃんの部屋に直行。すると、想像を絶する光景が目の前に……。
じいちゃんは、血を吹き出し倒れていました。
片腕をもがれ、腹からは腸が出ている。
首には歯形……え、歯形?
何かに食われたのか? 野犬? 虎? 熊?
僕は理解ができないまま、たい焼きを握りつぶし、立ちすくんでいました。
すると、じいちゃんから微かに呻き声が……。
すぐに近寄って、じいちゃんに何があったのかたずねました。じいちゃんは微かな声で、「ヒト……ヒトが……」と呻いています。
とりあえず大量のタオルとロープで血を拭き取り、止血しました。これで助かるなんて思ってもないけど、やらないよりは絶対いいから。
救急車を呼んで、じいちゃんが終わらないように僕はずっと話しかけていました。じいちゃんとの楽しいこと辛かったこと、殴られて笑って、思い出をいっぱい。じいちゃんは苦しそうで、でも、なんだか笑っているようにも見えた。
覚悟を決めた時、救急車が到着。応急処置なんていいから、早く病院に連れてって欲しいけど、救急車に乗せられじいちゃんと一緒に街の病院へ。
信号機の色、街の看板や標識が全てボヤけていた……。
あと少しで病院に到着する。
その時、じいちゃんがおもむろに起き上がったのです。
よかった、よかったと、僕はじいちゃんを抱きしめました。
すると、じいちゃんは僕の肩を掴んできました。
でも、それはあの頃の優しいじいちゃんの握力なんかじゃなく、まるで万力のように肩がぶっ壊れるほどの怪力だった。
とっさに振り払うと、じいちゃんはじいちゃんではなくなっていました。目は全部黒目で、歯はなぜかサメのように尖っていて、身体についている血は真っ黒になっていて。
これは、じいちゃんじゃない。
そう思った瞬間、僕は救急車の後ろのドアを開け、外に飛び出していました。離れたところから救急車を見ていると、中から隊員さんたちの悲鳴が聞こえてきました。
僕は理解しました。
じいちゃんが襲っていると。
そして、じいちゃんはゾンビ? になったんだと。
血まみれの隊員さんたちが出てきて、次々と倒れていきました。じいちゃんが出てきて周りを見ています。
口には大量の血。野次馬が集まってきました。じいちゃんは野次馬たちを次々に襲っていきます。
悲鳴と血しぶき。恐怖の光景でした。すると、倒れていた隊員さんたちも起き上がって人を襲い出しました。
ホラー映画で見る光景がリアルに目の前で……。僕は逃げることもできず、ただただ呆然としているだけでした。
その時、頭の中になぜかじいちゃんの声が響いたのです。
『早く逃げろ、ワシは意思とは別に身体が動いてしまう。お前だけは逃げろ。そして、いつかワシを殺してくれ』
じいちゃんは口を大きく開け、僕に向かって歩いてきました。泣いていました。僕は悲しい感情を抑え、必死に走りました。家まで必死に。
家までの道中は何事もないように穏やかでした。買い物帰りのお母さんや自転車に乗っている子供、コロコロを押しているおばあさんや電話しているサラリーマン。
夢でも見ていたかのような不思議な感覚。家に帰ると、ドアと全ての窓に鍵をかけ毛布にくるまりました。
恐怖でガクガク震えていました。
何時間こうしていたのかもわからない。
すると、ドアをノックする音が……。
恐る恐る覗いてみると、警察官が2人立っていました。なんだか安心した僕は、ドアを開けようとすると悲鳴が聞こえました。
警察官が襲われていたんです。襲っているのは知らない白衣を着た男。僕はこいつがじいちゃんを襲った犯人だと思いました。
確証はないけど、白衣ゾンビはじいちゃんの腕を持っているから。
許せないけど、どうすることもできず、ただただ警察官が襲われているのをドアの隙間から見ていることしかできませんでした。
警察官は倒れて動かなくなりました。白衣ゾンビはその場を離れ、どこかに歩いていきました。
僕はドアを開けて警察官が持っている手錠と警棒、そして銃を手に取りました。それを使って、確実にこのあとゾンビ化するであろう警察官にとどめを刺しました。
僕は恐怖よりも怒りが勝り、白衣ゾンビを追いかけていました。大好きなじいちゃんをバケモンに変えた、白衣ゾンビに復讐をするために。そのあと、じいちゃんにトドメをさしてあげるために。
家の周りや軒下、庭など探し回ったけど、白衣ゾンビは見つかりませんでした。家に戻って、リュックにありったけの食料と武器になりうるものを大量に詰め、僕は白衣ゾンビを探す旅に出ることを決めました。
湯船にお湯をためて僕は風呂に入りました。これが最後の風呂かと思うと泣けてきました。風呂でじいちゃんの金玉を引っ張って怒られたコトを思い出して、少し笑いました。そして、また泣きました。
風呂から上がり、一番分厚い服を着て僕は家を出ました。
「待ってろ、白衣。待っててね、じいちゃん」
自転車にまたがり、僕は真っ暗な街へ走り出しました。その頃には彼女のことなんて頭になく、ただただ復讐をするためだけに僕は動いていたのです。
(つづく)
くっきー!
(イラスト ア~ミ~)
連載一覧
- 第1回 腹へりマウスホーン
- 第2回 牡蠣とマーク・ボラン
- 第3回 こっち側の腹減りマウスホーン
- 第4回 出来立てクレイジー彼女
- 第5回 復讐の白衣ゾンビ
- 第6回 朝日はしみるなぁ
- 第7回 顔面熱油
- 第8回 ファースト…
- 第9回 それぞれの道(悲しいバラード)