鬼才「くっきー!」による初の小説。思春期全開JKの、どこかおかしい、たぶんおかしい青春ラブストーリー。
【第2回】牡蠣とマーク・ボラン
静まりかえった病室と、決して伝わらない告白。
会ったばかりの知らない彼と、乙女な私の長すぎる沈黙の2時間。
彼によって繰り返されるデコのタオル交換と、揺れる心と揺れもしないカーテン。
気まずさと、それを覆うための意味なき無駄なマバタキの繰り返し。
いっその事、時間を早送ればこの違和感だらけの虚無から逃れられるだろうに。
今、私は生きた心地がしないほど屁が出そう。
屁の我慢のせいで下腹が限界パツパツで、あと5分もすれば意思とは関係なく、爆放されるだろう。
横ケツ2房を万力でグン挟みこいて、できれば穴を閉じてしまいたい。
屁しのぎからの腹痛は、クリカンのモノマネを思い出して笑いを堪え、やり過ごすという究極な無駄無駄タイム。
このデコタオルボーイはシャイなのか、それとも私のことはアウトオブガンチューなのか。
それすらもどうでもよくなって、その末、デコタオルは無言こきすぎてだんだん腹が立ってきて、もうぉーっ、帰ってほしくなってきたんですけどぉー!
確定事項発表ですっ!
デコタオルが帰ったら、鬼クソにぃ〜爆屁コクんだぁ〜。
ぜってーぜってーに気持ちいいんだかんね〜。
なんて考え始めて気がつけば、心の中で帰れコールの大合唱しちってるぅ。
「カッエーレー! カッエーレー! カッエーレー! カッエーレー!」
あぁーっ、マジむかついてきたんですけど〜。
今、カチカチに凍ったGパンがあったらデコタオルの後頭部ぶっ叩きたいんですけど〜。
てか、スソが巻き付いて顔面にもダメージ必至じゃんっ!
『キャウキャウキャウキャウ!!』
はぅ! つい笑い声を出してしまったお!
ママにアンタの笑い声はデビルってるから、人前で笑うなっていつも言われてんのに!
やってしまった感、丸出しじゃん。
引いてるかな? 絶対引いてるよねっ!
てかせめて、笑っててくり〜(泣)。
チラっと覗くと
デコタオは無表情でした
『じょーぼべっ!(しょーもねっ!)』
声、出ちゃってんですけどっ!
その瞬間、感性が理性を食い潰したんだわちょ。
気がついたら、私ぃ〜デコタオの目を見ながら、
『あっえーえ!(帰れー!)あっえーえ!(帰れー!)』
と、声を出して拳を突き上げてたんですけどぉ−。
それでもぉ、デコタオは何も言わずに叫び狂う私の目を見ているだけだったんだぁ。
もうダミだぁー! コイツ感情無太郎だぁ〜。
もう自我を大解放だお!
イッちゃう、イッちゃうおーっ。
せーのっ!
「ぶばぶぅーっっっ」
……屁をこきました。
いくらなんでも初対面の看病をしてくれている同世代くらいの男の子の前で……。
一瞬でも好きになり、伝わりはしないが告白までした男の子の前で……。
年頃の乙女が年頃の異性の前で……。
屁をこきました……。
『キャウキャウキャウキャウ!!』
関係ぇ〜ねぇーっ!
私の爆屁は病室のカーテンを揺らし、デビルが如き笑い声はテーブルに置かれたコップの水に波紋をあたえました。
『終わったー!』
わっ! ハッキリ発音が出来てらぁ〜。
『マグラブぅぅぅー、終了ぉぉぉ―っ』
口内の治癒力最強じゃんっ! ツバ薬究極説、立証ぉー完了ぉぉぉー!
『キャウキャウキャウキャウ!!』
「ばぶぅーっっっ(屁)」
『キャウキャウキャウキャウ!!』
「ぶばぶぅーっっっ(屁)」
『キャウキャウキャウキャウーッッッ!!』
どうにでもなれ〜。
『ハレルゥ〜ヤッ』
「ぶぷぷぅーっっっ(屁)」
『キャウキャウキャウキャウーッッッ!!』
屁とデビルが如き笑い声の渦の中、時空は歪んでいるように感じました。
漆黒の渦が蛍光灯の灯りを飲み込みはじめたその時、全てを止めんが如くリセットするような音が鳴り響いたのです。
それは「ゴホッ」という大きな咳払いでした。
何度も出されるその咳払いはカーテンに囲われた向かいのベットからでした。
その咳払いが鼓膜をふるわせて、私はゆっくり理性を取り戻し始めました。
咳払いを何度か聞いたあと、我にかえった私は何故かデコタオルに軽く会釈をしていました。
デコタオルも会釈を返してくれて……。
それからぁ軽く話したんだぁ。
彼の名前、年齢や学校。
家族構成や彼女はいるのか……とかさぁ。
もちろん私のことも話したよっ。
誕生日や血液型ぁ。
それと……私に彼氏はいないって事も……。
そんで……彼氏にぃ……。
彼氏になって欲しいってっ!
私っ言っちゃったんだ!
結果は……内緒♡
ただ一つ言えるのは……。
やだぁーっ! いわせないでっ!
ではでは、話の続きだよっ。
男の咳はどんどん激しくなってってぇー。
ゴホっコフっゴホっコフっゴホっコフっゴホっコフって、何だか一定のリズムんなってんのぉ〜。
それはまるでエイトビートみたいな感じぃ〜?
なおかつ、ゴホとコフの隙間を埋めるように吐き出される呼吸音はなんかメロディこいてて、目を閉じて耳を研ぎ澄ますと、それはまるでT-REXのMETAL GURUなんだぁー。
AhAhAhAh〜yeh〜♫ みたいな感じ〜?
そりゃぁ〜拝みたくなるよね〜。
グラムってる咳男の顔面っ、拝みたくなるよね〜。
ゴメンけど、NEW彼氏をガン無視こいて(きゃっ!彼氏って言っちった!)、閉じられたカーテンの隙間から咳男を覗き込むと、クリクリのロン毛で色白の鼻筋スンスン外国人。
えっ? マークボランじゃん。
マークボランそっくりじゃん。
てかもう、マークボランじゃん。
度肝抜かれているとコブダイナースがおかえりガラガラ再登場。
具合はどう? なんて言葉はスルーこいてぇ。
コブダイナースに男のことを、キャナイ! キャナイ! 聞くっキャナイ! じゃない?
ロッキンチェアにゆられながら、コブダイはゆっくりと話し始めました……。
それは夕陽に照らされたオレンジ色にキラキラ輝く、穏やかな波のように……ゆっくりと……。ゆっくりとねぇ……。
彼は仕事の疲れを癒すために、この街を訪れたそうで大好きな日本の海を見ながら砂浜を散歩中に、男子2人と女子3人の知らない中学生5人組に絡まれ、しっかりおやじ狩りにあったそうです。
彼曰く、女子3人まで倒したのは覚えているが、そこから記憶にはないそうで。
気がついたらブルーシートの上に寝かされていて、どうやら近所を通りかかった海女さん3人が看病してくれていたそうです。
目を覚ました彼に海女さんたちは採れたての新鮮な牡蠣をご馳走。
しかし、彼は生ものが苦手でした。特に貝類が。
ですが、屈託ない海女の笑顔とご厚意に断りきれずに、生の牡蠣をそのまま食べたそうです。
結果はもちろん食中毒。
で、この病院に運ばれて来たんですと。
食中毒をくらっても律儀な彼は、コブダイナースに片言の日本語で、
『サイン書くました。僕のアルバムを海女に渡してください。』
とCDを預けたそうです。
そのCDを見せてもらうとthank you AMAとサインが書かれており、それはT-REXのアルバムthe sliderでした。
マークボランじゃん。
ガチモンのマジモンのマークボランじゃん。
私は興奮気味にカーテンの隙間から覗き込むと、マークボランとしっかり目が合いました。
マークボランはどう考えても「こっち見るな」って顔で私にガンくれてやがりました。
私はマークボランと目を合わせたまま床に唾を吐きました。
マークボランも唾を吐きました。
私はベッドから立ち上がり、マークボランの枕元に立ち耳元に小さい声で、『KILL YOU』と言いました。
マークボランは目をひん剥き静止。
その後、大声で笑いだしたのです。
それにつられてコブダイとNEW彼も笑っちゃって。
久々にあんな大声で笑ったんですけどぉー!
ちなみにNEW彼の笑顔っ、超素敵なんだよー♡
コブダイはぶっ倒れるくらい歯茎出てっけどぉー。
んで、気がついたらみんなで肩組んで写メ撮っちゃって。
でもねっ!
最悪なんだよーっ!
写メ見たらわたしっ! 全部目つぶってんのぉ〜。
もれなくだよっ! 68枚も撮って、もれなくだよーっ!
まっ! しょーが無いけどねっ!
そんでぇ〜、次の日にさぁ。
マークボランは退院したんだぁー。
名残惜しそうに、みんなとじっくりハグしちゃってさ。
いつか日本でGIGするときは招待するって。
ほんとなんだか(笑)。
私は結果が出るまでもうちょっと入院があるんだぁ。
退屈すぎなんだけどぉー実は大丈Vだわよっ!
だって、おNEWの彼氏ができたんだから。
無骨で感情をあんま出さない彼だけど、毎日毎日お見舞いにきてくれんだよぉ−♡
そうだっ。
こっそり2人の入院ルーティーン教えてあげるっ。
彼は病室に着くなり何も言わずに頭を3回撫でてくれてぇ。
大好きなファンタグレープのキャップを開けてくれるんだ。
そっから横に座って2人でイヤホンを半分こ。
曲はもちろんT-REX。
T-REXを聴いている時だけ彼は笑うんだよぉ。
あっ! もう一個、笑う事あったんだっ!
それはね「屁」ね。
私の屁♡
彼女の屁で笑うなんてほんとどんな感覚してんだかっ。
あっ! そろそろ彼が来る頃でねーのっ!
あそこのドアがガラガラ開いてぇー。
来るよぉ〜、来るよぉ〜……。
んーまだかなぁー、いつもなら来てんのにぃ。
んー今日は遅いなぁー……。
ん〜なんかあったのかなぁ……。
その後、何度かドアは開けられましたが、それは全てコブダイによるものでNEW彼が開けることはありませんでした。
退院するまで一度も……。
(つづく)
くっきー!
(イラスト ア~ミ~)
連載一覧
- 第1回 腹へりマウスホーン
- 第2回 牡蠣とマーク・ボラン
- 第3回 こっち側の腹減りマウスホーン
- 第4回 出来立てクレイジー彼女
- 第5回 復讐の白衣ゾンビ
- 第6回 朝日はしみるなぁ
- 第7回 顔面熱油
- 第8回 ファースト…
- 第9回 それぞれの道(悲しいバラード)