• お知らせ
  • 特集
  • 連載
    • 事故物件の日本史
    • モヤモヤしながら生きてきた
    • 令和ロマン髙比良くるまの漫才過剰考察
    • マグラブ
    • あなたを全力で肯定する言葉
    • 本屋さんの話をしよう
    • 家にいるのに“やっぱり”家に帰りたい
    • 法獣医学の世界
    • 保護犬たちの物語
  • Twitter
  • 運営会社
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー

コレカラ

  1. TOP >
  2. 連載 >
  3. 保護犬たちの物語 >

「歯茎とペロ」の応酬で烈しくじゃれ合う元野犬の寺犬たちが「仏性」を開くまで|こてつとなむ

2023年5月10日

血統書がなくても、ブランド犬種ではなくても、こんなにも魅力的で、愛あふれる犬たちがいます。
み~んな、花まる。佐竹茉莉子さんが出会った、犬と人の物語。

保護犬たちの物語【第9話】がくこさんちの「こてつ」と「なむ」

半分食べられているシュールな光景(由華さん提供)

茶色い犬が、同じく茶色い犬の顔半分をぱっくり飲み込んでいる。
食べられている若い方の犬は観念しているのか喜んでいるのか、その表情は見えない。
写真には、「ほぼ食べられてます」のコメントがついている。

転げる2匹(由華さん提供)

またあるときは、若い犬が年長犬の耳を舐め続けて、ギブアップさせている。
写真についているコメントは「イヤーーッ」。

ペロと歯茎(由華さん提供)

若い犬の技は「ペロ」、年長犬の技は「歯茎」である。
こんな2匹の連日の烈しいせめぎ合いがツイッターで発信され始めると、そのあまりのインパクトに、たちまちフォロワー数はうなぎのぼりとなった。
発信者は「がくこ」。かじっている犬は当時11歳の「こてつ」、かじられているのは4歳の「なむ」である。
まるでヤクザの抗争のような形相や「こてつとなむ」という名前からオス犬同士と思われがちだが、2匹共にレデイーである。

なむ「皆様お元気でしょうか?私は食べられています」(由華さん提供)

「最初は、『大丈夫ですか』といったコメントも多かったですが、これが2匹の毎日のじゃれ合い風景と分かると、『可愛いですね』という声が増えて、私が付けるコメント以上におもしろいコメントを皆さんがつけてくださる大喜利状態になりました」と、がくこさんこと由華さんは笑う。
由華さんは、岡山県玉野市の山麓にある、創設500年の禅宗寺の三女として生まれた。当時の山麓には野犬が棲みついていた。猫たちも境内に自由出入りする寺で、由華さんが小学校2年生の時には犬がやってきた。その犬「ゴロー」は、あたりをうろつく野犬の雌犬「エルメス」に恋心をいだいているらしく、自分のごはんを残して彼女に食べさせてやっていた。
エルメスはとても用心深く捕獲できない犬だったが、イノシシ用のくくり罠にかかって使える足が3本となった。その体で出産し、気丈に子育てした。育たなかったり、保健所に捕まったり、保護されてどこかの家犬になったりと、子どもたちの運命はさまざまだった。
運よくもらわれた子犬の1匹が「こてつ」である。高校2年だった由華さんのおうちの寺犬になったのだ。

こてつの子犬時代(由華さん提供)

凛々しい顔立ちから、オスと思い込まれて「こてつ」という名になったが、メスと判明後も名はそのままとなった。
ゴローはこてつを受け入れた。こてつは、時折訪ねてくる母親のために、ごはんを残していた。
ゴローのエルメスへの恋はプラトニックで、こてつはゴローの子ではなかったが、3匹揃っている図は、仲の良い家族のようにも見えた。
だが、ゴローはこてつの遊び相手としてはオトナすぎたようだ。こてつは猫のぬいぐるみを、散歩にも咥えて連れ歩くほどかわいがっていた。ある日、由華さんがぬいぐるみを点検してみると、とても大事にしたようでどこも破れてはおらず、耳の中は舐めてやった痕があった。
エルメスは、その後、野犬の抗争に巻き込まれ、命を落とした。住職は敷地内に彼女のお墓を作ってやった。その後亡くなったゴローは、エルメスの隣に眠る。
遊び相手がなくさびしそうなこてつのためにもう1匹と思っていた住職一家は、ゴローが亡くなる前年に、獣医師経由で保護された野犬の子を迎える。それが、「なむ」だ。こてつ7歳のときだった。

やって来たばかりのなむ。最初は穏やかだった2匹だが……(由華さん提供)

なむのしつこさに、次第にこてつの表情が……(由華さん提供)

遊び盛りのなむは、最初からグイグイこてつに迫り、ペロペロ舐める。こてつは、まんざらでもない風だが、あまりにしつこいと歯茎をむき出す。
なむは大きくなっても変わらず「遊んで」と飛びかかり、ペロペロを繰り出す。こてつは本気で対応しないと負けるので、白目をむき、顔は歪み、じゃれ合いはどんどん劇画チックになっていった。
いつしかそれが、毎日の2匹の「じゃれ合い真剣勝負」の風景となり、元気の証となった。
「最初のうちは、ええっと思ってましたよ。でも、血が出たこともないし、咬まれても咬まれても、なむは大喜びで舐めにいく。咬むのは、ちゃんと手加減を心得た動物本来の愛情表現とわかりました」と、由華さん。

もちろん愛情表現です(由華さん提供)

そうです、愛情表現です(由華さん提供)

住職がお寺のホームページで綴っていた犬たちの日常報告にならって、自分もツイッターをはじめたところ、大いにバズったのだった。
「はじめは『がくこ』というヤバい犬たちがいる、と思われていたみたい。芸をするわけでもない、ふつうの雑種犬がただ咬み合ってるだけなのに、これほど注目を浴びたとは」と、これには由華さんもびっくり。
とはいえ、写真に添えた言葉にも、ご住職譲りの達観したユーモアがあふれ、見るものを元気にしてくれたのは間違いない。

こてつの頭をポンと叩くなむ(由華さん提供)

この写真に由華さんが付けたコメントはこうだ。
「仲良くない人から頭ポンポンされたときの女子」

「これぞ犬!」といった、犬の本質丸出しのじゃれ合いが編集者の目にとまり、2019年には、「がくこ」というハンドルネームをタイトルにした前代未聞の歯茎とペロの写真集が出版された。

前代未聞の「魔除け札」つきの特典版も販売された

あとがきに、由華さんはこう書いた。
「気がついたら、歯茎やペロの写真ばかり撮っていました。犬の寝ている姿も、ごはんを食べる姿も、トイレをする姿もみんな可愛いですよね。歯茎とペロも同様にすごく可愛い」

さて、本の出版から5年。こてつは15歳、なむは8歳半となった。じゃれ合う年齢はいつしか過ぎた。こてつには体調の崩れた時期もあったが、今は、2匹で朝夕の散歩を欠かさない日々を送る。
「先日、久しぶりにこてつの歯茎を見たときは、うれしかったですね」

暖かい日、寺の門前で(右がこてつ)

写真集の中の1ページ。歯茎をむき出し、顔を歪めるこてつの写真に、由華さんはこんな言葉を添えている。
「狗子仏性(くすぶっしょう)」「否!!」と。
禅問答で、「犬たちに仏性(仏の心)はあるのだろうか」「いや、ない」という意味である。
だが、若い頃は竹藪から出てきたマムシを襲ったり、ミミズを食べたりの殺生をしてきたこてつが、今はスズメに餌を取られても仏の顔つきで見逃すのを見ると、こう思わずにいられない。
「犬にも、仏性があるのかもしれない」

由華さんと散歩に出かける2匹(左がこてつ)

そして、縁あって寺の子にしたからには、この先老いても病んでも、最後の日まで穏やかな日々を送らせてやりたいと心から願っている。自身の子育てをする日々、犬たちが見せてくれたさまざまな愛の原型は、心に刻み込まれている。

佐竹茉莉子

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。おもに町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。保護猫の取材を通して出会った保護犬たちも多い。著書に『猫は奇跡』『猫との約束』『寄りそう猫』『里山の子、さっちゃん』(すべて辰巳出版)など。朝日新聞WEBサイトsippo「猫のいる風景」、フェリシモ猫部「道ばた猫日記」の連載のほか、猫専門誌『猫びより』(辰巳出版)などで執筆多数。

Instagram

連載一覧

  • 第1話 殺処分寸前で救い出された生後3ヶ月の子犬…今はまるで「大きな猫」|ハチ(9歳)
  • 第2話 トイレはすぐに覚えて無駄吠えや争いもなし。「野犬の子たち」が愛情を注がれて巣立っていくまで|野犬5きょうだい
  • 第3話 トラばさみの罠にかかって前脚先を切断 今は飼い主さんの愛に満たされ義足で大地を駆ける!|富士子
  • 第4話 子犬や子猫たちに愛情をふり注ぎ、いつもうれしそうに笑っていた犬の穏やかな老境|ハッピー(19歳)
  • 第5話 野犬の巣穴から保護されるも脳障がいで歩行困難 でもいつでも両脇にパパとママの笑顔があるから、しあわせいっぱい!|みるちゃん(今日で1歳)
  • 第6話 自宅全焼でヤケド後も外にぽつんと繋がれっぱなしだった犬 新しい家族と出会い笑顔でお散歩の日々|くま(8歳)
  • 第7話 飼い主を亡くし保健所で2年を過ごしたホワイトシェパード 殺処分寸前に引き出され自由な山奥暮らし|才蔵(8歳)
  • 第8話 「置いていったら、死ぬ子です」福島第一原発警戒区域でボランティアの車に必死ですがった犬|ふく(19歳7ヶ月で大往生)
  • 第9話 「歯茎とペロ」の応酬で烈しくじゃれ合う元野犬の寺犬たちが「仏性」を開くまで|こてつとなむ
  • 第10話 生後間もなく段ボール箱で道の駅に捨てられていた兄弟 仲良く年をとってカフェの「箱入り息子」として愛される日々|まる・ひろ(13歳)
  • 第11話 人間が怖くてたまらない「噛み犬」だったセンター収容の野犬の子 譲渡先で猫にも大歓迎され一歩一歩「怖いこと」を克服 |小春(8か月)
  • 第12話 愛犬を亡くして息子たちは部屋にこもった 家の中を再び明るくしてくれたのは、前の犬と誕生日が同じ全盲の子|ゆめ(もうすぐ2歳)
  • 第13話 「怖くてたまらなかったけど、人間ってやさしいのかな」 山中で保護された野犬の子、会社看板犬として楽しく修業中|ゆめ(3歳)
  • 第14話 戸外に繋がれたまま放棄された老ピットブル 面倒を見続けた近所の母娘のもとに引き取られ、「可愛い」「大好き」の言葉を浴びて甘える日々|ラッキー(推定14歳)
  • 第15話 土手の捨て犬は自分で幸せのシッポをつかんだ「散歩とお母さんの笑顔とおやつ」…これさえあればボクはご機嫌|龍(ロン・12歳)
  • 第16話 動物愛護センターから引き出され、早朝のラジオ体操でみんなを癒やす地域のアイドルに|カンナ(10歳)
  • 第17話「もう山に返したい」とまで飼い主を悩ませたやらかし放題の犬 弟もできて家族の笑顔の真ん中に|ジャック(3歳)
  • 第18話 飼い主は戻ってこなかった…湖岸に遺棄され「拾得物」扱いになった犬が笑顔を取り戻すまで|福(推定2歳)
  • 第19話 飼い主を亡くした認知症の犬が里山暮らしの犬猫たちの仲間入り「いっしょにゆっくり歳をとろうね」|あい(推定16歳)
  • Post
  • Share
  • LINE

-保護犬たちの物語, 連載
-保護犬, 保護犬たちの物語, 犬, 犬との暮らし

author

関連記事

事故物件の日本史【第13回】「凶宅」の被害を受ける者、受けない者の違いとは|大塚ひかり

第十三章 凶宅はなぜできるのか? 人を蝕むモンスター物件とは 引っ越す時、家を買う時、前にどんな人が住んでいたのか、なぜその家を手放すことにしたのか、気になることはないだろうか。 結婚や転勤といった理由であれば安心だが、家族に立て続けに不幸があった等の理由だと、そこに不吉なものを感じて、「縁起でもない」という気持ちになったりする。 まして近隣トラブルがあったことが分かった場合には、自分も同じような目にあう可能性もあるし、殺傷事件などがあった日には、犯人が現場に戻って来る可能性もあることを思えば(松原タニシ ...

普段着としての名著【第4回】ハイカルチャーインテリとディスタンクシオン|室越龍之介

【第4回】ハイカルチャーインテリとディスタンクシオン メガシティ・TOKYO 生存の必要から僕が東京に越してきて半年が経とうとしている。 人口が47万人しかいない大分県大分市から、4434万人の首都圏に移動してきたわけだ。 実に約100倍の人間が往来を闊歩し、家々がしめている。 「東京には慣れましたか?」と親切に聞いてくれる人もあるのだが、慣れるわけがない。 幸い、旧知の友人、新知の知人が何くれとなく様々なものに誘ってくれる。 誘われてみると確かに九州の片田舎では思いもよらないような人々や場所がある。 あ ...

野犬の巣穴から保護されるも脳障がいで歩行困難 でもいつでも両脇にパパとママの笑顔があるから、しあわせいっぱい!|みるちゃん(今日で1歳)

保護犬たちの物語【第5話】みるくてぃ(1歳) 土曜日のとある公園。春はまだ浅いけれど、ベビーカーを押している笑顔の絶えない若いふたりには、午後の光がやわらかくふり注いでる。 ベビーカーの中からは、こげ茶とうす茶のツートンカラーの犬がちょこんと顔をのぞかせていて、二重まぶたのように見える愛らしい目で空を見上げたり、すれ違う人を見つめたりしている。 彼女の名前は、「みるくてぃ」。まだ成犬になりきっていない大きさである。 みるくてぃは、想一朗さん・まみさん夫妻の、自慢の「娘」だ。パパが休みの日は、こうしていろん ...

モヤモヤしながら生きてきた【第13回】取材の極意は「性的アピール」?!|出田阿生

【第13回】取材の極意は「性的アピール」?! 「取材中の性暴力だ」国に下された賠償命令 人身事故で電車が遅延……そんな車内放送が流れるたびに、ハッとする。 「五月病」という言葉通り、新しい環境に慣れるためのストレスで心身に不調を来す人が多い季節。春に人事異動があり、新たな業務を必死に習得中のわたしもその一人だ。 低空飛行を続けている中、うれしいニュースがあった。 埼玉県の前知事・上田清司参院議員の公設秘書から性暴力を受けた女性記者の裁判で、4月下旬に東京地裁が勝訴判決を出したのだ。 「取材中に行われた性暴 ...

大人気女優も推し!日本一有名なハシビロコウ「ふたば」の魅力に迫る!――写真集『ハシビロコウのふたば』

スクワットは意味がなかった……!? 1日10分から始められる、お尻に効果的なエクササイズをお教えします『お尻年齢リセット術』

https://korekara.news/wp-content/uploads/2024/07/hoboneko.mp4

連載一覧

関連サイト

    • 運営会社
    • 利用規約
    • プライバシーポリシー
    当サイトに掲載されている記事、写真、映像等あらゆる素材の著作権法上の権利は著者および辰巳出版が保有し、管理しています。これらの素材をいかなる方法においても無断で複写・転載することは禁じられております。

    コレカラ

    © 2024 TATSUMI PUBLISHING CO.,LTD.