• お知らせ
  • 特集
  • 連載
    • 事故物件の日本史
    • モヤモヤしながら生きてきた
    • 令和ロマン髙比良くるまの漫才過剰考察
    • マグラブ
    • あなたを全力で肯定する言葉
    • 本屋さんの話をしよう
    • 家にいるのに“やっぱり”家に帰りたい
    • 法獣医学の世界
    • 保護犬たちの物語
  • Twitter
  • 運営会社
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー

コレカラ

  1. TOP >
  2. 連載 >
  3. 保護犬たちの物語 >

野犬の巣穴から保護されるも脳障がいで歩行困難 でもいつでも両脇にパパとママの笑顔があるから、しあわせいっぱい!|みるちゃん(今日で1歳)

2023年2月14日

血統書がなくても、ブランド犬種ではなくても、こんなにも魅力的で、愛あふれる犬たちがいます。
み~んな、花まる。佐竹茉莉子さんが出会った、犬と人の物語。

保護犬たちの物語【第5話】みるくてぃ(1歳)

土曜日のとある公園。春はまだ浅いけれど、ベビーカーを押している笑顔の絶えない若いふたりには、午後の光がやわらかくふり注いでる。
ベビーカーの中からは、こげ茶とうす茶のツートンカラーの犬がちょこんと顔をのぞかせていて、二重まぶたのように見える愛らしい目で空を見上げたり、すれ違う人を見つめたりしている。
彼女の名前は、「みるくてぃ」。まだ成犬になりきっていない大きさである。

みるくてぃは、想一朗さん・まみさん夫妻の、自慢の「娘」だ。パパが休みの日は、こうしていろんな公園に連れてきてもらう。今日は、電車に乗ってこの公園にやってきた。
芝生の広場まで来ると、パパが車イスをみるくてぃちゃんの体にセットしてくれた。みるちゃんは、おおはしゃぎ。うれしいと、尻尾がブンブン揺れる。うれしすぎると、脚はバタバタ、お口がワニみたいにぱっくり開いてしまう。
どんなみるちゃんもキュートで、「かわいい~~!」をパパとママは連発している。

うれしくて、口をあんぐり、つられてパパも

他の公園で、通りかかった子どもたちが取り囲み、「この子、歩けないの?」と聞いてきたことがあった。
「生まれたときから歩けなかったの。でも、今、一生懸命歩く練習をしているから、応援してあげてね」
ニコニコ笑顔でまみさんがそう言うと、子どもたちは「がんばれ!」と言って、ガッツポーズをとってくれた。

空の下は、気持ちいい

想一朗さんとまみさんは、1年ちょっと前に結婚したばかり。ふたりとも九州出身で、写真のサークルで知り合い、5年の付き合いだ。「誰よりも私のことをわかってくれる人」とまみさんは言う。何を大切にして生きるか、価値観も同じだ。
「保護犬を迎えたい」という、まみさんの結婚前からのずっとの夢もふたりで共有し、都内で開かれていた譲渡会に出かけた。
会場入り口に、一匹、ケージではなくクレートに入っている子犬がいるのが見えた。
2~3組の家族が「わあ、かわいい」と言ってのぞき込んでいるふうだったが、スタッフが「この子は障がいがあって……」と説明し始めると、みなスーッとその場を離れていった。
想一朗さんとまみさんは、みなが離れていった子犬のもとへ歩み寄る。
「かわいい!!」
まみさんは、初めての譲渡会で、最初に見たその子に一目ぼれしてしまった。
ミルクティ―のような柔らかな色。ちょっとはにかんだような二重まぶた。
もうこの子以外に考えられなかった。想一朗さんも異存なし。一生大事にする覚悟で迎えるのはもちろんで、障がいのあることはまるで気にならなかったという。
迎えた後、まみさんのお姉さんは「保護犬を迎えてくれてうれしい」と、泣いて喜んでくれた。

迎えた日のみるくてぃ(まみさん撮影)

子犬は、野犬の巣穴から保護された5きょうだいの1匹だった。そのうち3匹が、首が定まらず歩けないという同じ障がいを持っていた。生まれつき小脳の働きがうまくいっていないためらしかった。
保護後の名前だった「ミルクティー」の名はそのままに、「みるくてぃ」とひらがなにした。愛称は「みるちゃん」だ。
みるちゃんは、自力では立てないし歩けないので、寝転がっての暮らしである。室内では赤ちゃん用のオムツを当てている。ウンチをしたときは「ワン!」と短く吠えて教えてくれる。一日数回車イスに乗って、ご飯を食べたり、歩く練習をしたりする。車イスが心地いいのか、ときどきスースー寝てしまう。
そんなみるちゃんの成長を共に見守ってもらえればと、迎えて数日たったころSNS発信を始めると、「みるちゃんかわいい!」「みるちゃん、歩く練習、がんばれ」と応援してくれる人が増えていった。

家族で初めてお出かけした日(想一朗さん撮影)

みるちゃんが幼い頃、犬用車イスのあることは知っていたが、成長期にまたたく間にサイズが合わなくなるので、注文できずにいた。すると、面識もないフォロワーのかたが「うちで使っていた車イスをみるちゃんに使ってください」と申し出てくれた。どんなにうれしかったことか。
子犬時代にその車イスをお借りして、みるちゃんの行動範囲はずいぶんと広がった。大きくなった今は、自分の車イスを持っている。

あご乗せ用のクッションはパンダ柄

公園に行くと、いろんな犬種の飼い主さんと会話を交わし合う。犬が寄ってきて、会話が始まることが多い。みるちゃんはちょっぴりはにかみ屋さんだが、どんどん友だちが増えていく。今日も、フレンチブルくんやパピヨンちゃんや柴犬くんやサルーキちゃんたち、いろんな子が仲良くしてくれた。

お友だちに目線でラブコール

「なんてかわいい目!」「かわいい子ねえ。すてきな色。ヨーロッパの女の子みたい」「歩く練習、がんばってるんだね」と、みるちゃんは大人気だ。
九州から上京、想一朗さんの就職によって知らない街で暮らし始めたふたりだが、みるちゃんのおかげで、たくさんの人と毎日笑顔で交流できている。ご近所のゴールデンレトリバーちゃんは、自分の毛布やおもちゃをくわえてきてくれるほど、みるちゃんを気にかけてくれている。
みるちゃんは、行く先々で笑顔の綿毛を飛ばし、あちこちでタンポポを咲かせているようだ。

初対面で、お互い興味しんしん

獣医さんからは「たぶん一生歩けない」と言われている。でも、車イスを使い、パパとママに向かってうれしそうに歩いてこようとするみるちゃんを見る限り、「一歩でも自分の脚で歩けるようになるかもしれない」夢を応援し続けたい。
「みるちゃんを迎えた当初は、前向きにがんばっているみるちゃんのことを、私たちが支えていこうと思っていたんです。でも、気づいたら、私たちがみるちゃんのかわいい笑顔に支えられていました。みるちゃんと過ごす一日一日が楽しいです」と、ふたりは言う。
買い物やご飯の支度、トイレタイムなど、短い時間でも離れた後に戻っていくと、体じゅうで喜びを表すみるちゃんが、いとしくてたまらない。寒いときはふたりの間の布団にもぐって腕枕で、暑いときはふたりのどちらかの枕を横取りして気持ちよさそうに寝るみるちゃんが、いとしくてたまらない。

「かわいくてたまりません!!」

公園を通りかかった人が、みるちゃんを撫でながら言った。
「しあわせねえ」
まみさんは、勇んで「はい!」と答える。
その人は、みるちゃんに向かって言葉を続ける。
「こんなやさしいお父さんとお母さんにかわいがってもらって」
まみさんは、あわてて答える。
「いえ、しあわせなのは、私たちなんです。この子もしあわせと思っていてくれてたらうれしいですけれど」
みるちゃんのきょうだいたちも、それぞれの家族とともにしあわせに暮らしている。都合のつく家族同士では何度か会っているが、5家族揃ってはまだなので、近々の実現が楽しみだ。

大好きなママの腕の中

2月14日は、生年月日不明のみるちゃんの誕生日とした日だ。
ふたりで、みるちゃんの前でこんな歌をうたってあげる。保護してくれた人、譲渡までを預かってくれた人、見守ってくれているたくさんの人への感謝を込めて。
「たんたんたんたん誕生日 きょうはみるちゃんの誕生日
生まれてくれて本当にありがとう きょうはみるちゃんの誕生日」
みるちゃんは、尻尾をブンブン振り、うれしさのあまり口をあんぐりするだろう。

みるちゃんのInstagramはコチラ

佐竹茉莉子

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。おもに町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。保護猫の取材を通して出会った保護犬たちも多い。著書に『猫は奇跡』『猫との約束』『寄りそう猫』『里山の子、さっちゃん』(すべて辰巳出版)など。朝日新聞WEBサイトsippo「猫のいる風景」、フェリシモ猫部「道ばた猫日記」の連載のほか、猫専門誌『猫びより』(辰巳出版)などで執筆多数。

Instagram

連載一覧

  • 第1話 殺処分寸前で救い出された生後3ヶ月の子犬…今はまるで「大きな猫」|ハチ(9歳)
  • 第2話 トイレはすぐに覚えて無駄吠えや争いもなし。「野犬の子たち」が愛情を注がれて巣立っていくまで|野犬5きょうだい
  • 第3話 トラばさみの罠にかかって前脚先を切断 今は飼い主さんの愛に満たされ義足で大地を駆ける!|富士子
  • 第4話 子犬や子猫たちに愛情をふり注ぎ、いつもうれしそうに笑っていた犬の穏やかな老境|ハッピー(19歳)
  • 第5話 野犬の巣穴から保護されるも脳障がいで歩行困難 でもいつでも両脇にパパとママの笑顔があるから、しあわせいっぱい!|みるちゃん(今日で1歳)
  • 第6話 自宅全焼でヤケド後も外にぽつんと繋がれっぱなしだった犬 新しい家族と出会い笑顔でお散歩の日々|くま(8歳)
  • 第7話 飼い主を亡くし保健所で2年を過ごしたホワイトシェパード 殺処分寸前に引き出され自由な山奥暮らし|才蔵(8歳)
  • 第8話 「置いていったら、死ぬ子です」福島第一原発警戒区域でボランティアの車に必死ですがった犬|ふく(19歳7ヶ月で大往生)
  • 第9話 「歯茎とペロ」の応酬で烈しくじゃれ合う元野犬の寺犬たちが「仏性」を開くまで|こてつとなむ
  • 第10話 生後間もなく段ボール箱で道の駅に捨てられていた兄弟 仲良く年をとってカフェの「箱入り息子」として愛される日々|まる・ひろ(13歳)
  • 第11話 人間が怖くてたまらない「噛み犬」だったセンター収容の野犬の子 譲渡先で猫にも大歓迎され一歩一歩「怖いこと」を克服 |小春(8か月)
  • 第12話 愛犬を亡くして息子たちは部屋にこもった 家の中を再び明るくしてくれたのは、前の犬と誕生日が同じ全盲の子|ゆめ(もうすぐ2歳)
  • 第13話 「怖くてたまらなかったけど、人間ってやさしいのかな」 山中で保護された野犬の子、会社看板犬として楽しく修業中|ゆめ(3歳)
  • 第14話 戸外に繋がれたまま放棄された老ピットブル 面倒を見続けた近所の母娘のもとに引き取られ、「可愛い」「大好き」の言葉を浴びて甘える日々|ラッキー(推定14歳)
  • 第15話 土手の捨て犬は自分で幸せのシッポをつかんだ「散歩とお母さんの笑顔とおやつ」…これさえあればボクはご機嫌|龍(ロン・12歳)
  • 第16話 動物愛護センターから引き出され、早朝のラジオ体操でみんなを癒やす地域のアイドルに|カンナ(10歳)
  • 第17話「もう山に返したい」とまで飼い主を悩ませたやらかし放題の犬 弟もできて家族の笑顔の真ん中に|ジャック(3歳)
  • 第18話 飼い主は戻ってこなかった…湖岸に遺棄され「拾得物」扱いになった犬が笑顔を取り戻すまで|福(推定2歳)
  • Post
  • Share
  • LINE

-保護犬たちの物語, 連載
-ペット, 保護犬, 保護犬たちの物語, 動物愛護, 犬, 犬との暮らし

author

関連記事

家にいるのに"やっぱり"家に帰りたい【第1回】幸せになれる魔法の呪文|クォン・ラビン 桑畑優香 訳

【第1回】幸せになれる魔法の呪文 「大丈夫」と言われたい 日々の暮らしで、自分はひとりぼっちなんだとまざまざと感じる瞬間がよくある。 1. 体調を崩し、つらい体を引きずりたどりついた病院の待合室で、付き添いの人がいないのは自分だけだと気づかされたとき。 2. 人間関係にトラブルを抱えているわけではないのに、スマートフォンの連絡先に、“いますぐ”連絡できる人がいないと気づいたとき。 3. 何か、誰かにすがりたいのに、頼れる人や場所がどこにも見つけられないとき。 4. 悲しみや怖れがこみ上げ涙をこぼしても、そ ...

モヤモヤしながら生きてきた【第12回】言葉を紡ぐ|出田阿生

【第12回】言葉を紡ぐ 世の中は悪くなる一方なのかもしれない… 年末は、しんどいニュースが続いた。 ここ数年、大勢の女性が声を上げ、世の中が少し変わってきている気がしていた。 それなのに、また振り出しに戻った感覚に襲われた。 何をしても世の中は変わらないのかなと思うと、どうにも気力がわかない。いや、悪くなる一方なのかも。今もうつうつとして、キーボードを打つ手がつい止まってしまう。 まずは性暴力事件の裁判だ。 大阪地裁。部下の女性検事に性暴力を振るったとして起訴された大阪地検の元検事正が、無罪主張に転じたと ...

事故物件の日本史【第7回】凶宅が「福」に転じる場合とは?|大塚ひかり

第七章 人を滅亡させる凶宅、人に福をもたらす凶宅 凶と福は紙一重 第五章(池袋の女)では、家に憑いて、その家を富ませる一方、いったん貧しくなり始めると、滅亡させるお崎狐という憑き物が信じられていたことについて触れた。 家の吉凶には、人間以外の何ものかが絡んでいるという考え方は古代中国にもあり、干宝<かんぽう>(四世紀半ばころ)による志怪小説集(志怪は怪を志<しる>すの意。奇談集)『捜神記』にはこんな話が語られている。以下、竹田晃による訳を引用すると、 「臨川(江西省)の陳臣は大金持 ...

本屋さんの話をしよう【第15回】書店の「界隈」化はじまる│嶋 浩一郎

【第15回】書店の「界隈」化はじまる 最近よく目にする言葉「界隈」  ちかごろ、「界隈」という言葉をあちこちで目にしませんか? Z世代が多用する用語で、同じ嗜好性を持つ人たちを意味します。#(ハッシュタグ)とともに使われることも多いですね。たとえば、「ジャニオタ界隈」のように「推し」が共通の人たちを表現するのに使われます。渋谷109のマーケティング研究部門である「SHIBUYA109 lab.」が2024年のトレンド予測で取り上げて話題になったのが「#自然界隈」。それは単なるピクニックじゃないのか?と年配 ...

試し読み|BTSのVも読んだ!話題の韓国エッセイ『家にいるのに家に帰りたい』④

特集記事を公開しました

https://korekara.news/wp-content/uploads/2024/07/hoboneko.mp4

連載一覧

関連サイト

    • 運営会社
    • 利用規約
    • プライバシーポリシー
    当サイトに掲載されている記事、写真、映像等あらゆる素材の著作権法上の権利は著者および辰巳出版が保有し、管理しています。これらの素材をいかなる方法においても無断で複写・転載することは禁じられております。

    コレカラ

    © 2024 TATSUMI PUBLISHING CO.,LTD.